『ヤマトよ永遠に REBEL3199 第四章 水色の乙女』アベルト・デスラー役 山寺宏一さんインタビュー|サーシャの存在からシンパシーを感じる古代進とデスラー。冒頭の振り返りへの思い入れも語る
2012年から展開されている不朽の名作『宇宙戦艦ヤマト』のリメイクシリーズの最新作『ヤマトよ永遠に REBEL3199』。その第四章『水色の乙女』が、いよいよ2025年10月10日(金)より全国の映画館で上映開始となります。
第三章『群青のアステロイド』の終盤に登場し、今回の第四章から本格的な登場となるデスラー。『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』で想い人であるスターシャ・イスカンダルを喪った彼が、『3199』では一体どんな活躍を見せてくれるのか。
本稿では、アベルト・デスラー役を務める山寺宏一さんのインタビューをお届け。互いに大きなものを背負っている古代進との関係性などについて、お話を伺いました。ぜひ鑑賞に合わせてご一読いただければと思います。
複雑な関係性から覗くデスラーと古代のシンパシー
──『第四章 水色の乙女』のストーリーの印象をお聞かせください。
アベルト・デスラー役 山寺宏一さん(以下、山寺):『第三章 群青のアステロイド』の終盤に登場しましたが、第四章にそのまま出られなかったらどうしようかと思っていました。このリメイクシリーズは出番が無いと台本をいただけないので、自分の出演がある話数しか把握できてないんですよ。今回の第四章は出演できたので、読ませていただきましたが、それまでのことが一切わからなかったので、色々と伺いながら収録に臨みました。
『宇宙戦艦ヤマトⅢ』と『ヤマトよ永遠に』を基に福井晴敏総監督が再構築するという話だったので、ここまでどんな物語が描かれたのかは気になっていて。特に『ヤマトよ永遠に』にはデスラーの登場はなかったはずですので、一体どうなるんだという気持ちで台本を読みました。まずはデスラーの登場シーンがあったこと、古代進と掛け合うシーンがあったことが嬉しかったですね。
──『第三章 群青のアステロイド』のラストに登場した際はどのような心境でしたか?
山寺:把握しきれていなかった物語の流れは説明していただいたのですが、それでも難しいところが一杯ありました。収録は少し前のことになるのですが、そういう部分は自分なりに理解して進めていった気がします。
まずサーシャについてですよね。『2205』ではまだ赤ちゃんだったのにもう17歳になっていたので、「どういうことなの?」と。特に時空結節点の設定はとても複雑ですから、僕自身はアルフォンやカザンが、森雪や地球側のキャラクターに説明してくれるところまで理解しきれているか不安があったんですよ。
いただいた台本を頼りに色々と自分なりに探っても分からなかったりしたので、デスラーに関わるところはしっかりその背景を聞くようにしました。
やっぱり作中に全ての情報が散りばめられているのだろうけれど、デスラーは地球には行かないので彼にも知りえない情報があるはずです。それでもデスラーですから1を聴いて10を理解するような能力はあって、僕もそうなりたいけれども理解力が中々ついていかない。だから、後ほど完成した映像をみることで「そうだったのか!」と気づける部分もありました。
──『宇宙戦艦ヤマト』は日本のアニメ史に残る大切な作品かと思います。声優さんたちの間ではどのような存在なのでしょうか?
山寺:僕が日本の声優界を代表している訳ではないですし、声優と一口に言ってもたくさんの方がいらっしゃいます。世代によってもまったく違いますので、僕がその方々の全てを背負うことはできませんが……それでもあえて一言で表すのなら“伝説”でしょうか。
──リメイクシリーズを通じて次の世代へと継承されているところはポイントですよね。
山寺:今も新たな作品が制作されているので、伝説ではあっても“過去の遺産”ではない。第1作目から見ているので、僕個人にとっては本当に大切な作品なんです。もちろんそういう世代でしたから、僕だけではなく色々な方が夢中になっていました。「そろそろアニメは卒業かな?」というタイミングに出てきたこともあり、「こんな作品があったのか」と驚きと共に受け入れられていた印象があります。
子どもの頃はちょっと背伸びをして見られる作品。そして、今は声優として携わらせてもらっている作品と考えると、やっぱり不思議な想いがありますね。そういう意味でも僕にとって大切な宝物です。今は大好きだったデスラーという役を引き継がせていただいていますし、思い入れもひとしおだなと。
──デスラーというキャラクターを引き継いでから10年以上経過しました。彼の魅力はどんなところにあると考えていますか?
山寺:原作では伊武雅刀さんが演じられていましたが、きっとみなさん古代も好きだけどデスラーも好きだったのではないでしょうか。地球人にとってのデスラーは強大で憎むべき敵……だけど、ただの悪ではない。子どもながらに、託された使命や孤独感を抱えていることが何となく感じられて、そういう一面に惹かれたんでしょうね。もちろん伊武さんの声の魅力は間違いないですし、洗練された台詞のひとつひとつも印象に残っています。
──当時、真似したことはありましたか?
山寺:僕は声変わりが遅かったので、やりたかったけれど伊武さんの声は流石にまったく似てませんでした(笑)。声変りするかしないかくらいの時期ですから、どちらかというとするのなら古代を演じられた富山敬さんの方が真似しやすかったです。
──古代とデスラーをおひとりで演じられてますよね。
山寺:古代も以前(※『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』やゲーム『宇宙戦艦ヤマト 遥かなる星イスカンダル』で担当)演じさせていただいたことがあり、そういう意味でも非常に運が良かったというか。古代もデスラーも大きなものを背負っていますが、考えてみたら僕も背負っているものが大きいですよね。だからこそデスラーを演じた時の視聴者の意見を、怖くていまだにちゃんと見ることができていないんです。
──大半は称賛の声だと思いますが……。
山寺:だと嬉しいのですが、それだけ伊武さんの存在が大きいんですよ。あんな凄い声が出る訳ないですから。以前、伊武さんとお会いした際にも「意識して良い声を使ったよ」とおっしゃっていて。伊武さんは元々持っている声質も演技力も含めて凄かったので、参考にするために過去作を見ようと思うのですが、それもまた少し怖い部分がある。
それでも、このリメイクシリーズにおけるデスラーは本当に素晴らしい脚本で掘り下げてくださっているので、よりキャラクターが立体的になっていると感じます。だからこそ、そんな怖さはありつつ、非常にやりがいも感じているんです。『2202』では過去まで遡って、なぜ“アベルト”が“デスラー”になったのかを描いていたので、そこで僕も意識が大きく変わりました。
──『宇宙戦艦ヤマト2199』から今回の『3199』までで古代とデスラーとの関係性も変わりつつあり、複雑なものになってきた印象があります。古代とデスラーの関係性についてはどのように見ていますか?
山寺:特に古代とは通じ合うものがあって、『2205』でスターシャがその身を犠牲にすることで救われた訳なんだけれど、ここでこの疑問は出しちゃいけないとは思いつつ、どうしてもデスラーが古代の兄である守にどんな想いを抱えているのかはずっと気になっていて。
古代はそんな守の弟ですし、古代自身も兄である守への想いは強い。だからそんな守と子をなしたスターシャは義姉であり家族だと考えていて、だからこそ『3199』ではサーシャへの想いがある。
デスラーが愛したスターシャの忘れ形見であるサーシャは、地球人である守との子ども。つまり、デスラーはもうひとりの叔父のようなちょっと複雑な立場だと思います。「お前がサーシャに感じていることは俺にも良くわかる」という感じで、古代とはそこも共有しているだろうなと。
そして、デザリアムが狙っているのはヤマトの波動コアとサーシャであることは、おそらくデスラーも気付いている。聞くところによると古代はまた大変なことになっている。であれば、古代への理解も深まるはずです。そんな古代を通して常に試練を与えられている小野大輔くんは、本当に大変だろうなと思っています。
常に葛藤し続けていますし、とても優しい人間でありながら強い意志もある。本当に多方面に気を配って苦しんでいるだろうし、自分が背負う古代というキャラクターもまた色々なものを背負ってしまっている。そんな古代に対して、自分の心を閉ざしてまで冷徹に生きようとしたデスラーが、シンパシーを感じるのは当然かなと。それがサーシャの存在でより強くなっているんじゃないかと思える第四章です。
冒頭の振り返りパートにも注目してほしい
──リメイクシリーズのデスラーはどういった話し合いの中でキャラクターを作っていったのでしょうか?
山寺:歴代の監督さんや音響監督さんとの話し合いからキャラクターが固まっていきました。最初はやっぱり、どんな感じでお芝居するかが鍵になって。リメイクシリーズだとビジュアルがより美しくイケメンになっているので、若くなったような印象が出ていたんです。
だから僕のほうから「こんな感じでどうですか?」と伺ってみたら、やっぱり伊武さんのように低音であまり感情を込めずに淡々と喋る、それでいてカリスマ性があるという方向性を踏襲してほしいとのディレクションを受けました。それからは、そのイメージと必死に向き合ってお芝居しながら作り上げたという感じで、いまだにこれを続けています。
でも、やっぱりひとつひとつの台詞が素晴らしいので、本当に素直に向き合うことを大切にしていて。デスラーを演じる時は毎回戦っている感覚があります。
──キャラクターがより立体的になったことで心を動かされた部分や、アフレコしながら心を寄せられた部分はありましたか?
山寺:特に『2202』で描かれた過去の回想シーンでしょうか。デスラーが一番幼い時期を僕は演じていないのですが、その時期から成長して青年になり、ガミラスの民の前で話すところ。このおかげでよりデスラーのことを理解できたと言いますか。『2205』でスターシャとの関係性もしっかり描いてくださったことも大きいです。
ガミラスというものを自分が救わなければならない、そのために強く冷徹であらねばならない。そういう部分とスターシャへの愛が作中で表現されているので、その後に地球や古代たちヤマトクルーと共闘する時の心情が作りやすかった気がしています。
デスラーは元々愛を知らない人ではなく、幼いころからスターシャを深く想っていました。そういう意味では、兄のマティウスほど人々を統治する器ではなかったのかもしれません。もちろんカリスマ性なんて簡単に作れるものではないから、その才能自体は持っていた。だけど、その使命感を胸に自分は強くあらねばと思っていたから、無理もしていたんだろうなと。
その一方で、今回の第四章では「ちょっと丸くなりすぎじゃない!?」と思える部分があるかもしれません。ヤマトから和や協調というものを学んだのではないでしょうか。あとは、部下への態度にしても前はボタンひとつで命を奪ったりして、そんなところにキャラクター性が出ていましたが、今となってはあれも無理をしていたのかもしれないと思えてきて。
当時はそういうキャラクターなのだと思ってお芝居していました。
──ここへきてまたデスラーの新たな一面が見えてきたところがありそうですね。
山寺:やはりスターシャがいなくなってしまったことが大きいですね。でも、イスカンダルの欠片と称されるサーシャの存在があるので、彼女への想いはあるんだろうなと。まあ、その割に中々出てこなかったので、第四章でもデスラーは活躍したと言えるのかどうか……。
──大事なところで空気を変えてくれるのがデスラーなので、きっとこれからです!
山寺:今回のデスラーはガルマン星の遺跡でシャルバートに関することを頑張っています。これはこの先も注目すべきポイントになっていきます。やっぱりデザリアムをどうするのかという部分が『2205』から主軸にあるじゃないですか。瀕死の状態であったにせよガミラス星を破壊してしまったのはデザリアムな訳ですから。だから、地球人には騙されないでほしいという気持ちを持っています。だけど、デスラーとしては「今回は違うのか?」みたいな疑念も出てきていて。
そんな想いが第四章の冒頭にある「これまでのあらすじ」に全部表れていますよ。リメイクシリーズでは各章の冒頭にこれまでの物語の振り返りがあるのですが、それが物凄く良くできているんです。第一章~第三章までも各キャラクターの目線でそれぞれの方々が見事に担当されていますが、それがこれまでのシリーズをご覧になられていない方や、改めて復習したい方の助けになってくれている。そんな人たちにも優しいシリーズになっていると思います。
第四章は僕が担当だったので最近収録に臨んだのですが、「おお!デスラー目線の振り返りだ!」と思って凄く嬉しかったですね。毎回あれだけ長い物語をぎゅっと纏める福井さんも凄いですし、あの振り返りは大好きです。上映されたらぜひここも楽しみにしていただきたいなと。
──ああいう形で振り返ることで、それぞれの思惑や心情がわかりやすくなっていますよね。だからこそデスラーにも寄り添いたくなりますし。
山寺:第四章で出番があったことも、あの振り返りを担当できたことも良かったです。若手クルーの土門竜介がやれるなら僕もやりたいと思っていました(笑)若手の活躍はリメイクシリーズならではという感じがしましたし、特に土門は凄く良いキャラクターでした。
──それこそ継承というか、土門君はそんな新しい世代の代表という感じがします。
山寺:そのおかげでより物語の厚みが増したというか、このリメイクシリーズはオリジナル以上に群像劇としての魅力を強めているんじゃないかと思いましたね。だって、昔のシリーズはあそこまでヤマトに女性クルーはいなかったじゃないですか。あまり絡みがないけれど、デスラーはヤマトの女性クルーなんて把握しているのかな。
他の艦にも良いキャラクターがいっぱいいますし。例えば高垣彩陽さんのやっている藤堂早紀とか、林原めぐみさんのやっている神崎恵とか。もう魅力的なキャラクターがいっぱいいて、それもこのリメイクシリーズの魅力になっている。みんな、あの振り返りをやれるかどうかを気にしていると思いますよ。個人的には、あそこだけすぐに見られるようにしてほしいくらいです!
[文/胃の上心臓]