吉祥寺で食べられる! ニューヨーカーに愛される本場の名店で学んだチョップドチーズを。
吉祥寺の人気店「The Daps Famous Hood Joint(ザ・ダップス・フェイマス・フッド・ジョイント)」をNY時代の友人ふたりとオープンさせた宮本佳和さん。ハーレムの名店『Hajji’s(ハジーズ)』で学んだ宮本さんの手によるNYのローカルフードは格別の味わいだが、その店自体が人を惹きつけている。それはなぜなのか? 彼が店をオープンするまでのストーリーをお届けする。
NY仕込みのチョップドチーズを、ヒップホップ流れるレンガの上で。
ブラウンストーン建築——。
NYハーレム地区でよく見られる、レンガの外壁と入口から歩道まで伸びた階段が特徴的な建築様式がそれだ。吉祥寺『ザ・ダップス・フェイマス・フード・ジョイント』オーナーの一人・宮本佳和さんは、そのブラウンストーンにインスパイアされた巨大なレンガの階段を店内に大胆に配した。
後に流れるバックビート。壁にNASやウータンのヴァイナル。そしてレンガをイスの代わりにしてNYのローカルフードを出す。
『ダップス』はヒップホップ・カルチャー香るイカした店なのだ。
もっともココを“本物”にしているのは料理に尽きる。「チョップドチーズ・サンドイッチ」。鉄板の上で刻んだミンチ肉とチーズをはさんだ日本ではめったにお目にかかれない味を、宮本さんはNYにある人気店『ハジーズ』で学んだ。しかもその店はスヌープ・ドッグやディプセットなどラップスターが常連に名を連ねるんだから、DOPE(ヤバい)が過ぎる。
「料理を始めたのも『ハジーズ』に入ったのも、元は『アメリカに住みたい』って思いから、です」
幼稚園のマラソン大会をエアマックス95で走った。
アメリカ移住への憧れは、物心ついた頃から走り始めていた。
きっかけは、2つ。
1つはアメリカに住んでいた父の友人の存在だ。誕生日のたび、生まれ故郷の長崎県にカリフォルニアからプレゼントが届いた。
「アメリカで発売されたばかりの服やスニーカーでした。僕は1990年生まれで、当時5歳なのにエアマックス95でマラソン大会に出ていましからね。物を通してアメリカを身近に感じられた」
2つめがヒップホップだった。
最初は両親のクルマから流れたブラック・ミュージック。次第に50セントやジェイ・Zなどにたどり着いた。高校に入ると機材を買って、たまに長崎市内まで足を伸ばしてクラブで回すようになる。
「最初はただカッコいいなと。聴き込むうち、リリックに含まれたアーティストの社会への苛立ちや問題意識が思春期の自分の感情と重なり、ハマりましたね」
とはいえ2000年代の長崎の地方都市、DJに詳しい友だちなんていなかった。だからミクシィに登録してヒップホップ好きの先輩と出会う。そんなときも、頭の片隅に、アメリカがあった。
「『DJができたら、アメリカでも友だちできやすいかもな』って」
最初は東京で実践した。
高校卒業後に上京。祖母の家に住みながら、夜な夜なクラブに通い、友だちを増やした。昼は居酒屋などでバイトして貯金に励んだ。飲食業、しかも厨房にこだわったのも「料理人なら世界のどこでも働ける」と考えたからだ。
そして2014年、24歳で念願のアメリカに。NYへと渡る。
サンドイッチ店の前にミシュラン店にいたワケ。
ハーレムに部屋を借り、午前中は留学先の語学学校へ。午後は某有名焼き鳥店でバイトをした。
「ミシュランに乗るような店で、厳しかったけど、箔が付くなと」
一方で、ヒップホップの本場にいるのだ。時間があればクラブやパーティにも顔を出し、サマージャムなどのフェスにも参戦。大いに刺激され「やっぱりココに住みたい」と気持ちを高めたという。
そして『ハジーズ』と出会う。最初の一口から心を掴まれた。
「しかも界隈のラッパーやスケーターからリスペクトされる店で日本にない味と雰囲気がある。『日本に持ち帰ったらウケるな』と」
実はこの頃から戦略を変えた。「日本にまだないビジネス」を持ち帰り、母国で勝負。その後、アメリカに無い日本のビジネスを彼の地で起こしたほうが、勝率が高いと考えた。
「そこで『タダでいいから料理を学びたい』と直訴した。ミシュランの店にいたことも入れつつね」
こうしてチョップドチーズのレシピを体得して、2019年帰国。
吉祥寺にこの店を起ち上げる。
自身と、NYでも一緒だった橋本和歩さんと平井雄輝さんの3人の友人で共同オーナーになった。コンセプトは「日本で一番アメリカに行きたくなる店」。店名に含まれた「DAP」は、友だち同士で拳をあわせる、よく見かけるあの挨拶だ。
「そして『フェイマス』もつけた。アメリカでは全然無名なのに『フェイマス』を名乗る店がけっこうある。そのパターンです」
例のブラウンストーン風のレンガの意匠は、NYの語学学校で知り合った友人の建築家の手によるものだという。
「『東京に帰ったら飲食店を始める』と言っていたら、『内装は任せろ』と。帰国して頼みました」
オープンしてすぐは「ヒップホップ好き」にまず刺さった。在日米国人も早かった。「NYのあの味じゃないか!」と拳を掲げてDAPしてくる人もいた。3年めの今は、「山口から来きました。友だちが『東京来たらダップスだよ』と推されて」なんて受験生まで来る。
「少しフェイマスになってきた」
吉祥寺を飛び出してもいる。兵庫や長野などのクラブイベントを軸に、時には地方の小さなお祭りにも出店している。思いがある。
「どんな小さな町にもブラックミュージック好きがいるって僕が一番わかってるから。ちなみに一番遠くの出店場所はメキシコです」
そして『ダップス』を通してチョップドチーズとヒップホップ、そしてその本場NYに興味を持って欲しい。さらに「直接足を運んでもらいたい」と考えている。
「僕らがよくしてもらったハーレムの街を知ってほしいし、お金も落としてもらいたいんです。少しでも恩返しをしたいんですよ」
【DATA】
The Daps Famous Hood Joint
東京都武蔵野市吉祥寺本町2-20-3 11時30分〜22時(月〜土曜)、11時30分〜20時(日曜) 月曜休
Instagram: @thedaps125
ハーレムの店で学んだ味を、ヒップホップ流れる吉祥寺で。
提供するのは、メインシェフでもある宮本さんがNYの名店『Hajji’s』で学んだサンドイッチ。在日アメリカ人が「本場より美味い」と絶賛した味を、ぜひ吉祥寺のレンガの上で食べてほしい。おすすめのメニューを紹介しよう。
Philly Wheelie Cheese Steak
チョップドチーズと人気を二分する『チーズステーキ』。「千葉雄喜君の『チーム友達』でウィル・スミスとコラボしたときにも出てきたフィラデルフィアの名物サンドです」。1300円
チーズソースをかける儀式、見逃すな!
Kichijoji Fat Boy Sandwich
吉祥寺の名前を冠したサンド。モルタデッラ、サラミ、プロシュートなどのハム類に野菜とモッツァレラチーズなどをたっぷり入れた贅沢な一品。在日外国人に一番人気とか。2000円
店内のスライサーで切るのも、NY流!
B-Side Chicken Over Rice
ヨーグルトソースとホットソースが効いているチキンオーバーライス。「超有名店の味をヒット曲が入ったレコードのA面とするなら、僕らのはB面のHOOD(地元)の味。でもB面のほうがカッコいい場合も多いでしょ」1000円
マリネした一枚肉を鉄板で焼くのです。