石丸幹二「これぞチャップリンが残したかった作品」~まもなく開幕する、音楽劇『ライムライト』公開稽古場&囲み取材レポート
チャールズ・チャップリンの晩年の同名傑作映画を原作とした、音楽劇『ライムライト』。2015年の初演、2019年の再演に引き続き、2024年8月3日(土)から東京・日比谷シアタークリエほかで5年ぶりに上演される。
初日まで2週間あまりとなった7月17日(水)、都内で行われている稽古が公開され、老芸人のカルヴェロ役を務める石丸幹二、カルヴェロを献身的に支えるヒロインのバレリーナ・テリー役の朝月希和、テリーに想いを寄せるネヴィル役の太田基裕が登場した。
【ストーリー】
1914年、ロンドン。ミュージック・ホールのかつての人気者で今や落ちぶれた老芸人のカルヴェロ(石丸幹二)は、元舞台女優のオルソップ夫人(保坂知寿)が大家を務めるフラットで、酒浸りの日々を送っていた。
ある日カルヴェロは、ガス自殺を図ったバレリーナのテリー(朝月希和)を助ける。テリーは、自分にバレエを習わせるために姉が街娼をしていたことにショックを受け、足が動かなくなっていた。
カルヴェロは、テリーを再び舞台に戻そうと懸命に支える。その甲斐もあり歩けるようになったテリーは、ついにエンパイア劇場のボダリング氏(植本純米)が演出する舞台に復帰し、将来を嘱望されるまでになった。そして、かつてほのかに想いを寄せていたピアニストのネヴィル(太田基裕)とも再会する——。
この日、公開されたのは2幕の冒頭15分ほどのシーン。テリーがエンパイア劇場のオーディションに挑み、見事合格。テリーがカルヴェロに思いを打ち明けるほか、テリーとネヴィルが再会を果たすシーンも披露された。短いシーンながら、テリーによるつい見惚れてしまうバレエシーンや、カルヴェロの「テリーのテーマ」、ネヴィルの「テリーとネヴィル」と2曲の歌唱も。それぞれの登場人物の思いが交錯する場面で、きゅっと胸が締め付けられる。初日までおよそ2週間。どんな再再演を魅せてくれるのか、より楽しみになった。
公開稽古のあと、石丸幹二、朝月希和、太田基裕が取材に応じた。
ーー皆さんが今回演じられるお役はどんな役なのか。役どころのご紹介からお願いいたします。
石丸幹二(以下、石丸):私、演じますカルヴェロという役は、ひと昔前に大成功し興行でトップの人だったが、時代の流れによって映画などができ、取り残されて落ちぶれてしまった……そんな男の役です。彼が偶然ですね、 同じアパートに住んでいるテリーさんと出会って、彼女が命を落とそうとしている場に立ち会ってしまい、自らも生きる望みがなかったけれども、2人で共に生きていこうねというような話になったところで、2幕が始まっておりました。
そのような、いわゆる頂点からどん底に落ち、上に這い上がろうともがいている男です。そして、彼女に出会って運命が変わりました。
朝月希和(以下、朝月):私が演じますテリーの役は、物語の冒頭では人生に絶望して自ら命を絶とうとするところを、石丸さん演じられるカルヴェロに命を救っていただいて、生きる意味や活力、愛など、たくさんのものを与えていただいて、再び舞台に戻ることができるバレリーナです。
本日お稽古を公開させていただきました2幕がちょうどその舞台に戻らせていただき、またこれからバレリーナとして、というところでした。
太田基裕(以下、太田):僕は若き作曲家のネヴィルという役を演じてます。朝月さんが演じるテリーに救われた過去がありまして、それで再会を果たし、恋し続けるという、キラキラした役でございます(笑)。
ーー今回は5年ぶり3度目の上演。この10年近くの間で、作品に対する考え方など、石丸さんご自身の変化がありましたら教えてください。
石丸:そうですね。9年前、約10年前ですよね。この作品を演劇としてお客様の前で 上演するということが世界初だったということで、そこにたどり着くまでに色々なことがありました。でも、それはいろいろな方たちのお力添えがあってのことで、いわゆるチャップリンさんのご遺族の方がそうそうには許可しないことなんです。でも、熱い思いをもって、日本のチャップリン協会の代表・大野(裕之)さんが足繁く通ってくださいまして、理解をしていただき、日本で世界初演でこの作品を上演することが叶いました。
で、その際に、私もいちチャップリンファンではあったんですが、チャップリンについてどこまで知ってるかというと、いわゆるトレードマークのちょび髭、ステッキを持って、 帽子をかぶって……というチャップリンさんのイメージが非常に強かった。でも『ライムライト』という作品を改めて見ると、チャップリンさんが演劇人として残したいメッセージをたくさんこの作品に書き記しているんだなということに気づき、それを後世に伝えるのが私たちの役目なんじゃないかなと。そんな思いを持って、9年前に上演したことを思い出します。
これは1回やって終わりという作品ではないと思いまして。映画は皆さん機会があれば、今やもうブルーレイなどもございますから、見たいときに見られる。演劇も、私たちの肉体を通してね、 何度でもお客様に訴えかけていきたいと、そういう強い思いが働き、これは事あるたびに再演という形ができたら嬉しいなと思い、19年、そして今回24年と実を結びつつあるところで、皆さまの前にまた再登場という形になっております。
私の中の思いというのは、やはり9年経って、私もチャップリンがこのカルヴェロ役を演じた60代にだんだん近づいてきておりまして。カルヴェロが言いたかったこと、いわゆるチャップリンさんが言い残したかったことが、より理解できてくるような気がしております。
ですから今回3回目ですけども、 以前とは違う感じ方や発し方で、横にいる朝月さん、太田くんらから刺激をもらいながら表現できるのではないかなと。また前回を超えていこう。そんな思いで今おります。
ーーテリーとネヴィル役は毎回キャストが変わってきました。それぞれの印象はいかがでしょう。朝月さんとは初共演ですよね?
石丸:そうですね。私は、彼女が宝塚のトップ娘役さんをされていた、その生の舞台は拝見できてないんですけども、スカイ・ステージという宝塚歌劇専門チャンネルの中で彼女の舞台姿を拝見しておりまして。とても踊りに秀でた、お芝居も熱い、そして色々なキャラクターを演じ分けることができる彼女に出会えるんだという、その思いでワクワクしながら稽古初日に迎えたのを覚えております。
そして、トゥシューズを履いて踊り始めたときに本当にびっくりしたんです。誰しも言ってましたけど、うまい! だからプリマ・バレリーナそのものだということを実感しまして。 まだまだ稽古は続きますが、より素敵な踊りを皆さまにも見せてください。
朝月:頑張ります。この作品に参加させていただき、テリー役として出演できますことは、大変光栄で嬉しく、すごく身の引き締まる思いなんですけれども、実際にお稽古が始まりましたら、石丸さんはもちろん、他のキャストの皆さまも本当に素晴らしい方々ばかりで。皆さまがとても大きくいてくださいますので、すごくもがきながらも飛び込んでいける。そのような稽古場を皆さまが作ってくださっています。今は毎日必死に石丸さんに体当たりするように、色々お稽古させていただいております。
ーーバレエのシーンも多く、大変ですよね。
朝月:本日初めて皆さんの前で踊らせていただいて、本当のオーディションの感覚になりまして。でもオーディションって、こういう緊張感で、これぐらいの胸のドキドキ感や高鳴り感、そわそわ感があるのかというのを、すごく実感して学ばせていただきました。1幕では足が動かなかったテリーが足が動くようになって、喜びだったり軽やかさだったり、そういうものをもっと踊りにて表現できるようにお稽古していきたいなと思います。
ーー石丸さんと太田さんは『スカレート・ピンパーネル』(2016)で共演して以来ですね。
石丸:久しぶりの共演ですが、彼は変わらないんですよ。
太田:それは幹二さんも!
石丸:と、お互い言い合っているんだけど(笑)、でも俳優ってそんなものかもしれませんね。でも、『スカーレット・ピンパーネル』のときは私のピンパーネル団の一員だったんですけど、今回、個の太田くんとご一緒することになって、 非常に彼はこういう人なんだな、こういう人だったんだなということを肌に感じています。
とってもね、チャーミングだし、今までのネヴィルとは全然違うキャラクターで作っている。湧き出しているのかな。 ご自身の中のものが役にうまく乗っかってて、こういう力を持ってるんだ彼は、と改めて思って実感しているところですね。 本番に向けてもっともっと稽古が重なると、(演出の)荻田(浩一)先生のご意見もありますし、いろいろなキャラクターの中で揉まれながら新たなネヴィルが作られていくかもしれませんけど、舞台上でまたどうなっていくのかも非常に楽しみです。
太田:いやもう、幹二さんが演じるカルヴェロを見ていて、もう幹二さんと重なって見えるというか、そのものだという感覚がありまして。勝手ながら、もう一生カルヴェロをやってほしいなと思っちゃうぐらい! もうそこに存在するという説得力がありまして。温かい現場で共演させていただけて、すごい感謝の気持ちでいっぱいです。
他の役者さんもすごく余白と余韻をすごく楽しんでいる方ばかりで、俳優としての緊張感を持ちながらも、その空気やシーンを楽しんで演じているのが伝わってきて、非常に勉強になります。僕もネヴィルとして『ライムライト』の世界観で楽しんで生き生きとやれるか。それを今稽古しながら模索している感じです。
ーー皆さんのお気に入りのシーンは?
石丸・朝月・太田:たくさんある!
朝月:私は今ぱっと思いつきましたのが、1幕でカルヴェロさんがテリーの夢を見たとき、ちょっと歌うシーンがあるんですけど、あそこがすごく心がウキウキするような、元気をもらえる、とても素敵なシーンだなと。
石丸:なるほど。ここには今はないんですけども、カルヴェロの部屋のセットがあって、妄想の時間が始まると、区切られたものから次元を超えて、フロア全部を使いながらの“妄想劇場”があるんですよ。荻田さんの発案なんですけども、みんながのびのびできるような時間になってますよね。
朝月:はい、皆さん、すごく素敵です。
太田:本当に素敵なメロディーがたくさんあって! 「ロンドンの〜♪」と幹二さんが歌われる前のセリフ中のコードもたまらない。
石丸:少ない人数ではあるんですけども、個々がキラキラするようなシーンだらけでして。テリーとネヴィル以外はいくつか役を持っているんだよね。僕も持っているから。そのキャラにガラッとみんな変わって出てくる。これがね、見どころのひとつになってきます。
ーーもう2週間ほどで幕が開きますが、観客の皆さまへメッセージをお願いします。
石丸:ちょっと今ドッキリさせないでください(笑)。
太田:なんか変な汗が出てきた(笑)。でも、素敵なキャストの皆さんとスタッフの皆さんと、そして、劇場に行ったらお客様と一緒に作り上げていく素敵な空間になると思いますので、 稽古を最後まで頑張って、素敵な『ライムライト』を見せられるように頑張っていきたいなと思っております。よろしくお願いします。劇場で待っております!
朝月:この作品は本当にすごく心に響くメッセージがたくさん詰まっている作品で、観終わった後に、悲しみ、切なさ、温かさ、希望、といろいろな思いが湧き上がってくると思います。それをお客様にお届けできますように、精一杯頑張って稽古してまいりたいと思います。よろしくお願いいたします。
石丸:2週間なんて聞いちゃって、まだやりたいことがいっぱいあるのに、もうちょっと稽古したいな〜という思いが今ありますけども。でもそのぐらい色々な可能性を秘めた、そんな作品になっております。
ここからの2週間、どんなことが起こって、お客様の前で一体どんな姿をお届けできるのか。それを私も楽しみにしておりますし、劇場にいらっしゃるお客様が前回とはまた一味違う……荻田さんがかなりタッチを入れてますので、 全く同じセリフを喋って、同じ歌を歌ってるにも関わらず動きが違ったりするので、そういうところを楽しみにいらしてくださればと。再再演をご覧になるご覧になる方は。
初めてご覧になる方は、これぞチャップリンが残したかった作品だと、 言葉だと。それを受け取っていただけるよう、私たちも精進してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
取材・文・撮影=五月女菜穂