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日本写真史に多大な影響をもたらした写真家による展覧会3選

タイムアウト東京

日本写真史に多大な影響をもたらした写真家による展覧会3選

この4月から6月にかけて、東京では、偉大な写真家による作品が鑑賞できる展覧会が相次いで開催している。

2024年1月にこの世を去ってしまった篠山紀信をはじめ、「近代写真の金字塔」ともいわれ、大正期から太平洋戦争勃発に至る激動の時代に活動し、土門拳や森山大道らにも影響を与えた写真家・安井仲治、「ライカの名手」こと木村伊兵衛など、いずれも日本写真史に多大な影響をもたらした写真家たちだ。これほど歴史的にも社会的にも意味のある作品群を同時期に観れるチャンスはそうそうない。

ぜひ、この機会に足を運んでみてほしい。

Photo: Keisuke Tanigawa

生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真

近代写真の金字塔とも言える写真家、安井仲治(やすい・なかじ、1903〜1942年)の回顧展が「東京ステーションギャラリー」で開催。安井は大正期から太平洋戦争勃発に至る激動の時代に関西を中心として活動し、土門拳や森山大道らにも影響を与えた写真家だ。

病により38歳で早逝した安井は、わずか20年ほどの活動期間ながら、ドキュメンタリー、スナップショット、新即物主義、シュルレアリスムと、多くの表現動向を吸収しながら、旺盛な創作意欲のもと、あらゆる写真の技法と可能性、スタイルを追究した。

本展では、太平洋戦争の被害を免れた貴重なビンテージプリント約140点と、研究を重ねて一点一点作成されたモダンプリント約60点を中心に、短くも濃い安井の表現活動を紹介する。

変わり行く都会の風景とそこに生きる人々、戦争へ向かう不穏な世相をも身近な事物に託して繊細に写し出した、安井の再評価へとつながる機会になるだろう。

Photo: Kisa Toyoshima

没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる

1920年代、小型カメラによるスナップショットで、被写体の一瞬の表情を捉える独自のスタイルを確立し、「ライカの名手」と呼ばれた木村伊兵衛(1901〜1974年)。没後50年を経てもなお、多くの人を魅了する作品群が、恵比寿の「東京都写真美術館」で一挙公開される。

広告宣伝写真や歌舞伎などの舞台写真、カラーフィルムによる滞欧作品、太平洋戦争前の沖縄の日常や、秋田の農村をテーマにしたシリーズなど、多種多様な被写体を捉えた木村は、自らを「報道写真家」と位置づけていた。新聞や雑誌などを通して市井の人々の暮らしぶりを伝えるという、写真の社会的な機能を意識してのことだ。

本展では、木村が生前最後に展示したプリントが半世紀ぶりに特別公開される。誰もが手軽かつ日常的に写真や映像を撮影する今だからこそ、1カット1カットをフィルムで丹念に撮影していた時代の木村の写真を、オリジナルプリントでじっくりと観てほしい。

Photo: Keisuke Tanigawa

記憶:リメンブランス-現代写真・映像の表現から

日本とベトナム、フィンランドのアーティスト7組による新作や日本未公開の作品など、70点以上を紹介する企画展示が恵比寿の「東京都写真美術館」で開催される。

展示の起点となっているのは、篠山紀信による写真と中平卓馬の批評が「対決」した雑誌「アサヒカメラ」での連載「決闘写真論」(1976年)。その中のポートレート写真「誕生日」を、展示室内で再現展示する。また、1970年代に4年間続けられた連載「家」と、2011年の東日本大震災を取材した「ATOKATA」との対比から、篠山の視点を探る。

さらに画家の村山悟郎による1000枚のドローイングを学習したAI(人工知能)を用いた作品や、画面に写ることのない不在の存在を想起させる作品を制作する米田知子の新作、小田原のどかの論考など、現代ならではの写真や映像表現の作品が紹介される。

事実の記録だけではない写真や映像の役割に着目し、鑑賞する者それぞれの記憶と、誰かの記憶や時代のイメージとが結びつくような感覚を味わえる機会だろう。

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