サバの常識が変わった!日本海も危険に。そして広がるアニサキスアレルギー
今日は、魚に寄生する寄生虫「アニサキス」のお話です。暖かくなってくると増えるのが食中毒ですが、体内に入ると激しい腹痛などを引き起こす厄介者、アニサキスについて、最近、新たな研究結果が発表されて、これまでの常識を覆すと話題になっています。
日本海側のサバも注意
国立感染症研究所の客員研究員、杉山 広さんに聞きました。
国立感染症研究所・客員研究員 杉山 広さん
日本の近海にいて、アニサキス食中毒を起こす一番代表的な魚はサバですよね。サバを調べてみると、「太平洋側」に住んでいるサバには、内臓に虫がいるだけではなく、筋肉にも虫が侵入している。そういうサバがたくさんいる、だから危ない。一方、「日本海側」のサバは、内臓に虫がとどまるっていうのが、かつて多かった。日本海側では全然問題がないんだというようなことは昔から言ってたし、寄生虫なんか大丈夫だよとかって言ってたんだけれども。ところが今、「日本海側」のサバにも「太平洋側」のサバと同じように、筋肉にまでアニサキスが寄生しているサバがの数が増えてきた。だから、お寿司で食べた時に内臓だけじゃは捨ててしまうけれども、筋肉は食べるから感染しやすい。日本海はもう、太平洋と同じですね。同じようなアニサキス食中毒に感染する危険性が高まってきたということですね。
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アニサキスはアジ、イワシ、サンマなどにも寄生しますが、今回調べたのは、全国のマサバ。その結果、「日本近海のどんなところのサバでも、アニサキスが寄生する可能性がある」とわかったんです。
実はアニサキスにも種類があって、これまでの常識では、「日本海側のサバは安全」とされていました。というのも、もととも太平洋側のアニサキスは「活性が高い」。サバの内臓から身の中に移動してしまうことが多かったそうです。
一方で、日本海側のアニサキスは「活性が低い」。つまり動きが少なく、魚から内臓だけ取ればリスクは低いと言われていたんですが、ところが今回の調査で、この説が覆されました。
ではなぜ、分布が変わってきたかというと、海の温度が上がっていたことなどが原因で、アニサキスのすみかが変わってきた可能性があるということでした。
アニサキスの成分で痒くなったり息が苦しくなる「アニサキスアレルギー」
飲食店では魚をさばくきのチェックなど、より一層の対策が求められそうですが、アニサキスの怖さは「食中毒」だけではないそうです。
国立感染症研究所・客員研究員 杉山 広さん
アニサキスに感染した時に一般的に多いのは、胃に虫が刺さる。もの凄く痛い。それがいわゆる「アニサキス食中毒」の典型的。で、お医者さんに行って内視鏡で虫を取ってもらう。ただその虫をとった患者さんの中で、多い統計では、10%を超える患者さんに「じんましん」が出てる。逆に言うと、胃が痛くない虫が刺さってても、胃が痛くないのに、じんましんだけ出る人もいる。それが「アニサキスアレルギー」。で、もっと言えばものすごく極端な例ですけれども、息が苦しくなる、心臓がバクバクする、命に関わるような病気、それをアナフィラキシーって呼んでるんですね。アレルギーのものすごく極端な例ですが、そういう極端なアナフィラキシーが起こっている患者さん、結構ある。
ここまで紹介してきたのは、「アニサキスによる食中毒」でしたが、じつはそれだけじゃなく、「アレルギー」という別の症状にも注意が必要なんです。
まず、アニサキスが生きて胃に刺さって起きるのが「食中毒」。激しい腹痛などの症状です。でも、「アニサキスアレルギー」は、たとえアニサキスが死んでいても、体がその成分に反応してしまう。つまり、焼いていても冷凍していても、発症することがあるという、まったく別の問題なんです。
アナフィラキシーショック経験者「出汁もダメ」
軽い人はじんましん程度で済みますが、症状の重さや反応の仕方は人それぞれ。今回は、アレルギーによって食生活が一変したという方に話を聞くことができました。7年前に、イタリアンでサバのマリネを食べた後、自宅で突然、吐き気や呼吸困難に襲われた佐藤 尚之さんのお話。
「アニサキスアレルギー協会」代表理事 佐藤 尚之さん
救命病棟に行って、すぐに血圧が測った時点で、上が60、下が20。ぼやんとして死にかけている状態。これが後から言うと「アナフィラキシーショック」だった。アナフィラキシーに1回なっているのであれば、2回目は最悪では20分ぐらいで死んじゃう可能性がある。なので、完全除去しないといけない。僕はもうその状態です。つまり生魚がダメ、焼いた魚もダメ、はんぺん・ちくわ、すったものもダメ。で、「出汁」がダメ。かつお出汁、いりこ出汁、あごだし、魚は全てダメですね。僕、花粉症にもなったことないんです。それがある晩で急になっちゃった。今はもう外食行けないですね、もう極悪です。食と旅を失うと。人生って何が残るのかってぐらいな感じがしません?
佐藤さんはアレルギーの情報を交換する「アニサキスアレルギー協会」を立ち上げて活動し、情報発信を続けています。佐藤さんのように一度アナフィラキシーを経験したら、生魚だけでなく、焼き魚や出汁も避ける必要がありますが、これはごく少量でも、体が反応することがあるからだそうです。
しかも、専門家によるとアニサキスアレルギーには特効薬がないので、まずはアニサキスを身体に入れない、なる前の予防がとても大事になってきます。例えば自宅で調理する際は、しっかり加熱。又は冷凍(-20度以下で24時間以上)することが有効とされています。
ただしこれは、まだアレルギーになっていない人のための対策。
すでにアレルギーがある場合は、100%魚を避けることはなかなか難しいですが、軽い症状でもお医者さんと相談してくださいということでした。
(TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」取材:田中ひとみ)