「27歳でアルコール中毒死」天才的“歌姫”の壮絶半生を描く『Back to Black エイミーのすべて』
エイミー・ワインハウスの半生描く伝記映画
イギリス出身のシンガーソングライター、エイミー・ワインハウスがロンドンの自宅で亡くなったのは2011年7月23日のこと。死因は「アルコール中毒による事故」で、まだ27歳だった。メディアは天才ミュージシャンの早すぎる死を「“27歳クラブ”の新メンバー」などと報じたが、世界中のファンは彼女の最期を深く悼んだ。
“才能と引き換えに悪魔に魂を売った”と言われるロバート・ジョンソンの名を出すまでもなく、そしてカート・コバーンやブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソンなど同じく27歳で亡くなったアーティストが多いことに特別な意味を見出そうとする人もいる。しかし、KISSのジーン・シモンズが著書「才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?」で書いたように、早すぎる死を美化、神格化するのは浅はかなことだろう。
エイミーが遺した名曲の数々は、聴き継がれるべき永遠の輝きを放っている。そして、なぜあれほどの才能を持ったアーティストが若くして死に至ったのかを知れば、遺された作品をそれまでよりも少しだけ踏み込んで紐解くことができるかもしれない。11月22日(金)より全国公開となる『Back to Black エイミーのすべて』は、“悲劇的な死”を迎えたエイミーの半生にせまる伝記映画だ。
若き女性歌手の輝かしいキャリア、祖母との絆、恋の苦悩
10代のエイミーは、別居中の父ミッチ(エディ・マーサン)と母ジャニス(ジュリエット・コーワン)や、若かりし頃ジャズ歌手だった憧れの祖母シンシア(レスリー・マンヴィル)ら家族に見守られ、歌手としてのキャリアをスタートする。
デビューアルバム「フランク」は成功したものの全米進出を果たせず、悔しい気分で行ったパブで青年ブレイク(ジャック・オコンネル)と出会い、2人は熱烈な恋に落ちる。しかしブレイクは、すぐに元カノとよりを戻して二人は破局。ショックからエイミーは酒やドラッグで問題を起こすようになる。
そんなエイミーを心配したマネージャーはリハビリ施設での治療を勧めるが、彼女は治療を拒否。その後、ブレイクとの失恋を歌った「バック・トゥ・ブラック」が世界的な大ヒットとなり、再会したエイミーとブレイクは誰にも内緒で結婚する。しかし再び関係が悪化したうえ、ブレイクは暴行罪で逮捕されてしまう。
すでにスーパースターとなっていたエイミーはパパラッチに24時間付きまとわれ、長年の摂食障害と依存症に苦しみ、心も体も蝕まれていく。そんな時、グラミー賞主要4部門を含む6部門にノミネートされるが……。
天才歌姫の突然すぎる死
グラミー賞5部門を受賞し、「21世紀を代表するアーティストの1人」と世界的に称賛されたエイミー・ワインハウス。世界中で3,000万枚以上のレコードを売り上げ、現在でも月間8,000万回以上のストリーミング再生数を誇る現代最高の歌姫だが、そういった数字だけでは計れない魅力が人気の根底にあったようにも思う。
しかしデビューからエイミーを見てきたファンにとって、晩年のパフォーマンスは思い出すだに心が痛むものだ。2011年、死の1ヶ月前に開催されたベオグラードでのコンサートでエイミーは、ふらふらとステージに表れ、所在なさげにうろうろとし、バンドメンバーに促されてマイクにたどり着く……。その様子は、明らかに薬物かアルコールの影響下にあるように見えた。検視官によると、彼女の死亡時の血中アルコール濃度は法定基準の5倍を超えていたという。
彼女の半生については、2016年にドキュメンタリー映画『AMY エイミー』が日本公開されているので、その最期を知る人も多いだろう。そして本作『Back to Black エイミーのすべて』は、若くして脚光を浴び、突然の名声に戸惑いながらも、感情むき出しの歌詞に独特のいハスキーボイスで本能のままに歌い続けたエイミーの知られざる素顔に迫る、音楽伝記映画に仕上がっている。
エイミー役を熱演した新鋭マリサ・アベラに注目!
すでに公開済みの世界各国で本作が絶賛されている理由の一つに、キャストの熱演がある。エイミー役を演じるのは奇しくも現在27歳のマリサ・アベラ。英ドラマ『インダストリー』シリーズでメインキャラクターを、そして大ヒット作『バービー』ではガツンとウェーブ巻きブロンドの“ティーン・トーク”バービーを演じていた、今まさにブレイク中の若手スターだ。マリサは当時ゴシップ誌が書き立てたような“放蕩ぶり”ではなく、一人の女性としてエイミー自身を魅力的に演じている。
脇を固めるのは、ジャック・オコンネルやエディ・マーサン、ジュリエット・コーワン、ゴールデン・グローブ賞&アカデミー賞ノミネートの名優レスリー・マンヴィルなど、幅広い世代の英国実力派キャストたち。そして『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(2015年)で世間の物議を醸し、長編デビュー作『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』(2009年)の主演アーロン・テイラー=ジョンソンとの年の差婚でも話題を集めたサム・テイラー=ジョンソン監督が、やさしい眼差しでエイミーとその家族を描き出している。
『Back to Black エイミーのすべて』は11月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほか全国ロードショー