管理職はツラいだけじゃない。メリット・デメリットや“無理ゲー”の攻略法を専門家に学ぶ
キャリアアップを果たすうえで、一つの契機となるのが「管理職への昇格」です。自分自身の成果を上げることに注力できていたポジションから、組織や事業など自分以外の存在に対して責任を負わなければならないポジションへ。責任の範囲も視点もプレーヤー時代から大きく変わります。
管理職のメリットやデメリットはどこにあるのか。管理職の面白さや大変さはどんなところか。管理職としてキャリアを築いていくには、どんな点を意識すべきか。
今回はあらゆる組織のオペレーション分析を通じて中間管理職の働き方改善に取り組んできた専門家のコメントをもとに、管理職のメリット・デメリットと、“攻略法”を解説します。
監修者
中谷 一郎(なかたに・いちろう)
トリノ・ガーデン株式会社 代表取締役。鳥取県鳥取市出身。北九州市立大学卒業後、2005年(株)ベンチャー・リンク入社。2010年にトリノ・ガーデン(株)を設立し、オペレーションに特化した分析サービスを展開。IEや人間工学、心理学、脳科学などを用いたアプローチにより、分析だけでなく改善・定着までを手がける。オペレーション科学の専門企業として、世界規模の飲食チェーンから創業190年の老舗料亭といった飲食業をはじめとし、医療、介護、小売、教育、建設など幅広い分野の生産性改善の取組みに従事。
著者近刊:
『オペレーション科学』( https://amzn.asia/d/1iUrbas )(柴田書店、2022年)
『中間管理職無理ゲー完全攻略法』( https://amzn.asia/d/cjLPEh3 )(CCCメディアハウス、2024年)
※取材はリモートで実施しました
プレーヤーと管理職では「ゲームのルールが全然違う」
マイナビ転職が800名の管理職を対象に行なったアンケート(※1)によると、「管理職になって良かった」と感じている人は全体の60.8%にのぼりました。さらに、この割合は役職が上がるほど高まり、本部長クラスは8割が「管理職になって良かった」と感じているようです。
この結果について、中谷さんは「プレーヤーと管理職の仕事の違い」という観点から「納得感がある」と語ります。
「管理職の仕事は、現場のプレーヤーとはまったく違います。プレーヤーよりも責任の重い仕事が増え、目の前の仕事をこなすだけでなく先を見通す必要も出てきます。この“責任の重さ”と“見通さなければならない期間”は役職が上がるほど重く、長くなっていくと考えてください。
プレーヤーと管理職の違いは『ゲームのルール(やるべきことや評価軸)の違い』と理解していただくと分かりやすいかもしれません。“具体的”なものから、より“抽象的”なものに評価軸が変わるわけです。
プレーヤーが取り組むのは、いかに速く、いかに効率的に、いかに大量の仕事をさばけるか、そのプロセスでいかに高品質なアウトプットを出せるか、というゲーム。一方の管理職はいかに組織の成長スピードを上げるか、ビジネスの規模を大きくできるか、というゲームです。もちろん、比率自体はプレーヤー時代より減るものの、管理職も前者のような具体的な仕事をやらなくていいわけではありません。
自転車をこぎさえすればいいプレーヤーと、自転車をこぎながら自転車よりも速く走るオートバイをつくらなければならない管理職。
こんな風にたとえると、双方の役割の違いが伝わりますでしょうか。そして、オートバイをつくって終わりではなく、次はオートバイを走らせながら『自動車をつくる』というタスクに取りかかる必要がありますが……。
こうして、プレーヤーの頃とは違う、「具体と抽象を行き来して、目の前の仕事よりも組織や事業の成長にコミットする」という新たな“ゲーム”を楽しめる人が管理職として活躍しているわけですから、役職が上がれば上がるほど『管理職になって良かった』と感じる人が増えるのは当然といえます。逆に、その“ゲーム”を面白いと感じられない人は、管理職を希望しませんよね」
管理職は「ゲームのルール変化に伴うストレス」を経験する
一方、アンケートでは約7割が「管理職になったことで心身の健康が損なわれた」と回答しています。
その理由について、一般的には「業務負荷の大きさ」や「部下との人間関係」が挙がる一方で、中谷さんは「ゲームのルールが変わることで生じるストレスもありそうだ」と指摘します。
「業種や職種によっては時間の使い方に影響が出るので、それをストレスに感じる方もいるでしょうね。
目の前の作業に集中すればよかった頃は、仕事の終わりがすなわち『思考の終わり』でもあったわけです。しかし、管理職になると思考の内容が抽象的になるので、勤務時間後も、下手をすると休日であっても、ずっと仕事のことを考え続けられてしまいます。おそらく、これがストレスや精神的な疲労を招く原因になっているのでしょう」
こうしたストレスに加えて、中谷さんいわく「事業と自分自身の成長スピードの違い」に悩む管理職も多いと言います。
「管理職は事業の成長にコミットするポジションですから、自分の成長スピードが事業の成長スピードと合致するのが理想です。でも、事業の成長はアンコントローラブルな側面も大きく、それは非常に難しい。仮に事業の成長スピードに管理職の成長スピードが追いつかない場合、ついていくのに必死な状態になってしまいます。がんばって追いつくことができたときの達成感は大きいのですが……。逆に、管理職の成長スピードが事業の成長スピードを追い抜いてしまった場合は、仕事の満足感が得にくくなる、というジレンマも生まれます。会社を変える以外の方法で、この悩みを完全に解決するのは難しいでしょうね」
「管理職手当」は管理職になるメリットとなりうるか
こうした話を聞いて、「管理職になるのはデメリットの方が多そうだからやめておこう」と考える人もいるかもしれません。
しかし、中谷さんは「メリットやデメリットは、単に“リスク”をどう捉えるかだけの話」だと言います。
「大昔、人類はざっくりと狩猟民族と農耕民族に分かれていました。狩猟民族は大きな獲物を狩るチャンスがある一方で、命が危険にさらされるリスクもありました。農耕民族はそうしたリスクにさらされにくい一方で、手間暇かけて育てた作物が自然災害でダメになるリスクもあったわけです。つまり、どちらの道を選んでもリスクはあるんです。
これは現代も同じです。会社員かフリーランスか。社内ベンチャーか起業か。そして、現場のプレーヤーか管理職か。いずれの選択肢もリスクとリターン、デメリットとメリットが共存しています。
実際、管理職には業務負荷が大きいというデメリットがある一方で、プレーヤー時代よりも組織や事業の成長にコミットできる、それを通じてハイキャリアを目指せる、という大きなメリットもあるわけです。
報酬もメリットの一つですよね。業種や職種、企業にもよりますが、例えば管理職手当などの制度的なサポートが充実している場合もあるでしょう。
ただ、管理職に対する制度的なサポートの量は、事業のフェーズ次第で変わります。一概にサポートが厚いのが善で、薄いのが悪と考えないほうがよいかもしれません。
まだ成長途上にある組織においては、たとえ管理職への手当が薄くとも、その分を投資に回してもらえれば将来のリターンを最大化できる、と考える。逆に、事業のフェーズが進み、成長が鈍化した組織においては、目に見える手当を求めていく。納得感をもって働くためには、そんなスタンスも重要かもしれません」
管理職になりたい人が今からやるべきは「時間の管理」
では、理想の管理職になるために、どのようなアクションが必要なのでしょうか。
アンケートによると「管理職の悩み」で最も多かったのは「マネジメント業務の負荷」。
この点について中谷さんは「コミュニケーションのテクニックもさることながら、まずは自分の特性に合ったリーダー像を目指すべき」だと語ります。
「リーダーにはいくつかのタイプがあります。まず、『黙ってついてこい』と力強く部下を引っ張る『指導者』タイプ。このタイプのリーダーは成長期の組織と親和性が高く、成果を上げれば報酬が上がっていくような環境で成功しやすいといえます。
次に部下と仲良くコミュニケーションしながらマネジメントする『友人タイプ』。部下との相性が良ければパフォーマンスを出せますが、そうでない場合には注意が必要です。
そして、コミュニケーションを綿密にとりつつも要所要所でフィードバックを行う『伴走者』タイプ。管理職自身が飛び抜けた実績を持っていなくても部下を引っ張れる、バランスのとれたリーダータイプです。
変化の激しい現代のビジネスシーンでは、自分の上司をロールモデルにできないことも多く迷いが生じがちですが、部下のマネジメント方法に悩んだ時は、まずは万人に通用する『伴走者』タイプを目指せば間違いないでしょう」
最後に、これから管理職を目指す人は、理想の管理職に近づくためにどのような点を心掛けるといいのでしょうか。
中谷さんがおすすめするのは「時間を管理する」こと。
「先ほどお伝えした通り、管理職は『自転車をこぎながらオートバイをつくる』ようなポジションなので、プレーヤー時代よりもやることが増え、常に時間に追われます。だから、何にどれくらいの時間を使ったのか、今からでもタスクの記録をつけておくことをおすすめします。そうすることで、管理職になってゲームのルールが変わったとしても、円滑に仕事を回せるはずです。
そもそもタイムマネジメントは、記録を通じてとにかく『可視化』することが重要です。可視化されないものが、磨かれることはありませんから」
管理職になってよかったと感じる人もいれば、管理職になって心身の健康を損なう人もいます。その原因は報酬の多寡だけでなく、「ゲームのルール変化」に対する適応力があるか、目指すべきリーダー像を定義できているかなど、さまざまな要因がからみあっていることが分かりました。
管理職を目指すのか。目指すとしたら、どんな管理職が自分に合っているのか。中谷さんのアドバイスをもとに考えてみてはいかがでしょう。
管理職の仕事に対する解像度を上げると、昇格、その先のキャリアアップも見えてきます。マイナビ転職には「給与アップ」を実現する求人が数多く掲載されています。ぜひチェックしてみてください。
( https://tenshoku.mynavi.jp/content/declaration/?src=mtc )
取材・文:はてな編集部、山田井ユウキ
編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職
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