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 “日本一”になった佐賀の生産者が断言!「作り手も言語化が命」【特別鼎談】〈後編〉

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日本中の農畜産物生産者と加工業者らが参加し、地域に眠る「宝物」たる産品を発掘するプロジェクト「にっぽんの宝物JAPANグランプリ」。毎年、地方大会から勝ち上がった生産者達が全国大会で自慢の逸品を競っているが、近年、佐賀県から最優秀賞となるグランドグランプリ受賞者が3人生まれている。

前編記事では、その3人の受賞者それぞれに生産者となるきっかけや、日々心がけていること、またそのキャリアを通じて持ち続けている信念などを紐解いた。

後編では佐賀という地域での「食づくり」をテーマに座談会形式で迫る。

「にっぽんの宝物JAPAN」グランドグランプリ

■2020-2021年受賞梅津聡(養殖牡蠣)

■2022-2023年受賞吉田章記(フルーツトマト・トマトジュース)

■2023-2024年受賞袈裟丸彰蔵(天然うに)

〈▲ 写真左から袈裟丸氏、吉田氏、梅津氏〉

味が美味しいだけではだめ、そこにつながるストーリーや可能性を見出す

 ――皆さんが「にっぽんの宝物JAPAN」に参加されたのは、何か理由やきっかけがあったのでしょうか?

梅津「3人とも大体、動機は同じだと思うのですが、そもそもは、グランプリ受賞を目指してエントリーをしているわけではないんです。『にっぽんの宝物JAPAN』自体が、どちらかというと勉強会のような意味合いを持っているコンテストで、学ぶために出てるんですよね」

吉田「私は新規就農で、かつトマト作りの師匠がいるわけでもなくすべて独学で行ったので、美味しいものを作れているという自信はあったのですが、第三者評価が受けられたら、さらに良いだろうなという思惑もありました」

袈裟丸「あとは、人とのつながりですね。これを得られるというのも大きい」

梅津「これは多くの農業・漁業者に当てはまると思うのですが、我々は美味しいものを生み出すプロではあるけれど、それを上手く外に伝えたり、上手に売るプロではないんです。しかし、これからの生産者にはその辺りも求められる。『にっぽんの宝物JAPAN』で得られる学びや人脈は、その辺りを補完できる内容なんです」

 ――「にっぽんの宝物JAPAN」では、生産したものの品質だけではなく、そのバックグラウンドやストーリー性、さらに商品としてのデザインや展開、料理店など異業種とのコラボレーションの可能性などが評価されるとお聞きしました。

梅津「ええ、特に地方大会は、皆、勉強会に来るような感覚です。まずは地方セミナーで、生産物の魅力や価値の伝え方や、作った後の展開などについて大いに学びます。しっかり勉強してチャレンジして、実践に移す中で、勝ち上がったら上に進めます。部門もグランドグランプリの他に、ドリンク・和素材スイーツ、工芸・雑貨などたくさん設けられているので、参加者は大きなモチベーションになると思います」

――佐賀県勢の強さの秘密はどこにあるんでしょうかね。

袈裟丸「10年くらい前から、佐賀ではそうした意識を持った生産者が動き始めたり、そこに興味を持ってくれる飲食店や酒屋さんや陶芸の窯元さんが増えた印象です。さらに、両者を繋げてくれるようなプレイヤーが現れて、自然に広がって行ったようなイメージですね。それぞれ、単体でも良いものづくりをしているんですけど、そういう人たちは繋がっていくんですよ。私の場合も、窯元さんからフレンチのシェフを紹介していただいて、そこからウニのさらなる可能性を開く挑戦というのができるようになっていたりします」

吉田「いいものを作りつづければ、売り先が見えてくるのもあるとは思うんですが、やっぱり1人でやっていると営業までするのは難しい。でも、同じ意識を持っている人達とネットワークを構築できると、自ずと売り先も増えてきます。まぁ、田舎にいると、“いい人”と出会えたりネットワークを構築するのが困難なわけですが」

〈▲ 「生産者にとって“いい人”と出会えるかは重要」と吉田氏〉

吉田「ただ、梅津さんなんかも東京やいろんな土地に頻繁に足を運んだりもしていますよね。難しいからといって、それをしないのは言い訳でしかないとは思います。それに、美味しいものを作っている人は、同じように美味しいものを作る人に興味を持つもの。そうやって生まれるネットワークもあると思います」

――先ほどと似たような質問になりますが、そのように意識の高い、かつ凄いものをつくり出せる人材が、佐賀から多く輩出されていることの背景を知りたいです。

吉田「まぁ、佐賀は、変な人が多いんですからね。特に袈裟丸くんと僕の住む唐津市や、梅津さんのいる太良町は変わり者が多いらしい(笑)。普通じゃないアイデアとかやり方を実践するのって、変わりものじゃないとやらないし、続かないんじゃないでしょうか」

〈▲ 「結局、変わり者が常識を変えていくってこと」と確認し合って笑う3人〉

吉田「私が住む唐津でいくと、佐賀でも端っこなので、何か尖ったことをやって、目立って、存在感を示そうとしがちな地域柄も出ているのかもしれません。そして、そういう人を互いに応援し合う雰囲気があるように思いますね。そういう意味では、佐賀という田舎で生産できていることは、決してデメリットではありません」

梅津「みんな、普通の人じゃ満足しないんでしょうね。面白いことしようぜ!っていう人が集まっている。そして周りと比較したりしない、他所に興味を持たず、自分たちがやりたいことを頑張る雰囲気ですね」

――そういう地域性と繋がりとが奇跡的に組み合わさって、グランプリを受賞するような『すごい生産者』が多く生まれている、と。 

梅津「そうかもしれないですね。『にっぽんの宝物JAPAN』は、誰かとのコラボレーションでも、足し算ではなくてかけ算になるような“組む素晴らしさ”というのを学べる機会です。そしてグランプリの審査はかなりシビアで、本当に本物しか勝てない。そこにも価値があると思います」 

大量生産の時代が去った今、小ロットのものを丁寧に加工し、付加価値をつけて売り出すべき

 ――そこまでして学び、上を目指すことに、何か意味や必要性を見出しているのでしょうか?

梅津「やっぱり、念頭にあるのは危機感ですね。前編記事でも申し上げましたが、環境の急激な“南方系化”だったり高齢化だったりで、昔よりもモノが減っているんです。農業でも漁業でも同じです。

だから、昔と同じやり方は通用しなくなっている。漁業で行くと、昔みたいに、海産物がガンガン取れていた時代なら、ざっくりした加工でひたすら量を回すことに徹すれば良かったですが、今はそうはいかない」

袈裟丸「はい。本当に、漁獲量は驚くほど減っていますから。大量生産時代の方法は通用しません」 

梅津「では我々は何をするべきなのかというと、小ロットの商品一つひとつの加工を丁寧にして、そして付加価値をつけていくことなんです。ストーリーを持たせ、価値をつけて、丁寧に作って、それを伝えていく。そうすると、多少、単価が高くても売れるんです」

――すごく美味しい、ということも価値の1つでしょうし、吉田さんの災害に立ち向かう農法であったり、袈裟丸さんの藻場の復活であったり、梅津さんの牡蠣の先に見る未来であったりも、大きな付加価値ですね。

吉田「繰り返しになりますが、これからの農業は、作れるだけでもダメだし、おいしいだけでもダメだと思います」

梅津「袈裟丸さんも、藻場再生の取り組みとウニのおいしさが話題になったことで、唐津のウニ自体の価値も上がりましたよね」

袈裟丸「それはありがたい反応ですね。唐津のウニの価値が上がれば価格も上がるのは当たり前で、そうすれば我々生産者も、そして仲買の方も潤う。そういう意味で、地域貢献できているかなとは思います」

「稼げる産業」になることが、日本の農業・漁業の未来も救う

――今後の展望や野望はありますか?

袈裟丸「私はとにかく、地球温暖化の問題に少しでも寄与できるように、今までの藻場再生の取り組みを続けつつ、情報発信をもっと広く行いたいです。私1人の力でも、これだけの広さの藻場を再生することができて、海の環境を取り戻すことができました。もっと、多くの方が意識を持って取り組むことで、生物多様性や温暖化の問題の解決にも繋げられると思います。そのためにも、やっぱり関係人口を増やしたい。地元はもちろん、九州や全国、公的、民間問わず、仲間が欲しいです」

――仲間がいないのが辛いというお話でした。

袈裟丸「はい。でも、海の環境は目に見えて悪化していて、全国各地で漁師さんの意識は変わってきていると思うんです。そして、ただ慈善事業的に環境保護活動を行うのではなく、海の環境を取り戻すことが、結果的に自分の仕事にもつながるんです。稼ぎが増えるんですね

――そういう意識の方が、人は動きやすいかもしれませんね。

袈裟丸「若い方の間では、そういう意識が広まっていると思います。そういう意識で、チャレンジとして1人50メートルでも100メートルでもいいので、藻場づくりや管理をやってみる、そうすると良いウニやアワビなどが採れるようになり、質が上がれば、自ずと単価が上がる。その過程で、海の環境も整っていく。多くの人に関わっていただくことで、そういう良い循環が生まれてほしいと思います」

――吉田さんはいかがでしょうか?

吉田「私がかねてから取り組んできた農法は、土の代わりにアイメックフィルムというものを使っていました。このフィルムのおかげで、水害時に水に浮かせることも可能だったんですが、費用も高く、破れたときは品質が低下するなどデメリットもありました。

そこで研究を重ねて、アイメックフィルムを使わなくても同等以上の栽培ができる方法を開発しました。同じように土は使わないし、普通のトマト栽培の10分の1の水で栽培できるのも特徴です。この新たな農法を、もっとオリジナルとして確立させたいというのが、目下の目標です」

吉田「それが形になると、水害多発地をはじめ、水が少なくて耕作に不向きな土地でもトマトが作れるし、例えば建物の屋上など、土がない場所での都市型農業も可能になる。都市部で地産地消が実現すれば、輸送に伴うCO₂も削減できたり、環境問題にも寄与できる可能性もあると思っています。

それに、ウクライナやパレスチナなど戦乱に巻き込まれている場所や、大きな災害に見舞われた土地の復興に望む際にも、農地を整備しなくても農業が始められます。発展途上国で、水が少ない土地で栽培することもできる」

――いろんな可能性が広がりますね。

吉田「ただ栽培ができるということではなく、きちんと美味しくて価値のあるトマトが安定して作れるようにしたい。付加価値のある農業には、継続してこだわりたい」

――梅津さんも、これまでもさまざまなチャレンジをして来られていますが、さらなる野望は?

梅津「大きな話をすると、水産業が、子ども達が一番なりたい職業になってほしい、ということですね。日本は今、食糧自給率がとても低いです。一方でしばらく人口は増える地球で、食糧を奪い合うことになる。そうなると、日本の食糧自給率の低さは致命的な問題になってくると感じています。

さらに日本は国力が後退しつつあり、若くて優秀な人から日本を見捨てて海外に出て行ってしまう未来も十分にあり得る。それは若い人が悪いのではなく、そうした状況をつくった大人の責任だと思うんです。

そうならないためにも、我々世代がこの国に魅力的な産業を作らないといけない。新たに産業を生み出すのはとても大変ですが、幸い、日本には豊かな山と海がある、これを活用しない手はないと思っているんです」

――そういう意味で、水産業が魅力的で稼げる産業にしたいわけですね。

梅津「そうです。先ほど紹介した牡蠣養殖システム『Ninja Oyster Basket』だって、低いハードルで漁業に参入できて、しっかり儲けを出せる可能性がある養殖として独自開発したものです。これを使えば世界中のどこの海でも養殖できるので、吉田さんのトマト農法と同じように、発展途上国にリースして現地の産業やタンパク源の確保に使ってもらうことだってできる。しかしまずは日本で、しっかり上手く作って売れる方法論を確立させて、日本に強い産業をもたらしたいですね」

――ずっと取り組まれている海の環境作りも、より重要になってきそうです。 

梅津「はい。海洋ゴミを回収できる装置の開発に取り組でいます。二枚貝などの海の生き物が生きやすい潮の流れや、海中の環境改善に寄与する資材の開発にも、精力的に取り組んでいます。漁師はただ資源を奪うだけであってはいけない。海に向き合い、資源バランスを考えた上で養殖もしないといけない。うまいものをつくるのなんて、わけないですから」

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変化する環境や社会に対峙しながら、「おいしい」だけでは終わらない価値を生み出そうと挑み続ける彼ら3人の姿は、「自分の足元から未来をつくる」ことの大切さを教えてくれているように思う。

この先、彼らが生み出す食材や物語がどのように広がり、どのような希望を地域にもたらしていくのか。佐賀の地から始まった挑戦は、これからも新たな可能性を示し続けていく。

撮影:中川千代美

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