憧れのスローライフが「村の掟」によって恐怖のどん底へ?“田舎こわい”を超リアルに描く『嗤う蟲』
地方移住の魅力とリスク
コロナ禍によって急速に普及したテレワークを追い風に、空前の“田舎暮らし”ブームが巻き起こっている。過疎化によって働き手を失った各地方都市ではUターンやIターン、Jターンによる移住者を積極的に誘致・支援している。
Uターン勢にとってはあまり問題にならないことだが、急激に環境が変化する地方移住にはリスクも伴う。いきなり寒村の古民家を購入しド田舎ライフをゼロからスタートさせる猛者も中にはいるが、都会暮らしに慣れた者にとっては地元民との交流や距離感の相違、それらに順応していくことは大きな課題だ。
まずは移住を決めた地方都市の市街地で“お試し”的にマンション暮らしなどをし、1年を通した暮らしやすさを確認するのも推奨される。たとえば厳寒地などは夏場こそ冷房なしでも過ごしやすいが、冬場の光熱費や灯油代はバカにならない。また、とくに単身者は厳しい寒さによって体調を崩したタイミングなどでメンタルを削られてしまうこともあるようで、本格移住前の確認を怠るべきではないだろう。
「田舎こわい」映画の真打ちが日本から登場!
日本だけでなく世界中で注目される“田舎暮らし”だが、移住する/しないにかかわらず“未知の環境”へ足を踏み入れるシチュエーションは、古くからジャンル映画の題材になってきた。スプラッタの金字塔『悪魔のいけにえ』(1974年)は米テキサスの片田舎に足を踏み入れた軽率な若者たちがヒドい目に遭うお話だし、近年でも大ヒットした『ミッドサマー』(2019年)は北欧の因習がグチャドロの顛末を迎える“真っ昼間”スリラーだった。
そんな“田舎こわい”ムービーの真打ちとも言える作品が、日本映画界から誕生した。全国各地で起きた村八分事件をもとに、実際に存在する“村の掟”の数々をリアルに描いた、その名も『嗤う蟲』。憧れの田舎でのスローライフ! のはずが“村の掟”に縛られ、背いた者は常軌を逸した制裁によって恐怖のどん底に突き落とされるという、まさに「村スリラー」のお手本のような物語だ。
怪しい“村の掟”に翻弄される若き夫婦
田舎暮らしに憧れるイラストレーターの杏奈(深川麻衣)は、脱サラした夫・輝道(若葉竜也)と共に都会を離れ、麻宮村に移住する。麻宮村の村民たちは、自治会長の田久保(田口トモロヲ)のことを過剰なまでに信奉していた。
村民たちの度を越えたおせっかいに辟易しながらも、新天地でのスローライフを満喫する二人。しかし、そんな生活のなかで杏奈は、麻宮村の村民のなかには田久保を畏怖する者たちがいる、と不信感を抱くようになっていく。
一方、輝道は田久保の仕事を手伝うことになり、麻宮村の隠された<掟>を知ってしまう。それでも村八分にされないようにと、家族のため<掟>に身を捧げることにするが……。
深川麻衣×若葉竜也×城定秀夫
絵に書いたような田舎移住を満喫する主人公=若き女性を演じるのは、「まんぷく」「青天を衝け」「特捜9」など数々のドラマや映画に出演している深川麻衣。その夫を「アンメット ある脳外科医の日記」や『街の上で』『市子』などの話題作への出演が相次ぐ若葉竜也が演じる。
脇を固めるのは、松浦祐也、片岡礼子、中山功太、杉田かおる、田口トモロヲら豪華キャスト陣。脚本は、実際に起きた事件を描いた初長編『先生を流産させる会』が話題を呼び『許された子どもたち』『ミスミソウ』でも高評価を受けた、社会派作品に定評のある内藤瑛亮が手掛ける。
そして監督を務めたのは、『性の劇薬』『女子高生に殺されたい』などを手掛け、『アルプススタンドのはしの方』で第42回ヨコハマ映画祭監督賞、第30回日本映画プロフェッショナル大賞監督賞を受賞するなど業界内外での評価が高い鬼才・城定秀夫だ。
『嗤う蟲』は2025年1月24日(金)より新宿バルト9 ほか全国ロードショー