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前橋の焼きまんじゅうは「原嶋」と「田中」に注目! 江戸時代生まれの名物おやつ

さんたつ

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小麦の産地である群馬県では、昔からまんじゅう文化が盛ん。なかでもまんじゅうを蒸して串に刺し、甘辛い味噌だれをつけて焼く「焼きまんじゅう」はこの街の名物だ。頬張れば、郷愁誘う景色が心に浮かぶ。

焼きまんじゅう たなかや 朝日町店

焼きまんじゅうの礎を築いた始祖『原嶋屋総本家』

初代の生家を模した店内で焼き上がりを待つ、格別なひととき。

「焼きまんじゅうは一種の総合芸術。生地とたれ、そして焼きの技術。3つのうちどれか1つが欠けてもいけません」と、5代目の原嶋雄蔵さん。注文を受けてからじっくりと、たれをつけては焼き、つけては焼きを丁寧にくり返す。使用しているのは、赤味噌とザラメをベースにした自家製だれ。表面のカリッとした歯触りが楽しく、中はふわっ。これぞ「焼きまんじゅうの元祖」と呼ぶべき正統派の品だ。

5代目の原嶋雄蔵さん。
まんじゅう生地のもっちり食感と、味噌だれの甘みに癒やされる。やきまんじゅう200円。

『原嶋屋総本家』店舗詳細

原嶋屋総本家
住所:群馬県前橋市平和町2-5-20/営業時間:10:30~17:00(売り切れ次第終了。イートインは平日~15:00)/定休日:火(祝の場合は営業)/アクセス:上毛電気鉄道中央前橋駅から徒歩20分、または中央前橋駅から徒歩9分の「表町」から日本中央バス「桃泉」行き約7分の「原嶋屋北」下車すぐ

改良を重ねた独自の甘口スタイル『田中屋本店』

1串5個の超重量級。甘めの味噌だれから、ごまがふわりと香る。あんなし焼きまんじゅう260円。

焼きまんじゅうは1串4個が一般的だが、こちらは5個。一つ一つが若干大きめで、受け取った時にズシッとくる重さにテンションが上がる。ザラメをたっぷり使った甘めの味噌だれにひと口目からインパクトを感じつつ、それでいて変に後を引かずキレがいいので、意外とぺろりと完食。味噌だれを仕込む際に炒りごまを一緒に投入しているおかげで、その甘さをかい潜るようにしてごまの風味が漂う。

3代目の下で腕を磨く小林英二さんが焼きを担当。
店内にはイートインスペースも。

『田中屋本店』店舗詳細

田中屋本店
住所:群馬県前橋市下小出町3-2-1/営業時間:9:00~18:00/定休日:月(祝の場合は営業)/アクセス:JR両毛線前橋駅から関越交通バス「群馬大学荒牧」行き約18分の「下小出」下車3分

まんじゅう生地の素朴さが際立つ『田中屋製菓』

まんじゅう生地のもっちり食感と、味噌だれの甘みに癒やされる。やきまんじゅう200円。

あえて焼き加減を浅くすることで引き出されるのは、まんじゅう生地の魅力。ふんわり、もっちりとした食感に自然と笑みがこぼれ、食べ進めるごとに深まる小麦の滋味、麹の風味を実感する。3代目の小野昌人さんに聞くと「餅米をお粥にして米糀を加え、元種を作るのですが、これが普通より濃いからそうなるのかも」とニッコリ。完成の直前、仕上げにひと塗りする味噌だれがツヤっと光る。

焼きまんじゅうは持ち帰りのみ。
「パック詰めにすれば手みやげにも」と小野昌人さん。

『田中屋製菓』店舗詳細

田中屋製菓
住所:群馬県前橋市若宮町1-7-4/営業時間:10:30~19:00(売り切れ次第終了)/定休日:水/アクセス:上毛電気鉄道中央前橋駅から徒歩14分

甘辛いお焦げの香りが店先まで漂う『焼きまんじゅう たなかや 朝日町店』

甘さを抑え、味噌の塩味を生かしたオリジナリティあふれる味わい。ミックス(通常・あんこ)300円。

甘めの味噌だれで代々やってきたが、3代目の小野敏さんがガラリと一新。甘さを抑え、味噌の塩味を効かせた硬派な味わいが、それまで甘党がほとんどだった焼きまんじゅうのファン層を広げた。味噌や麹は県内の老舗『こうじや 德茂醸造舗』のものに替えたことで、焼き目の香ばしさがより一層ふくよかに。あんこ入りを食べた時に、口の中で合わさって甘じょっぱくなっていくのも絶妙。

前橋のコミュニティーFMでパーソナリティも務める小野敏さん。
店内での飲食も可能。

『焼きまんじゅう たなかや 朝日町店』店舗詳細

焼きまんじゅう たなかや 朝日町店
住所:群馬県前橋市朝日町3-12-7/営業時間:10:00~18:00/定休日:水/アクセス:JR両毛線前橋駅から徒歩19分、または前橋駅から日本中央バス「城南運動公園」行き約5分の「ココルンシティ」下車3分

江戸後期に生まれ、前橋で育まれた気軽なおやつ

焼きまんじゅうの原型

冬にはからっ風が吹き荒ぶ群馬県。乾燥した気候が小麦や豆の栽培に適し、昔からたくさん採れた。農家ではそれらを使い、自分たちで食べるまんじゅうや味噌を当たり前のように手作り。

「だから、焼きまんじゅうの原型は、かなり昔からこのへんの家庭にあったと思います」

焼きまんじゅうの発祥については諸説あるが、有力なのは『原嶋屋総本家』。5代目・原嶋雄蔵さんによると、初代の類蔵は農家の長男だったが、いも串(蒸したサトイモを串に刺し、味噌だれを塗って炙〈あぶ〉ったもの)をヒントに、まんじゅうを串に刺して「みそつけまんじゅう」として売ることを思いついたという。店を始めた安政4年(1857)当時、砂糖は希少で庶民には手が届かなかった。類蔵の店も例外でなく「最初はだいぶしょっぱかったと思います」。

明治に入ってようやく前橋でも黒蜜が出回り、一緒に店を切り盛りしていた妻が甘味噌にすることを提案。それで人気に火がついた。

時が経つにつれて焼きまんじゅうも個性豊かに

県内には今も多くの焼きまんじゅう店が存在。しかし、生地やたれを一から作る店は近年減ってきている。前出の『原嶋屋総本家』同様、自家製を貫くのが『田中屋』の看板を掲げる3軒。『田中屋製菓』の小野昌人さんいわく「祖父(初代)と、朝日町の『たなかや』の初代が兄弟。本店の初代は祖父のいとこにあたります」。

3人で『田中屋』(現本店)を始めたが、やがてそれぞれの店を持つことに。「今では3軒とも全然違う味」と『焼きまんじゅう たなかや 朝日町店』の小野敏さん。素まんじゅうが基本の焼きまんじゅうに餡入りが登場したきっかけにも諸説あるが「うちの祖父が始めたと聞きました。本店は給食用のパンを作っていた時期があって、餡子も身近にあったから入れたんだって」。

ところで、創業者は小野さんなのに、なぜ『田中屋』?

「田んぼの中に店があったからそう決めたとか。祖父の冗談かもしれませんけど。かっこいい話じゃないですよね」

そう言って『たなかや』の小野さんは笑うが、のどかな風景を思い浮かべながら頬張る焼きまんじゅうは、より一層味わい深い。

取材・文=信藤舞子 撮影=井上洋平
『散歩の達人』2024年10月号より

信藤舞子
ライター
北海道弟子屈町生まれ、札幌市育ち。現在は東京在住。雑誌、WEBメディアを中心に、街歩きや旅、日本の文化について執筆する。なかでもおやつには目がなく、近著は『東京おやつ図鑑 和菓子編』(交通新聞社)。レコードや着物も好き。

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