“ほのかりん”から“LYNN HONOKA”へ、様々な変化を経て創作と表現への意欲を高めている彼女の現在地
アーティストとしての名義を「ほのかりん」から「LYNN HONOKA」に改めることを発表した彼女が、3ヵ月連続で新曲をリリースする。第1弾となる「場末は月次」は、新鮮な作風を示す楽曲だ。どこか懐かしいムードを醸し出すメロディ、モダンなリズム、酒場の風景を描写する歌が、毒気も含むスタイリッシュなサウンドを構築している。5月と6月にも新曲のリリースが予定されていて、7月2日(水)にはワンマンライブ『LYNN HONOKA ONE MAN LIVE~美疢~』を原宿RUIDOで開催することも発表。様々な変化を経て創作と表現への意欲を高めている彼女にインタビューした。
――名義を「LYNN HONOKA」にしましたね。
そうなんです。今まではひらがな(ほのかりん)だったんですけど。
――音楽が嫌いになって、活動をやめようと思った時期もあったとお聞きしています。
音楽自体は好きだったんですけど、“私が作って歌う意味ってあるのかな?”っていうモードに入っちゃったことがあって。そういう時期を経て戻ってくることができました。
――自信喪失の理由は、何だったんですか?
私が思う“歌が上手い”“表現力がある”とかいう基準を満たすことができていないと感じてしまって。理想と現実が重ならないのが苦しくなったんだと思います。だから音楽を聴くのも一旦全部やめて、曲を作るのも締め切りが迫ってこないと手をつけなくなりました。そういう時期を経て、“やっぱり曲を作りたい”“歌いたい”みたいな思考を取り戻せたのかも。“シンガーソングライターとして音楽を聴く”ではなくて、普通に“私”として音楽と向き合う時間を取り戻せたのが良かったのかなと思っています。
――俳優やモデルとしての活動もしていますが、音楽も続けてきた理由は何だったんでしょうか?
私はもともとモノ作り全般が好きなんです。そういう中でも1人で作り上げるのは、歌と音楽なのかなあと。誰かと協力しながらのモノ作りは、創作だけではない思考が必要というか。1人で作るのが楽しいから音楽をやっているのかなと思います。でも、私は他人がどう思うかを気にし過ぎていたのかも。だから楽しくなくなっていたというのもあるのかもしれないです。
――音楽活動を評価してくれるファンは、ずっといましたよね?
はい。一時は“信じられない……”っていう気持ちだったんですけど(笑)。ほんとありがたいですね。リリースがしばらくなかった時期に“曲、楽しみにしてるよ”とか言ってもらえると“頑張ろう”と思いました。
――「場末は月次」は前作から約1年ぶりの新曲ですが、改めて始める音楽活動の第一歩ということでしょうか?
そういうことですね。吹っ切れたことによって、“まじで自分が描きたいことを描こう”“やりたいことをやろう”っていうマインドになったんです。だから一区切りじゃないですけど、今までの曲とは変わっていく意志も示したくて。そういう意味もあって、名義を「LYNN HONOKA」にしたんです。とはいえ、生み出すものは基本的には変わらない気もしますけど。
――私が「場末は月次」を聴いて感じた作風の変化は、情景を俯瞰で捉えて描写するような部分です。今までの曲はご自身の想いを表現するのが中心だったように感じるので、そこは変化の一つなのかなと。
今までは綺麗にしようとし過ぎるところもあったと思うんです。結論に辿り着こうとし過ぎる感じもあったので。「場末は月次」は、結論がない歌です。
――様々な人々が各々の想いを抱えて集う酒場の風景を切り取った曲ですからね。
そうなんです、その人にとっては重大なことでも、別の人にとっては全然重大じゃなかったり、相手にとっては“何の話ですか?”っていうのもあるじゃないですか? “感情って自分の捉え方次第だよね?”ということを伝えたいと思っていました。それはお酒を飲む場所だけではなくて、他のいろいろな場所にも当てはまるのかなと。私自身は、飲みに行くことが全然なくなっちゃったんですけどね。“私”をやめたい時に飲みに行ってたので、“バーネーム”を持っていたんですよ。
――バーネームって、偽名ですか?
はい。偽の職業、偽の名前を使って自分のことを知らない人がいるバーに行くのが好きだったんです。“どこで働いてるの?”“三軒茶屋のアパレルショップ”っていうような意味のない会話が楽しくて(笑)。そういう時期のことを思い出しながら「場末は月次」の歌詞を書きました。“なんでああいうのが好きだったんだろう?”って。ああいうのはある意味“逃げ”じゃないけど、“考え方のリセット”みたいなところもあって、そういう時間が好きだったのかも。私って外交的なんだと昔は思っていたんですけど、内向的だったということにも気づきましたね。
“こんなことを考えちゃいけない”って否定しようとする人もいますけど、嫌いなやつはやっぱり嫌いだし、むかつくことはむかつくんです。
――「場末は月次」の歌詞は、内向的な人だからこそだと思います。“どうせ気持ちはわかってもらえない”と“わかってもらいたい”の両方が込められているように感じますし、端的に言うとめんどくさい人の歌ですよ。
めんどくさい人ですよね(笑)。
――こういうめんどくさい性分は、大体の人が多かれ少なかれ持っているんだと思います。
そうですよね。どんな良い人の中にも毒は含まれていますから。“こんなことを考えちゃいけない”って否定しようとする人もいますけど、嫌いなやつはやっぱり嫌いだし、むかつくことはむかつくんです。そういうのをネガティブに捉えるのではなくて、“こいつキモ過ぎておもろいな”って捉えるくらいにまで行けたら、人生はもっと楽しくなるのかなと思います。
――「場末は月次」というタイトルは、“月次”という言葉が目を引きます。“げつじ”と読むのが一般的ですけど“つきなみ”という読みもあるんだと初めて知りました。
Podcastで『スナックおりん』というのをやっていて、そのオープニングジングルとして作ったのがこの曲なんです。それもあってタイトルに“月次”を入れました。Podcastは月1じゃなくて週1ですけど。
――音源としてリリースするためにフル尺にしたんですか?
はい。広げていくのが難しかったです。トラックもジングルでは自分で打ち込んで作っただけだったんですよ。もともと最初の部分の歌をラジオボイスみたいにしていたので、その感じを活かしてもらっています。サウンドプロデュースをお願いしたESME MORIさんのエッセンスも入れて作っていただきました。
――ジャジーなサウンドですね。
ジャズとかオーケストラっぽいサウンドが好きなんです。最近、インストばっかりを聴いているんですよね。『ハウルの動く城』や『オペラ座の怪人』のサウンドトラックとか。あと、トリプルファイヤーもよく聴いてます。ライブも行きました。“あんな歌詞、書きたい。書けたら楽しそう”“いるよね、こういうやつ”って思うんですよね。昔は泣ける歌詞の曲とかが好きだったんですけど、無駄にエネルギーを持って行かれないのが最近は好きなのかも。昔は“邦楽しか聴かない”っていう謎のプライドみたいなのがあって、歌もののJ-POPばかりを聴いていたので、リスナーとしても変化してきています。
今、音楽に対して一番楽しいかも。曲を作るのは好きだけど、歌うのは私じゃなくてよくない?って思っていた時期があったのに。
――「場末は月次」のトラックの全体像に関しては、ESME MORIさんとどのようなことを話し合いましたか?
この曲から始まる3ヵ月連続のリリースを全部ESMEさんにお願いしていて、「場末は月次」を最後に作ったんです。5月にリリースする曲とサウンド感が似ちゃうかもしれないという懸念があって、“もうちょっと電子音っぽくしようか?”ということを話していました。でも、最終的にはシンプルになっていったんですよね。電子音の要素がありながらもジャジーな要素もあるサウンド感になりました。
――土台のリズムは令和の雰囲気ですが、レトロ感も醸し出されていますね。
昭和歌謡も好きなんですよ。最近、山本リンダさんとかを聴いています。あと、歌謡曲ではないですけど、バービーボーイズも好きです。“こういうのを男女で歌いたい!”ってなるので。私はアイドル、昭和歌謡、ボカロとかを通ってきたので、これからどう進んで行くにしても、ジャパニーズエッセンス的なことは忘れたくないなと思っています。洋楽は、最近になってやっと聴き始めました。
――どの辺りを聴き始めたんですか?
ほんと“洋楽おすすめトップ10”みたいな感じです。
――ブルーノ・マーズとか?
ほんとそのレベルです。ビリー・アイリッシュが好きです。今、音楽に対して一番楽しいかも。歌うことに対しても“できる人がやればいい”、“曲を作るのは好きだけど、歌うのは私じゃなくてよくない?”って思っていた時期があったのに。私が作って私が歌ったら“私が言ってる。そう思ってる”みたいになるのも嫌だったんですよ。そういうのも吹っ切れました。ESMEさんと一緒に作っていくのも楽しかったです。“こんなに褒め言葉を浴びていいんだろうか?”っていうくらい褒めてくださって、“嘘つけ!”って言いながら一緒にお酒を飲んだりもしていました(笑)。
――(笑)。お酒、好きですよね?
好きですね。お酒の場ってやばい人たちが集まるじゃないですか? フラストレーションを家に持って帰って、“あいつ、なんだったんだ?”って思いながら曲を書くタイプだと自分のことを思ってます(笑)。私はやっぱり、良い人にはなれないんですよ。
――「場末が月次」は、微妙なムードの飲み会が行われている居酒屋の有線とかで流れたら、ぴったりなのかも。さらに微妙なムードになるでしょうね。
それ、いいですね(笑)。TikTokでも使ってくれたら嬉しいです。日常的な出来事を描いたつもりなので。
今の私は、つんく♂さんになるために頑張ってるんです。“いつか私もハロプロ作るぞ”みたいな。
――TikTokがきっかけで、女性アイドルグループの「きゅるりんってしてみて」にはまったんですよね?
はい。きゅるして(きゅるりんってしてみての略称)には、私がミスiDを受けた時に一緒だった女の子もいるので、存在はずっと知っていたんです。まんまとはまりました。ほんとかわい過ぎて。まじでライブに行こうと思ってます。
――アイドルグループのメンバーになりたいと思ったことはないんですか?
私?(笑)
――はい。10代の頃にオーディションを受けたら活躍できたと思います。
そうだったのかなあ? 秋葉原のAKB48劇場に行ったりもしていたし、ずっとアイドルが好きだったのに、自分がメンバーになるという思考がなかったんですよね。恋愛禁止条例とかが無理だったのかも。やっぱりオタクとして“かわいいー!”とか言ってるのが楽しいんだと思います。
――アイドルグループのプロデュースには関心があるんじゃないですか?
まじでやりたいんです。“かわいい”を自分で作れるっていうことですからね。曲提供とかもやってみたい。
――きゅるしてからオファーが来たらどうします?
大喜びします(笑)。今の私は、つんく♂さんになるために頑張ってるんです。つんく♂さんのシャ乱Qでの活動みたいな感じですね。“いつか私もハロプロ作るぞ”みたいな。
――きゅるして以外の最近の気になるアイドルは?
夢喰NEONのメンバーだったはうきくんがZOCXに入って(現在のメンバーネームは“猫猫猫 はう”)、“くっ、くやしー! 観たい!”ってなってます(笑)。
――(笑)。3ヵ月連続リリースがきっかけとなって、音楽活動の場がさらに広がっていったらいいですね。
そうなったら嬉しいです。5月にリリースする「中指」は、TikTok向きなんじゃないかなと思ってます。
――今までにリリースした曲も、TikTokで使われているんじゃないですか?
「メロンソーダ」をメロンソーダの動画の投稿で使ってもらえているのを最近知りました。「場末は月次」も使ってもらえたら嬉しいなあ。ショートドラマでも使えるのかも。でも、SNSの使い方って難しいですよね。私はまだ観る専です。Twitter世代なので、短く面白いことを言いたくなっちゃうんですよ。“140文字以内で下ネタを言いたい”みたいな。下ネタが好きなので、どぶろっくへの楽曲提供も目指しています。どぶろっくの「きぇんたま」が好きです(笑)。
“女らしさ”と“毒”が、私のアイデンティティ、個性なのかなと最近思っていて。でも、病んでる感じにはしたくなくて。
――(笑)。「場末は月次」から始まる3ヵ月連続リリースは、5月に「中指」、6月に「soup」が予定されています。 今後の2曲に関して現時点で言えることは?
「中指」は、“金に物を言わせてくるやつ、死ねや”“男女がぎゅっとすると、どうせエッチな方向にしか進まないと思ってるから、ご飯をおごったくらいでなんちゃらかんちゃらとか言ってくるんじゃねえよ。中指”っていう曲になってます(笑)。「場末は月次」もそうですけど、“女であること”を一貫して描いているんでしょうね。
――「soup」では、どのようなことを描いているんですか?
「soup」に関しては、死生観を描きたいというのがありました。自分はどういう死に方をしたいのか?って考えた時に、“水に還りたい”って思ったんです。そこから、裏切られた女の子が“自分にとって最高の死に方で彼を殺そう”となっていくのが「soup」のストーリーです。彼を好きでい続けるために、自分が一番好きな方法で殺して美味しいスープにするんです。
――3ヵ月連続でリリースする曲は、一貫して毒みたいなものがあるようですね。
テーマは“毒”かもしれないですね。“女らしさ”と“毒”が、私のアイデンティティ、個性なのかなと最近思っていて。でも、病んでる感じにはしたくなくて。病んでると思われたりもするんですけど、私はめっちゃポジです。思考がそういうところを回っていくけど、結局ポジに着陸するんですよね。“毒”も楽しんでるというか。
――「soup」で描いた死生観も、“生きるとは?”を描いているという点でポジティブとも言えるように感じます。
“自分ってどういう死に方をするんだろう?”って考えますよね? 死、男と女、セックス、っていうような話は、タブー視されているところがありますけど、“なんで?”って思います。生きづらい人生です(笑)。男女の恋愛を描くのは飽きているので、「soup」みたいな歌詞を書いていきたいんですよね。
今は“かっこつけるのはやーめよ”ってなりました。今までにやったことないことをどんどんやっていきたいです。
――3ヵ月連続リリースの後は、7月2日に原宿RUIDOで『LYNN HONOKA ONE MAN LIVE~美疢~』が開催されますね。どのようなライブにすることをイメージしていますか?
ワンマンライブは久しぶりなんですよ。前から公言しているんですけど、私はライブを“楽しい”と思ったことがなくて(笑)。なぜなら品定めされてるような気持ちになるから。でも、この間『Tune Live 2025』のオープニングアクトで久々にライブをしたら、すごい楽しくて。7月のワンマンライブ、楽しみになっています。昔の曲ももちろんやるんですけど、今だからできる昔の曲の歌い方ができるんじゃないかなと思っています。
――ワンマンライブのタイトルに入っている“美疢”は“びちん”と読むんですね。初めて聞く言葉です。
私も初めて聞きました。タイトルを“毒”に関連した言葉にしたくて調べていた時にこの言葉と出会ったんです。“美しいが毒となるもの”“いたずらに人に好意を示すのは、かえってその人にとって災いとなること”というような意味です。「場末は月次」「中指」「soup」にも合う言葉だし、良いんじゃないかなと。
――ライブはバンド編成でやるんですか?
はい。フルバンドでやります。初めてキーボードが入るのも楽しみです。懐かしい曲から新しい曲までやることになりますね。「メロンソーダ」とか、ベースになるものを作ったのは十代の時ですけど、作った頃のことを何も覚えてなくて。だから変な感情が乗ることがない状態で歌えるのかもしれないです。「東京」もすごく昔に作ったので、“あんなかわいい頃があったんですね”って思ったりもして(笑)。“あんまりライブで歌いたくないなあ”って昔は思ってた曲も、久々に歌いたいなってなっています。
――やはり心境の変化がいろいろあるようですね。
そうなんです。私、かっこつけなので“おしゃれな曲を聴いてなきゃいけない”みたいなのも昔はあったんですよ。だから“インタビューでアイドルを聴いてるって言っちゃいけない”みたいなのがあって(笑)。今は“かっこつけるのはやーめよ”ってなりました。今までにやったことないことをどんどんやっていきたいです。
取材・文=田中大 撮影=菊池貴裕