わが子が発達障害?心配性夫はネガティブモード…療育、通院、1人で抱え込んだ妻は
監修:森 しほ
ゆうメンタル・スキンクリニック理事
ほかの子どもとわが子は「何かが違う」と気づいた時、夫の反応は?
あーとの生活の中で、意思疎通の難しさ、発達に違和感があり悩んでいた私は、3歳児健診の際に発達相談をしました。そのことがきっかけで、保健師さんの自宅訪問を受け、これまで誰にも相談できなかった不安を受け止めてもらうことができました。そんな頃、あーの父親である夫はどうしていたのかというと……。
わが子がほかの子どもと明らかに違う。襲いくる先の見えない心配と不安。一番近くで見ている母親の私が強く感じるであろうことを、わが家はなぜか夫が一番くらっていたのです。 私が楽観的な性格……というのも多分にありますが、夫の「悲観的すぎる性格、白黒つけたがりな性格、謎に高いプライド」と、「子どもの発達に特性があること」は、あまりにも”悪い方向へ”親和性が高かったのでした……。
わが子が発達障害?ひたすら絶望し続ける夫。環境を整えるために動くのは母親の私だけ……
そもそも夫はあーに発達障害があるとは考えてもいなかったし、発達障害という言葉すらも知らずに生きてきた人です(まあ子どもが生まれるまでは大抵の人がそうだとは思うんですが……)。あーが育てにくいということに気づいたのはもちろん私で、幼稚園やら療育の検討、受診の段取り、全て私。 夫は隣でショックに打ちひしがれているだけ……。いや、ショックを受けるのはいいんです、仕方ない。 みんなそうだろうし、私だってそうだし。でもその不安をいちいち全て私にぶつけてくるのはやめてほしかった……。
あーが気になる行動を取れば「あの子は普通とは違うんだ」、「療育でこういうのやってくれるらしいよ」と私が言えば「療育って効果あるの?発達障害が治るわけじゃないんでしょ?」、挙句「これから俺たちはどうなるんだろう」。カーーーーッ!ひどい!書いてて悲しくなってきた!!!
あまりのことに苦言を呈すれば、「だって心配なんだもん。あの子が大事だからこそ言うんだよ」「あなたは心配じゃないの?」……心配じゃないわけなかろうがー(爆発)!心配だからこんなにバタバタかけずり回ってるんだよ!お前の子がお腹にいるのに(当時二人目を妊娠中でした)!!!
心配性の夫を安心させるために、すべて一人で抱え込むことに
そんなふうに、いちいち私に不安をぶつけ、ネガティブな発言を繰り返す夫に対して憤りを感じているうちに、いつしか私は夫を安心させるため、夫を納得させるために、常に先回りしてあーに関するいろいろなことを済ませていた気がします。すぐに悲観的になる夫を不安にさせないように、あえて幼稚園や病院、療育での不穏な様子やキツめのアドバイスなどは伝えなかったり、たとえショックを受けても夫には見せず明るく振る舞ったり……。夫は頼りにならない、私がしっかりしなければ。夫を不安にさせないように、妻の私が、あーの母親としてしっかり育てねば!なんでもないよって顔して、表面上はニコニコしながら、深く深く傷ついて疲弊していくのに、気づきもせずにいたのでした……。
執筆/よいこ
(監修:森先生より)
よいこさん自身も不安でいっぱいな中、お子さんのケアだけでなくご主人のケアまで……よく頑張られましたね。よいこさんがいろいろと調べて行動しているのに、一番頼りにしたいご主人の理解や協力が得られないと、がっかりしてしまいますし、つらいですよね。
実は、お子さんに発達障害があるということをすぐには受け入れられないという方は非常に多いのです。「そんなはずがない」と否定してしまったり、「◯◯(配偶者、病院など)のせいだ」と怒りをおぼえたり、「そんなに重く考えなくても」と問題から目を背けたり、パニックになったり……そういった段階を経て徐々に現実を受け入れて対策を考えるようになっていく、というパターンを取ることも少なくありません。
キャパシティは人それぞれですので受け入れられるようになるまでの期間も人それぞれです。もちろん、説明・説得してご家族の協力を得られるならばそれがベストです。ただし、ご家族の方自身の不安をぶつけられたり、無理解ゆえに傷付けられたりする場合には、まずはお子さんとご自身を守ることを優先しましょう。
もちろん、治療方針や通院先など、重大な部分を共有しておくことは大切です。ただ、受け入れるまでの期間やプロセスに違いがある以上、「親として同じ目線で一緒に対応すること」を期待してしまうとこじれるケースもあります。お子さんの問題と、「ご家族の方自身の不安感」「ご家族の方に寄り添ってほしいという気持ち」といった問題とは、線引きをすることが必要となることがあります。
溺れている人が溺れている人に手をのばしても、二人して溺れてしまうという事態になりかねません。ご家族の方がまだ発達障害のことを充分に受け入れられていない場合は、重大なことや、どうしても協力してほしいことだけを端的に伝え、ご家族の方の心の準備が整うのを待つといいでしょう。そして一人で頑張ろうとせずに、不安な気持ちがあれば医療機関や行政機関、療育機関のスタッフさんに頼るようにしましょう。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。