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東京バレエ団『眠れる森の美女』デジレ王子を競演する柄本弾・宮川新大・大塚卓が語る"ザ・王子様"の極意

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東京バレエ団(左から)大塚卓、柄本弾、宮川新大

東京バレエ団が、2025年4月24日(木)~29日(火・祝)に「上野の森バレエホリデイ 2025」の一環として、古典バレエの最高峰『眠れる森の美女』全3幕プロローグ付を上演し、6月に大分、岡山、大津でも公演する。本プロダクションは、東京バレエ団60周年記念シリーズ2として2023年11月に初演。団長(当時芸術監督)の斎藤友佳理が新演出・振付を手がけ古典の"薫り"を保ちつつ今見ても新鮮な舞台を生んだ。待望の再演を控え、再びデジレ王子を踊る柄本弾、宮川新大、初役の大塚卓に、斎藤版『眠れる森の美女』の魅力や役作りについて聞いた。


■創立60周年シリーズが無事閉幕、大黒柱・柄本弾が栄えある受賞!

――つい先日、柄本さんが令和6年度(第75回)芸術選奨文部科学大臣賞(舞踊部門)を受賞されました。特にクランコ版『ロミオとジュリエット』ロミオと『ザ・カブキ』(振付:モーリス・ベジャール)由良之助の演技が評価されました。今のお気持ちを聞かせてください。

柄本弾(以下、柄本) このような大きな賞をいただけるとは思いもよらず驚きました。舞台は一人では成り立ちません。仲間や先生方、スタッフの皆さん、お客様、すべての方の支えに感謝しています。何よりもうれしいのは、ロミオと由良之助の演技を評価していただけたことです。とくに『ロミオとジュリエット』は5月と6月の公演の間に少し時間があり皆で練り上げ、いい舞台にできたので、そういった部分が評価につながったのであれば喜ばしいです。

――贈賞理由に「60周年を迎えたバレエ団における氏の実績は高く評価できる」とあります。2023年10月に金森穣さんが演出振付した『かぐや姫』世界初演から始まった東京バレエ団創立60周年記念シリーズが、今年2月のベジャールの『くるみ割り人形』で掉尾を飾りました。シリーズ全体を通しての印象・手ごたえを振り返っていただけますか?

柄本 あっと言う間でしたが大変でした。公演の間隔が短かく、リハーサルの同時進行が多かったです。しかし、多くの作品に出演できるのはダンサー冥利に尽きるので充実していました。

宮川新大(以下、宮川) 60周年祝祭ガラ〈ダイヤモンド・セレブレーション〉(2024年8月~9月)が大変でした。『エチュード』(振付:ハラルド・ランダー)を踊り、休憩を挟んで『ドリーム・タイム』(振付:イリ・キリアン)に出ました。『エチュード』ではやりたかったエトワールのパートを踊りました。本当のピュアなクラシック・バレエをお見せする作品なので、ごまかしがききません。それを海外からのゲスト抜きにやるのは(団長の斎藤)友佳理さんの目標でもあったので、実現できてうれしかったです。とくに初日は、友佳理さんが芸術監督になった年に入った同期の(秋元)康臣さん、(秋山)瑛、僕が主役だったので感慨深かったです。

大塚卓(以下、大塚) 『かぐや姫』の翌月に『眠れる森の美女』を初演し、新制作の全幕バレエしかもタイプが全く違う作品が同時並行で進みました。そこを乗り越えたので、その後も公演間隔は詰まっていましたが気が付くと終わっていた感じです。僕自身は『かぐや姫』帝が印象に残っています。金森さんが僕に振付してくれたので、すんなりと役に入り、自分にしかできない踊りができたのではないかと考えています。そこでの役作りの経験がクランコ版『ロミオとジュリエット』ロミオや『ザ・カブキ』塩冶判官に活かせたと思います。


■古典の"薫り"が息づく、斎藤友佳理 新演出・振付『眠れる森の美女』

――今回再演する新演出『眠れる森の美女』は、世界情勢の急激な変化を受けて初演が当初の予定より1年後ろ倒しになったという経緯がありましたが、結果的に60周年シリーズの大きな目玉となりました。斎藤版では、善の妖精リラの精の存在がより大きくなり、長い眠りにつくオーロラ姫にデジレ王子を出合わせる"洗礼の母"となります。初演時に印象に残ったことは何ですか?

宮川 友佳理さんは伝統的な部分は絶対に壊さない、王道を崩さないという芯を持っています。また『眠れる森の美女』に限らず、ダンサー個々のよい点を尊重してくれます。作品に固執し過ぎないけれど芯はあって、ダンサーそれぞれが引き立つようにしてくれるのが大きいですね。

柄本 新大くんの言う通りだと思います。

宮川 第2幕でデジレ王子はオーロラ姫の幻影を見ますが、多くの版では二人が組んで踊ると思うんです。でも、僕たち東京バレエ団の舞台では、王子が常に幻影を追いかけます。コール・ド・バレエ(群舞)が壁を作り、オーロラ姫に届きそうだけど届かない距離を表します。あまり組まないという振付が新鮮でした。

柄本 「追いかける」というのは難しい表現です。でも、デジレ王子を演じる上でいかに自分なりに表現できるかが試されるし、それによって物語が展開する大事な場面です。


■デジレ王子役を演じるにあたっての難しさ・楽しさとは

――デジレ王子像をどのように捉えていますか?

宮川 第2幕になってデジレ王子が登場しますが、最初からキラキラしている訳ではありません。そこから身分の違いを出すのが簡単ではないです。デジレ王子って、ザ・王子、白馬に乗った王子様なんですよ。『白鳥の湖』や『くるみ割り人形』であればドラマティックな感情に助けられる部分もありますが、『眠れる森の美女』のデジレは、最初から最後まで王子様。「リラの精に引き寄せられて、オーロラ姫のもとへ向かう」という王子像を何度も練った記憶があります。

柄本 生粋の王子を表現するのは課題でした。演技をやり過ぎてはいけないんですね。オーロラ姫に口づけをして彼女が目が覚ますまでの過程で、やり過ぎず、いかにストーリーを表現できるかが、デジレ王子役のポイントでしょう。『白鳥の湖』第3幕のジークフリート王子のように誰かを愛してというような演技はできません。マイムやリアクションを大きくはできないけれど、物語を語るために内面も出さなければいけないので大変です。

宮川 弾さんがおっしゃるように、幻影の場面では振りに助けてもらえない部分が多いですね。そこが難しさでもあり、楽しい部分でもあります。自分との戦い、挑戦ですね。第3幕のグラン・パ・ド・ドゥも、ただオーロラ姫と組んでいるだけではなくて、手の出し方や角度といった細かい部分を追求していくのが性に合っています。

大塚 今回初めて踊りますが、前回、幻影の場面でデジレ王子がオーロラ姫に触れず追いかける演出に驚きました。しかし、劇場に入り、美術と衣裳が付くと「友佳理さんは、こういう世界観を表現したかったんだ。僕も好きだな」と感じました。お二方のお話をうかがって、友佳理さんの演出・振付は深い意図があるのだという新たな気づきがあります。第2幕のリハーサルが大変そうなので覚悟しています。第3幕のグラン・パ・ド・ドゥについては、前回アンダースタディだったので、振付を入れるリハーサルにも数度参加しました。手の出し方一つ、ポーズ一つにこだわりがあって、先輩方が苦労されているのを目にしているので、こちらも覚悟して臨みます。


――柄本さんは、前回に続いてにデジレ王子とは別の回に悪の精カラボスも演じますね。

柄本 今日は王子様の話なのに申し訳ないのですが(笑)僕はカラボスのようなキャラクターが大好きです。前回『眠れる森の美女』を新制作すると聞いて、真っ先にカラボスをやりたいと願いました。果たしてカラボスを男性がやるのか、それとも女性がやるのか。友佳理さんの版は、最初から男性も女性もカラボスを演じる、世界的にも珍しい演出になりました。僕としては、王子とカラボスの両方をやることによって、学べる幅が広がり、ありがたかったですね。カラボスは王子とは違い、周囲との絡みも多くなるので大変です。でも、最初に現れる場面は演技の密度が濃いので個性が存分に出せますし、物語を展開する上で重要な役です。


■オーロラ姫役は、永久メイ(ゲスト)と東京バレエ団が誇る名花たち

――宮川さんは東京公演で永久メイさん(マリインスキー・バレエ)と共演します。

宮川 この間のベジャールの『くるみ割り人形』にジル(・ロマン)さんが出てくださり、東京バレエ団の作品を通して共演できたのがうれしかったのですが、永久さんをお迎えするのも楽しみです。もちろんプレッシャーはありますが、第1幕でオーロラ姫と共演し、永久さんを支える4人の王子たちの方が緊張しているかもしれません(笑)。

――大津公演では、沖香菜子さんと組みますね。

宮川 入団当初からたくさん組ませていただいています。『眠れる森の美女』では初めてですが、永久さんが来日する前にも一緒に練習することになりそうです。

――柄本さんがデジレ王子を務める際のオーロラ姫は前回に続いて金子仁美さんです。

柄本 オーロラ姫の方が王子よりも肉体的にハードなので、前回はグラン・パ・ド・ドゥで彼女に負担をかけないように支えることが課題でした。本番は素晴らしかったです。前回を超える仕上がりにもっていきたいです。

――大塚さんは秋山さんと共演します。彼女とのパートナーシップはいかがですか?

大塚 瑛さんは頼もしいパートナーです。練習にいっぱい付き合ってくださり、役作りなどの話し合いにも何度も応じてもらえますので、充実した時間になると思います。

――公演に向けて一言お願いします。

柄本 気負わずに踊りたいです。卓くんみたいに新たな役でデビューする人がたくさんいますし、主演のペアは皆個性が違うので、1度ならず、2度、3度と楽しんでいただきたいですね。

宮川 永久さんと踊らせていただくのはとても光栄です。永久さんが国内で全幕の主役を踊るのは初めてですから、バレエ団皆でサポートして、いい舞台を創りたいです。

大塚 昨年大きな怪我をしてから復帰し、それ以降は毎日を悔いがないように過ごしています。今できることを少しずつやって本番を迎えたいです。

取材・文=高橋森彦
撮影=敷地沙織
【衣裳協力】
衣裳協力(宮川新大、大塚卓)
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