【最低賃金引き上げ】最低賃金が上がるとどんな影響が出る?静岡県内の景気はどうなる?静岡新聞のデスクが解説します!
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「最低賃金引き上げ」です。先生役は静岡新聞の高松勝ニュースセンター専任部長です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年8月5日放送)
(山田)今日のテーマは「最低賃金」ですね。
(高松)厚生労働省の審議会は7月下旬、全都道府県の最低賃金について、時給で一律50円引き上げる目安額を正式決定しました。目安額で全国平均の時給は1054円となります。静岡県も含め、都道府県の地方審議会が議論を本格化させ、実際の改定額を決めていきます。最低賃金が上がると、働く人、企業それぞれにどのような影響があるのか、県内の景気はどうなるのか考えていきます。
(山田)最低賃金を全国で一律50円上げていこうよ、と。
(高松)そうですね。厚労省の審議会が全国の目安額を決めまして、今これが各都道府県レベルに降りてきています。ちょうど静岡は今日(8月5日)、審議会が静岡県の金額はどうしようかという議論をやっています。静岡も初の1000円超えになるかというところですね。
(山田)今、最低賃金の表をいただいて見てますけども、現在静岡県は984円で、これが50円アップになると1034円になりますよということですね。
この話は僕の中ではすごくタイムリーです。先週、大学のオープンキャンパスのバスツアーに行って、大学生からいろんな話を聞きました。その大学は横浜にあって、東京の品川でスーパーのレジ打ちのアルバイトをしているよという大学生がいて、時給は1300円だと。だから「地元に帰って静岡でバイトできないです」って言ってました。
(高松)東京は今の目安だと最低賃金が1163円になる見込みという話なんで、今1300円だってことはその最低賃金でも人が来ないから、もっと高い金額を設定してるということなんでしょうけども。
この議論は昔から言われてるんですけど、隣の県がどうなのかがやっぱりすごく大きくて、静岡の場合は神奈川と愛知が高いので、そちらの方に人が流れちゃうんですよね。だからここをどう埋めるのかっていうのが議論になっています。
そもそも、最低賃金とは、っていう話なんですけども、最低賃金法という法律で決まっています。使用者というか雇用者は最低賃金額以上の賃金を支払わなければいけないと法律で明記されています。もし最低賃金未満の賃金しか払わなかった場合には、差額を支払わなきゃいけない義務もあると。これは全ての労働者というか、パート、アルバイト、派遣など、正社員以外にも全ての働く人に関わります。
(山田)働く人を守る法律、と。
(高松)いわゆる春闘の賃上げの話というのは、労働組合に加盟しているところのみが対象なので、今春で賃上げが非常に盛んだったよって話があっても、労働組合がないような企業とか、パート・アルバイトの人から見るとちょっと関係ないかなみたいなところがあって。今回の最低賃金の話は全ての働く人の収入に関わってくる部分なので、景気動向とも関わってくるっていう点で今年は非常に注目されているわけです。
(山田)最低賃金が下がるってことはあるんですか。
(高松)基本的には下がることはないです。全国平均で10年前で800円弱ぐらいなので、この10年でじわじわと上がってきていますね。ただ、今回の1000円というレベル感が、諸外国の賃上げの状況から比べると全然足りないという議論もあります。この見方が、働く人と経営者の双方でちょっと逆になってると。
(山田)そりゃそうですよね。
最低賃金アップは中小企業の経営には厳しい!
(高松)政府は、方針としては2030年代半ばまでには1500円にしたいと言っていますが、次の10年でさらに500円上げるっていうのが可能なのか。
今、物価高ですよね。賃上げのときとも同じ話になるんですけども、やはりこれだけ食料品やエネルギーがどんどん上がっている状態で、働く側からするとやはり最低賃金が上がってくれないとっていうのはあるんですけども、雇用者側からすると逆に仕入れコストも上がっていて、非常に経費的に厳しい。
最低賃金が上がると当然人件費が上がります。時給が50円上がるっていうことは、1人の働く人の8時間で考えたら400円ですか。それが掛ける人数分、1ヶ月分ってなってくるんで。いまは少し円高傾向になってはいますが、まだまだトータルでは円安みたいな状況なので、中小企業の経営環境から見るとかなり厳しい話です。
(山田)こんなメッセージも来てますよ。最低賃金が上がって時給が上がるのはうれしいけども、私は主婦で扶養内で働いているから結局働く時間が減り、結果会社が人手不足気味になりますと。
(高松)企業にとっては働き方改革の圧力もあるので、生産性をより高めて、より少ない人数で効率のいい働き方をしていく状況にはあるので、そういう意味では最低賃金が上がることによって、企業がより合理的な経営を考えていくことにはつながるかもしれません。
日銀の利上げと最低賃金の関係性は?
(高松)7月31日に日銀が追加利上げを決めているんですけど、この根拠の一つに賃上げが一定程度実現したことがあります。今回利上げを決定したことが、国内消費、個人消費にどう影響するかは注目点です。
賃上げ、利上げ、景気の関係性の議論は難しく、連鎖反応としてこうなっていますが、賃金が上がれば個人の懐事情はよくなっていくんですけど、その結果として利上げになれば将来的には例えば住宅ローンや利子の支払いは上がります。
今回の日銀の利上げは、健全な経済成長が背景にあるから利上げをしても経済成長が続く、という判断です。だから最低賃金が上がることも含め、政府日銀としては個人消費が増えて、景気が力強く動いていくことを期待していますが、一方で実質賃金、実質的な賃金はなかなか上がっていないんですよね。だから最低賃金が上がったり、賃上げが進んでも、果たして、もらう生活者側がじゃあお金使おうとか、夏休みに遠出しましょうとなるか、ということですよね。
(山田)どうなんですか。
(高松)やはりちょっと抑制的になってますよね。7月31日に追加利上げを発表したタイミングもちょっと微妙なところで、消費行動が増える夏の時期にこういうアナウンスが出た出たってことも含めて、リスクはあるのかなという気はするので。
9月に自民党総裁選もあってちょっと微妙な時期ですけど、上がった賃金を皆さんが不安を感じずに消費に回したいとなるような政策誘導みたいなものも必要かもしれません。ちょっと今のマーケットの動きを見ていても、為替も株も含めてちょっと大丈夫かな?みたいな空気になると、景気の冷え込みが起きる可能性があるので。
(山田)心配ですね。
(高松)これから重要なポイントになっていくところですね。
(山田)最低賃金の一律50円増っていうのは、見方によって全然違うということですよね。
(高松)そうですね。静岡県に若い人とか人を呼び込むって意味では、やはりちゃんと時給が良いというのはすごい大事なことです。静岡県に人が来て働いてもらい、住んでもらう上では大きな要素なので、最低賃金が上がる動き自体はいいことなのではと思いますね。
ただ、一個人としての受け止めと、経営者の見方、全体的な景気動向という三つの視点があって、どの視点から見るかによって捉え方が変わるので、非常に難しいなとは感じます。
(山田)今日の勉強はこれでおしまい!