妙高市のNPO法人「平丸スゲ細工保存会」が解散 “伝承の形”探りながら制作は継続
新潟県妙高市平丸地域に伝わるスゲ細工を継承し、毎年えとにちなんだ置物を制作してきたNPO法人「平丸スゲ細工保存会」が2024年10月5日、解散した。人手不足をはじめ、主に制作に携わる会員の家庭の事情や体調不良などが重なり、これまでと同様に活動していくことが困難となり決断に至った。作品の定期購入者も多数いることから、同NPOの理事長を務めてきた柴野美佐代さん(62)とスタッフが個人事業として制作、販売を続ける。
《画像:今年のえと「辰」を制作する様子(2023年撮影)》
最盛期は平丸地域の約200人が携わる
山あいにある雪深い平丸地域では、1958年から、冬期間の収入源としてスゲ細工が盛んに行われていた。最盛期は約230世帯あった集落で200人ほどが携わっていたが、時代の流れとともにスゲ細工の需要が年々減少した。
2013年、若者のひきこもり支援の市民団体「ぷらっとほーむ」が作業体験として取り入れ、代表を務めていた柴野さんらが地域のスゲ細工名人からスゲ栽培や制作の指導を受けた。翌年も指導を受けることになっていたが、高齢化などから当時5人いた作り手のほとんどが制作をやめる事態になったという。
伝承のため2015年にNPO設立
早急な伝承活動を進めるため、柴野さんらは保存会設立に向け、スゲ細工制作名人の助言を得て保存会設立準備委員会を立ち上げ、後の2015年3月、同NPOを設立。以降、毎年えとにちなんだスゲ細工の置物の制作販売をはじめ、一般向けの体験講習会を実施したほか、上越市板倉区には「スゲ細工資料館」をオープンさせるなど伝統の灯をともし続けてきた。
《画像:昨年のえと「卯」の作品》
会員の体調不良などが重なり解散決断
解散は柴野さんの腰椎圧迫骨折やスタッフの家族の介護など、さまざまな事情が重なり、昨年から話し合ってきたという。えとの置物を作るだけではなく、スゲ栽培も自前で行うことから、草取り、肥料まき、スゲの刈り取り、選別、乾燥作業などを全てこなす。重労働で人手不足な上、これまではスゲを乾燥、保管する場所として旧平丸小学校を利用してきたが、昨年取り壊され作業スペースがなくなるなど、現状の人員では手が足りず、これまでのペースで作品制作ができないと判断した。
最後の活動は大学生へ体験指導
NPOとしての最後の活動は10月3日。県立看護大学の学生に柴野さんらがスゲを使ったリース作りを指導した。同大のカリキュラムとして学生らの依頼で行われてきた活動で、学生たちはペアになり、スゲに水気を含ませながら力を入れてスゲをねじるなどの作業を真剣に取り組んだ。資料館なども見学し、柴野さんは「縁があり、体験してくれることがありがたかった。リースを見るたびに制作した思い出、達成感がよみがえると思う」と学生たちに話した。
《画像:最後の活動は柴野さん(中央)らが学生にリース作りを指導した(10月3日撮影)》
望む声ある限り作り続ける
来年のえと「巳」の制作もこれから本格的にスタートする。各地から今年も注文の連絡が入り始めている。柴野さんは「毎年購入してくださる方もいらっしゃる。作り続けないと(伝統が)終わる。望む声がある限り作り続ける。新しい出発。自由に前向きに活動し、伝承の形を探っていきたい」と語った。同NPOで管理してきた「スゲ細工資料館」、下平丸の「スゲ細工創作館」の2施設は維持していくほか、今後はえと以外の作品制作にも挑戦すると意欲を見せている。
制作依頼についての問い合わせは柴野さん090‐3548‐7370( tel:09035487370 )。