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「食べたら美味しかった?」人間に食べられた妖怪たちの伝承

草の実堂

画像 : 猯 public domain
画像 : 食うか食われるか。この世は弱肉強食なのである。 pixabay cc0

妖怪は古来より、恐怖の象徴とされる存在である。

その中には、生きた人間を捕らえて喰らうという、戦慄すべき伝承を持つものも少なくない。

しかし一方で、妖怪が逆に人間に食べられるという異色の伝説も伝えられている。

今回は、そんな一風変わった「美味しい妖怪」について紹介していきたい。

1. 猯

画像 : 猯 public domain

(まみ)とは、日本に伝わる幻獣である。

江戸時代の医師・寺島良安(1654~?)が著した百科事典『和漢三才図会』によれば、猯は穴に棲む獣であり、動きは鈍重で、聴覚を持たないとされる。

その肉はあらゆる獣の中で最も美味であり、瀕死の人を回復させる効力まで有しているという。

その正体は、アナグマではないかと考えられている。
アナグマは地中に穴を掘って棲み、動きが緩慢で、その肉は美味で食材としても人気がある。

一方で、アナグマと混同されがちなタヌキは、肉に強い臭みがあり、食用には適さない。
できることなら避けたい食材といえるだろう。

2. 訛獣

画像 : 訛獣(かじゅう)イメージ 草の実堂作成(AI)

訛獣(かじゅう)または(たん)は、中国の伝承に登場する妖怪である。

漢代の文人・東方朔(紀元前154~紀元前93年)が著した『神異経』にて、存在が語られている。

その姿は一見ウサギに似ているが、虎柄の模様を持ち、顔は人間のようだとされる。
非常に弁の立つ妖怪であり、その話術の巧みさは、あらゆる動物が話を聞きに集まって来るほどだったという。

まるで仏教の涅槃図に描かれた、釈迦の説法に聞き入る動物たちを思い起こさせる情景である。
だが、聖人である釈迦と違い、訛獣は極めて悪辣な存在であり、その口から出る言葉の全てが出鱈目・嘘八百である。

他者を騙しては嬉々とする、できれば関わり合いになりたくない、ロクでもない妖怪だといえよう。

当然そんなことをしていれば恨みを買うわけで、捕らえられ屠殺されることも、しばしばあったそうだ。

その肉は鮮やかで非常に美味だとされるが、一度でも口にしてしまうと、二度と正しいことを言えなくなる致命的な副作用を有していたとされる。

ジビエとしての価値すらない、まさに百害あって一利なしの害獣と言わざるを得ない。

3. アマダツ

画像 : アマダツ 草の実堂作成(AI)

アマダツは、薩摩藩士の名越左源太(1820~1881年)が著した『南島雑話』にて、言及されている怪異である。

その姿は巨大な爬虫類のようであり、硬く鋭いウロコに覆われているという。
九州の奄美大島では時折、海からこのアマダツが這い上がってくることがあり、島の人々を恐れさせていたという。

ある時、住用村という村の住民が、アマダツを捕らえることに成功したそうだ。
村人たちは総出で、この怪物を滅多打ちにして仕留めた。

その後、アマダツの肉を食ってみようという話になったが、もし毒を有していたら危険ということで、まず最初に老人たちが毒見をすることになったという。

老人たちが、煮たアマダツの肉を恐る恐る口に運んでみたところ、これがなんとも美味であり、例えるならウミガメによく似た味がしたとのことだ。

こうしてアマダツは、村人たちに美味しく食されたのである。

その正体は、東南アジアに生息する「イリエワニ」だと考えられている。

イリエワニは、主に汽水域(川と海の中間)に生息しているワニであるが、海流に乗って非常に広い範囲を泳ぐことで知られている。
稀に日本まで泳いでくる個体もおり、奄美大島や西表島、八丈島などで発見例があるそうだ。

当時の日本人にとってイリエワニは未知の怪物であり、妖怪扱いされたのも頷ける話である。

4. 狗頭鰻

画像 : 狗頭鰻 草の実堂作成(AI)

狗頭鰻(くとううなぎ)は、中国の伝承に登場する怪物である。

清代の画家・呉友如(1840~1894年)の画集『呉友如画宝』などにて、その存在が言及されている。

中国最大の河川・長江に生息するとされた巨大なウナギで、その大きさは7~8尺(約2.1~2.5m)とも、3丈(約9m)とも語られている。

犬のような頭部を持ち、口に生えた牙は異常に鋭利で、噛まれた者は即死するほどであったとされる。
気性は荒いが知能は高く、時には人間をも捕食する恐るべき怪物として忌み嫌われていたという。

かつて、とある兄弟が狗頭鰻の襲撃に遭い、兄の方が食い殺されるという事件が起こったそうだ。
弟と父親は復讐を誓い、このウナギを抹殺すべく計画を練り始めた。

狗頭鰻は岸に乗り上げ、地面に体を擦り付ける習性を持っていた。

そこで弟と父は、予め岸に粟殻を撒いておき、さらにその周りに多数の落とし穴を仕掛けることにした。
やがてウナギが岸に乗り上げると、粟殻がベタベタとくっつき、思うように体を動かせなくなった。
ウナギは川に戻ろうと必死に体をくねらせたが、勢い余って落とし穴に落ちてしまう。
すかさず弟と父はウナギを滅多刺しにし、見事討ち取ることに成功したという。

弟と父は兄への弔いのため、ウナギの肉を食べることにした。

その肉は非常に脂が乗っており、濃厚な旨味があったと伝えられている。

参考 : 『世界幻獣事典』『妖怪図鑑』他
文 / 草の実堂編集部

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