パンダが食べ残した竹が<アオリイカ>の産卵床に? 海の生態系変化の可視化・検証へ【和歌山県白浜町】
和歌山県白浜町の「アドベンチャーワールド」はパンダの食べ残した竹をアップサイクルし、アオリイカの産卵床として設置する活動を今年も継続することを発表しました。
この活動は今年で4年目となっており、6月18日には伊古木漁港に30基、7月3日には大阪府岸和田市の漁港に30基の産卵床をそれぞれ設置予定。また、新たな試みとして「環境DNA調査」を導入し、産卵床設置による海の生態系変化の可視化・検証を行うとのことです。
パンダが食べ残した竹を産卵床に
近年、海水温の上昇や食害により白浜の海の生態系が変化し、アオリイカの産卵場所となる海藻のが減少しています。一方、里山では放置竹林の増加が問題になっているようです。
アドベンチャーワールドでは、こうした竹を伐採しパンダの食事として活用しています。しかし、パンダは竹の新鮮な枝葉の一部しか食べないため、幹や摂餌後の枝葉が大量に残る課題がありました。
そうした中、アドベンチャーワールドは2022年、パンダの食べ残しをアオリイカの産卵床や小型生物が生育する場所として活用する取り組みを開始。パンダが食べ残した竹を束ねて海底に設置しました。
2024年の活動成果は?
アドベンチャーワールドが実施しているアオリイカの産卵床の設置では、これまでに様々な成果が得られています。
2024年の活動の成果として、設置したアオリイカの産卵床64基の大半でアオリイカの産卵を確認したほか、京都大学白浜水族館で展示した卵から2641匹の稚イカの孵化および放流に成功しています。
設置した産卵床にはシワヤハズやタマイタダキなどの海藻をはじめ、小型の甲殻類や多毛類、巻貝の卵塊の付着が確認されています。このことから竹が海藻の成長基盤となり、小型生物が増加した結果、生物多様性の向上が期待されています。
また、普及活動の成果も大きく、京都大学白浜水族館での展示期間中には1万9281人が来場したほか、白浜町立日置中学校の生徒なども産卵床の製作・設置に参加することで沿岸環境を学ぶ貴重な場となったといいます。
2025年度シーズンの主な取り組み
今年で4年目となるこの取り組みでは、6月18日に白浜町伊古木漁港へ30基、7月3日には今回初めてとなる岸和田市内の漁港へ30基のアオリイカの産卵床の設置が予定されています。
また、7月以降は産卵有無や付着している生物の確認のため、ダイビングによる定期調査および竹のサンプリングを実施。産卵が確認された場合、京都大学白浜水族館と連携し、採集した卵塊を展示・孵化させる取り組みが継続され、稚イカの放流が行われるとのことです。
さらに、今シーズンから始まる新たな取り組みとして、京都大学による環境DNA調査が導入されます。
環境DNA調査では海中に存在する生物由来のDNAを海水から解析することで、通常の調査では確認しにくい生物の存在を把握することが可能です。
この調査により、産卵床の設置前後で生物相がどのように変化したのか科学的に検証が行われます。
生態系回復の可能性を探求
パンダの食べ残した竹を産卵床として活用する取り組みではアオリイカの産卵が確認されたほか、小型生物の一時的な生活基盤として機能していることが明らかになりました。
また、竹が海中で分解されていく過程で、その堆積物を餌にする巻貝のい集も確認されています。アドベンチャーワールドでは今後も調査を継続し、竹を活用した生態系回復の可能性をさらに探求していくとのことです。
詳しい情報はアドベンチャーワールド公式WEBサイトで確認することができます。
※2025年6月18日時点の情報です
(サカナト編集部)