米価格高騰 相模原の米穀店が語る「異常事態」の深層 複雑に絡み合う問題と未来への提言
記録的な米価格の高騰が続く中、江藤拓前農林水産省大臣が「米は買ったことがない」発言で事実上更迭され、小泉進次郎元環境相が5月21日、新農相に就任した。「コメ担当大臣」を自認する小泉農相が「6月初旬にも5kgあたり2000円台で店頭に」と発言するなど、米価格に多くの国民からの注目が集まっている。
そこで相模原市内で古くから米穀店を営む3店舗に取材した。
高騰の原因と対応の不備
米価格高騰は単一の原因でなく、複数の要因が絡み合って生じている。ちから米穀(中央区矢部)の代表取締役・山下力氏は「この高騰は昨年の収穫量が少なかったことが発端」と話す。例年より少ない米を農協、民間の卸売業者が取り合う形となり、相場を押し上げ、さらに市場の投機的な動きも価格を釣り上げた一因と山下氏は分析する。ライスショップきくや(緑区東橋本)の代表、大貫喜久雄氏は「猛暑、円安によるインバウンド客の急増で、米の消費量が増えたことも高騰の原因ではないか」と指摘する。
備蓄米について山下氏は、精米工場の人手不足や労働時間制限、トラック不足により、生産された米がスムーズに市場に供給されず、小規模な米穀店にはほとんど届かなかったという。河本精米店(中央区淵野辺)の店主・河本修一氏は、「トラックがない、精米工場がない」と語り、物流インフラの脆弱性が品薄感と価格上昇を助長していると分析する。
綱渡りの経営と消費者の混乱
河本氏は、昨年同時期の仕入れ価格と比較し、「大体2.5倍くらいになっている。1俵(60kg)1万4000円くらいだった米が5万円」と仕入れ価格の異常な高騰を証言する。1俵を精米すると約54kgになるため、1kgあたり926円、5kgなら4630円に達する。仕入れ費用だけでこの金額では、消費税や経費、利益を上乗せすると、店頭価格が大幅に上昇するのは避けられない。
一方、世間には「もともと米の価格は安すぎた」「農家が儲からないから廃業者が出ている」との声もある。山下氏は「以前は農家の利益が少なく、農機具の購入をためらったり、儲からないから後継ぎが出ない話を聞いた」と、農家が厳しい状況にあったことを認める。
大貫氏は米の適正価格を「理想は5kgで3500円ぐらい」と見積もる。「3000円台なら農家の人たちも生産を続けられるし、我々小売業者も売りやすい」と話し、「今は主食を麺類やパンに切り替える人も少なくなく、消費者の米離れが心配」と心情を吐露する。
業界の分岐点と消費者の選択
山下氏や河本氏によると、業界内では昨春から米の生産量が低下し、現在の米価格の高騰を見越していたという。生産量の低下は酷暑による高温障害の影響が大きいが、減反政策による銘柄米の種子不足などの構造的な問題も影響している。河本氏は、「高温障害が続くから、これから先も2、3年はこの状態が続くだろう」と見通す。
外国産米の輸入が増加する可能性も高い。山下氏は大手スーパーが「アメリカ産の米を仕入れて価格を下げている」と話し、海外で栽培された日本の品種に近い米も品質向上していると一定の評価をしている。「いい意味でも悪い意味でも、今が日本の米にとって分岐点」だと山下氏は語る。
大貫氏はこの高騰が続けば、「最終的に日本の米が減っていく原因になるんじゃないか」と警鐘を鳴らしつつ、今後の政策や市場の動向が価格に与える影響に注目していると話した。