小・中学校の不登校児が約30万人と急増… 鴻上尚史「不登校はたいした問題じゃない 大事なのは自分を守ること」
不登校に迷う子どもと親へ。作家・演出家の鴻上尚史さんインタビュー第1回/全4回。人生相談でも大人気の鴻上さんが、子どもたちへ送るメッセージとは。
小島よしおが「学校がつらい」 子どもへ伝授する “パワーギャグ”と隠された意味とは?小・中学校の不登校児が約30万人と急増し問題視される中、「不登校はたいした問題じゃないよ」と言いきるのは作家・演出家の鴻上尚史さん。俳優、映画監督、ラジオ・パーソナリティなど、さまざまな顔を持つ鴻上さんは「大人になったら学校に行ったか、行かなかったかなんて全然関係ない」とも続けます。
鴻上さんから「不登校に苦しむキミへ」のメッセージを聞きました。●鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)PROFILE
作家・演出家。1958年愛媛県生まれ。早稲田大学法学部卒業。1981年に劇団「第三舞台」を旗揚げ以降、数多くの作・演出を手がける。紀伊國屋演劇賞、岸田國士戯曲賞、読売文学賞戯曲・シナリオ賞など受賞。エッセイスト、小説家、テレビ番組司会、俳優、映画監督、ラジオ・パーソナリティなど幅広く活動。『君はどう生きるか』(講談社)ほか、著書多数。次のページへ > 「不登校は問題じゃない」そのワケは?
「いちばん大事なこと」は何かを考えよう
今、世の中では「不登校の増加」が大きな問題になっています。でも、僕は何が問題なのかよくわからない。行きたくないなら、行かなくていいんじゃないかな。
朝起きるのが面倒だとか友だちとケンカして顔を合わせづらいとかで、一時的に「学校に行きたくないな」と思うこともあります。そうじゃなくて、学校という場所に対して心が悲鳴を上げているなら、自分に無理をさせ続ける必要はありません。
キミにとっていちばん大事なのは、自分を守ることです。それ以上に大事なことなんてない。
まずは勇気を振り絞って、親に「学校に行きたくない」という気持ちを伝えてみましょう。親はあわてるだろうし、たぶんすぐには納得してくれません。でも、親もいつか必ず気が付きます。「この子にとって大事なのは、無理に学校に行かせることじゃない」って。
「行きたくない」と思う理由は、イジメだったり先生と相性が合わなかったり、学校という場の空気に耐えられなかったり、人それぞれいろいろあるでしょう。
すでに「行かない」という選択をしているキミは、とても立派です。自分にとって何が大事かを考えて、自分のために大きな一歩を踏み出せたんだから。自信を持ちましょう。
「学校に行かなかったら将来どうなるんだろう」と不安に思うかもしれない。親もそこが心配だったりする。でも、勉強は学校に行かなくても、どこでだってできます。学校に通い続けることで心のエネルギーが空っぽになったら、それこそ取り返しがつきません。
学校の存在意義って何だろうって考えると、結局は人間関係を学ぶことなんだよね。人間関係って言ってもすごくピンキリがあって、生涯の友人と言えるようなヤツに出会えるとか、とても幸福なグループを作れるっていう場合もあれば、ひどいイジメを受けて人間不信になるとか、人と話すのが怖くてたまらなくなるなんてことある。
もしキミが今、ひどいイジメを受けているなら、迷わず逃げてください。「逃げずに戦え」なんて無責任なことを言う大人もいるけど、イジメと戦っても余計に深刻なダメージを受けるだけです。
本当はイジメる側を学校から追い出したいところだけど、それは現状では難しいから、まずは早く逃げることで自分を守ってほしい。
学校が息苦しくて耐えられない場合もあるでしょう。周囲に合わせてばかりの毎日で、クラスメイトや先生の顔色ばっかりうかがっている自分が嫌でしょうがないとかね。
難しい言葉で「同調圧力」って言うんだけど、日本はとくにそれが強いと言われています。強い違和感を覚える人は、むしろ「正常な感覚」の持ち主なんじゃないかな。
学校に行ってもつらいだけでマイナスの人間関係しか学べないなら、行く意味はありません。今のキミにとって、学校に行くか行かないかは「重要な問題」だと思う。だけど、大人になって振り返ってみたら、ぜんぜんたいした問題じゃない。
学生生活を送るにせよ社会で働くにせよ、休まずに学校に行っていた人との違いなんてまったくありません。
人間は誰しも幸せになるために生きています。学校に行きたくないと悩んでいるキミや、学校に行けない自分を責めているキミに、あらためて言います。
今の自分にとって「いちばん大事なこと」は何かを考えてください。自分を守る道を選んでください。選ぶことができた自分をホメてあげてください。ゆっくり休んで、自分の道を歩き始めましょう。
取材・文/石原壮一郎