『介護人材不足』の現状と対策!2040年までに約57万人不足のデータから考える総合的な取り組み
介護人材不足の現状と将来予測を数値で理解する
介護職員数の現状分析
厚生労働省の「介護サービス施設・事業所調査」によると、2022年度の介護職員数は約215万人となっています。この数字は、介護保険給付の対象となる介護サービス事業所や介護保険施設に従事する職員の実人数を示しており、常勤職員と非常勤職員の両方が含まれています。
この数値には介護予防・日常生活支援総合事業に従事する職員も含まれており、地域における介護サービスの全体像を正確に把握するための重要なデータとなっています。
各年度の統計を見ると、介護職員数は増加傾向にあるものの、必要とされる人材の確保には依然として課題が残されています。この状況に対して、国や自治体、事業者が様々な対策を講じています。
介護サービスの種類別に見ると、入所系サービスの職員数が最も多く、全体の約半数を占めていることから、施設サービスにおける人材需要の高さが顕著です。
現場からは、夜勤対応可能な職員の確保や、専門的なスキルを持つ人材の採用に苦慮しているという声が多く上がっています。このような状況は、サービスの質の維持・向上を目指す上で大きな課題となっています。
2026年度までの短期的な人材不足予測
第9期介護保険事業計画に基づく推計によると、2026年度までに必要となる介護職員数は約240万人とされています。これは現状と比較すると、約25万人の不足を意味します。より具体的に見ると、2022年から年間約6.3万人のペースで介護職員を増やしていく必要があることを示しています。
この推計値は、単なる人口動態から算出された数字ではありません。各市町村が策定した第9期介護保険事業計画に位置付けられたサービス見込み量に基づいて、都道府県が推計した数値を集計したものです。つまり、地域ごとの実情や需要予測を反映した、より現実的な数字となっています。
特に都市部では、高齢化の進展に伴い介護サービスの需要が急増すると予測されています。一方で、地方部では人口減少が進む中でも、高齢化率の上昇により一定の介護需要が継続すると見込まれています。このように地域による需要の違いを考慮した人材確保が求められています。
介護人材の需給ギャップを埋めるためには、新規採用の促進だけでなく、現職員の定着率向上も重要な課題です。現在の介護現場では、経験豊富な人材の確保と育成が特に急務となっており、短期的な人材確保と併せて、中長期的な視点での人材育成の取り組みも必要とされています。
2040年度を見据えた長期的な需要予測
2040年度には介護職員の必要数が約272万人に達すると予測されています。これは2022年度の約215万人と比較すると、約57万人の増加を意味します。年間に換算すると約3.2万人のペースでの増加が必要となり、介護人材の確保は依然として今後の日本社会における重要な課題です。
注目すべきは、2026年度までの短期的な増加ペース(年間6.3万人)と比較して、それ以降の増加ペース(年間3.2万人)が緩やかになる点です。これは、介護需要の伸びが一時期の急増から、より安定的な増加傾向へと移行することを示唆しています。
このような長期的な視点での需要予測に基づき、段階的な人材確保策の実施が求められています。特に、介護職員の年齢構成を考慮すると、今後のリタイア組の補充と新規人材の確保を並行して進める必要があります。
若手人材の育成と中堅職員の定着促進が、将来の安定的なサービス提供体制の構築において重要となってきます。
さらに、2040年に向けた人材確保では、介護職の専門性向上と処遇改善を一体的に進めることが不可欠です。介護ロボットやICTの活用による業務効率化と併せて、介護職員一人あたりの生産性向上を図ることで、増大する介護需要に対応できる体制づくりが求められています。
介護人材確保に向けた国の総合的な対策
介護職員の処遇改善施策の詳細
国は介護人材の確保に向けて、処遇改善を最重要施策の一つと位置づけています。2024年2月から5月までの期間、介護職員の収入を2%程度(月額平均6,000円相当)引き上げる措置を実施することを決定しました。これは、介護職の待遇改善に向けた具体的な一歩となっています。
2024年度の介護報酬改定では、より実効性の高い処遇改善を目指して大きな改革が行われます。まず、これまで別々に運用されていた介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算、介護職員等ベースアップ等支援加算の3種類の加算を一本化します。これにより、より多くの事業所で活用しやすい仕組みへと転換されます。
さらに、介護現場で働く職員の処遇改善を確実なものとするため、2024年度には2.5%、2025年度には2.0%のベースアップを実現する加算率の引き上げが決定されています。この段階的な引き上げにより、継続的な処遇改善が図られることになります。
これらの処遇改善策は、介護職員の給与水準を向上させるだけでなく、介護職の社会的評価を高め、より多くの人材を介護分野に呼び込むことを目指しています。特に若い世代にとって、介護職を魅力的なキャリア選択肢として認識してもらうための重要な取り組みとなるでしょう。
多様な人材の確保・育成への取り組み
人材確保の裾野を広げるため、国は多様な人材層の参入を促進する施策を展開しています。その一つが、介護福祉士を目指す人々への支援制度です。介護福祉士修学資金貸付、実務者研修受講資金貸付、介護・障害福祉分野就職支援金貸付など、複数の経済的支援制度が整備されています。
中高年齢者の参入促進も重要な施策となっています。介護未経験者に対する入門的研修の実施から、研修受講後の体験支援、就職までのマッチングまでを一体的に支援する体制が掲げられています。特に、人生の第二のキャリアとして介護職を選択する方々への支援を強化していく見込みです。
外国人材の受け入れについても、積極的な取り組みが行われています。12カ国での介護技能評価試験の実施や、海外向けオンラインセミナーの開催、日本の介護についての情報発信強化などを通じて、質の高い外国人介護人材の確保を目指しています。言語面でのサポートや生活支援も充実させています。
さらに、介護助手等の導入促進も進められています。介護職員の業務負担を軽減し、専門性の高い業務に注力できる環境を整備するため、介護周辺業務を担う人材の育成と活用が推進されています。これにより、多様な働き方の実現と介護現場の業務効率化が図られています。
離職防止と定着促進のための施策
介護人材の定着促進のため、国は総合的な支援策を実施しています。特に力を入れているのが、キャリアアップ支援です。研修受講負担の軽減や代替職員の確保支援を通じて、介護職員が働きながら専門性を高められる環境づくりを進めています。福祉系高校に通う学生に対しては、返済免除付きの修学資金貸付も実施されています。
職場環境の改善も重要な取り組みとして認識されています。介護施設・事業所内の保育施設の設置・運営支援により、子育て世代の職員も働きやすい環境となるよう取り組みが進んでいくでしょう。また、生産性向上ガイドラインの普及や、生産性向上の取り組みに関する相談を総合的に取り扱うワンストップ相談窓口も設置されています。
メンタルヘルスケアの充実も進められています。悩み相談窓口の設置や若手職員の交流推進により、職員の精神的なサポート体制を強化しています。さらに、eラーニングシステム等の支援ツールの導入費用助成を通じて、職員の学習環境の向上も図られています。
新しい働き方の導入も推進されていくでしょう。週休3日制の導入や、副業・兼業など、多様な働き方を実践するモデル事業が実施されています。これらの取り組みは、仕事と生活の調和を図りながら、長く働き続けられる職場づくりへとつながると見込まれています。
介護現場における具体的な人材確保の取り組み
介護現場における業務の再構築
介護現場では、専門職が専門性を活かせる業務に注力できるよう、業務の見直しと再構築が求められます。たとえば、申し送りや記録の時間を短縮するため、タブレット端末での写真記録や音声入力を活用するなど、ICTを効果的に活用していくことが進んでいます。
さらに、AIを活用した介護記録の自動生成システムを導入し、記録業務の大幅な効率化を実現している施設も出てきています。
業務の標準化も進められています。介護手順書の見直しやマニュアルの整備により、職員による介護の質のばらつきを減らし、効率的なサービス提供を実現しています。特に新人職員の教育においては、動画マニュアルやeラーニングを活用することで、効果的な技術の習得と均一な介護品質の確保が図られています。
施設内の多職種連携も強化されています。介護職員、看護師、リハビリ職、栄養士などが定期的にカンファレンスを開催し、それぞれの専門性を活かした効率的なケア方法を検討しています。特に看取りケアや認知症ケアなど、専門的な知識と技術が必要な場面では、各職種の視点を統合したケアプランの作成が行われ、チームとしての介護力の向上につながっています。
さらに、介護ロボットの実証実験に積極的に参加する施設も増えています。見守りセンサーや排泄予測システムなどの導入により、夜間業務の負担軽減や効率的な介護の実現を目指しています。これらの取り組みを通じて得られたデータは、さらなる業務改善や新たな介護技術の開発にも活用されています。
地域との連携による人材確保
地域に根ざした人材確保の取り組みが広がっています。地域の高校や専門学校と連携し、実習生の受け入れや職場体験の機会を提供する施設も見られます。
特に注目されているのが、介護の仕事の魅力を伝えるための「1日介護体験プログラム」です。このプログラムでは、利用者とのコミュニケーションや簡単な介護体験を通じて、介護の仕事の実際を理解してもらう工夫がなされています。
自治体や地域の介護事業者が連携して、合同就職説明会や介護の仕事の体験会を開催する例も増えています。これらのイベントでは、実際の介護現場で働く職員との交流の機会を設け、介護の仕事の魅力ややりがいを直接伝える工夫がなされています。
地域住民向けの介護教室や認知症サポーター養成講座も、新たな形へと進化しています。従来の講義形式だけでなく、VR技術を活用した認知症体験や、実際の介護現場での体験学習なども取り入れられています。また、地域の介護経験者をボランティアコーディネーターとして起用し、地域全体で介護人材を育成する体制づくりも進められています。
職員が長く働き続けられる職場づくり
現場では、職員の声を活かした職場改善が進められています。定期的な職員アンケートや面談を実施し、働く上での課題や改善要望を収集。それらを基に、具体的な業務改善や職場環境の整備につなげている施設が増えています。特に注目されているのは「職員提案制度」で、現場からの改善アイデアを積極的に募集し、実現可能なものから順次導入を進めています。職員の主体的な参画意識の高まりにつながるでしょう。
身体的な負担軽減の取り組みも進化しています。移乗用リフトやスライディングシートなどの福祉用具の活用を積極的に進め、腰痛予防や事故防止を図っています。
さらに、理学療法士による定期的な腰痛予防講座の開催や、作業姿勢の分析に基づく環境改善、職員向けのストレッチ体操の導入なども行われています。また、職員の体力や年齢に配慮した業務分担も、詳細なアセスメントに基づいて実施されています。
メンタルヘルスケアの充実も図られています。新人職員には経験豊富な先輩職員がメンターとして付き、業務上の相談だけでなく、精神面のサポートも行っています。
また、臨床心理士による定期的なカウンセリングの実施や、ストレスチェックの結果に基づく職場環境の改善、チーム内でのピアサポート体制の構築なども積極的に行われています。管理職向けのメンタルヘルスマネジメント研修も定期的に実施されています。
このように、介護人材不足に対しては、国の制度設計から現場での実践まで、さまざまなレベルでの取り組みが進められています。介護職員の人材確保は今後も課題であり続けます。しかし、処遇改善や働き方改革、テクノロジーの活用、そして何より現場での創意工夫により、解決への道筋が見えてくるでしょう。
介護の仕事の価値が社会に正しく認識され、誰もが誇りを持って働ける職場となることで、この課題を乗り越えていけるはずです。