子どもの問題行動は大人へのサイン 知っておきたい前兆と“たった2つの文字”
■後を絶たない性暴力 未成年が被害者や加害者に
児童や生徒が問題行動を起こすのは、何かしらのサインである。そのサインを大人が見逃さず、早めに対応ができれば、問題が大きくなる前に食い止められる可能性は高まる。大人が子どもに対応していく際、たった2文字を付け加えるだけで、より深い対応ができるという。性教育の実践を積み重ねてきた一般社団法人「“人間と性”教育研究協議会(以下、性教協)」が今夏に静岡市で開催したセミナーから、性教育をシリーズで考える。【全3回の1回目】
性暴力事件の報道が後を絶たない。未成年が被害者や加害者となるケースも少なくない。今年6月、北海道旭川市のいじめ再調査委員会は2021年に女子中学生が凍死した事件について、次のような結論を出した。
「いじめ被害が生徒の自殺の主たる原因だった可能性は高く、いじめ被害が存在しなければ生徒の自殺は起こらなかった」
この事件は2021年に起きた。当時中学2年生だった女子生徒が凍死した状態で見つかったのだ。女子生徒は中学入学当初からいじめを受けており、数人の男女学生から裸の画像や動画を送るように強制され、自慰行為を強要されることもあったという。性暴力事件だったのである。女子生徒は引っ越したものの、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症して自殺した。
■叱責や処罰は逆効果 子どもの問題行動に必要な対応
こうした重大事件を受け、性暴力に関しては刑法が改正されるなど厳罰化する動きが進んでいる。ただ、処罰では根本的な解決につながらないという指摘もある。元中学校の教師で約20年前から藤枝市でカウンセリングルームを開いている松林三樹夫さんも、そう考える1人だ。今夏に開催された性教協のセミナーでは、こう訴えた。
「深刻な問題に至る前に、子どもたちは必ずサインを出しています。大人から見たら問題がある、面倒くさいと感じる言動には子どもたちのSOSが含まれています。そのサインを見逃さず、早めに対応ができれば、加害や被害が大きくなる前に防ぐことができます」
問題行動を起こす生徒に対し、教師や保護者ら周囲の大人は「問題児」とレッテルを貼って怒ったり、罰を与えたりする。しかし、こうした対処は逆効果だという。松林さんが理由を説明する。
「問題を起こす子は、問題を抱えているというサインを出していると言えます。手がかかる子は手をかけてほしいというサイン、荒れた行動を取る子は苦しさを抱えて心が荒れているというサインを出しているわけです。こうした時に大人が話を聞かずに行動を無理やり押さえつけても、問題は解決せず、むしろ悪化してしまいます」
■被害者を苦しめる認識の違い “2つの文字”で変わる信頼関係
例えば、校則違反の服装をして登校する生徒に服装の乱れを注意するだけでは、なかなか心に響いてはいかない。大人にとっての正論を子どもが同じように捉える可能性は低いという。両者の認識の違いは性暴力の問題において、被害者を一層苦しめたり、加害者を増長させたりするリスクがあると松林さんは指摘する。
「例えば露出の多い服装で夜道を1人で歩いていた生徒が性被害にあった時、『暗闇を1人で歩く方が悪い』とか、『服装に問題がある』といった言葉は発言者にとっては正論かもしれないが、しかし、受け取る方の考え方は全く違います。結果的に被害者の方が自分を責めたり、周りへの不信感が大きくなったりしてしまいます」
こうした認識のズレをつくらず、大人にサインを出している生徒や被害にあった生徒をサポートするには、話の聞き方や声のかけ方が重要になる。松林さんは大人が子どもの話を否定せずに「辛かったね」とか、「あなたは悪くないよ」とか、受容する姿勢が重要になると説く。そして、対応する時は“2つの文字”を付け加えると、子どもから信頼を得るきっかけにつながると話す。
「大人は子どもに対して『なんで?』とか、『どうして?』と感情的に怒りがちです。その時、『なんでかな?』とか、『どうしてかな?』と『かな』の2文字を付けて考えると冷静に対応できるようになります。大人の意見や正論を押し付けるのではなく、まずは子どものかかえている気持ちや背景・原因を探ろうということが何よりも大切ですから」
子どもは話そうとしている時や話の途中で、大人が口をはさんだり、決めつけるようなことを言われたりすると、何も言えなくなってしまい心を閉ざしてしまう。松林さんは「大人は自分の想像を超えたことが起きると、実際に起きたこととして考えられなくなってしまって、物事を一方的に決めつけたりしてしまいがちになります。『~じゃないの』などと決めつけないでほしいんです」
■「子どものサインを見逃さないことが大人の役割」
松林さんが危機感を募らせるのは、加害者や被害者が増えることへの懸念に加えて、負の連鎖を食い止めたい思いがあるからだという。話を聞いてもらえない経験をした子どもたちは自らが大人になった時、子どもに対して同じ言動を取ってしまう傾向が高い。つまり、今の大人が考え方や行動を変えないと、負の連鎖が続いてしまうのだ。
松林さんは中学校の教師をしていた頃から性教育を学び、性についてきちんと学ぶことの重要性を生徒や他の教師に伝えてきた。心理カウンセラーとなってからも、セミナーや講演で自身の知識や経験を伝えている。
「子どもたちは心にため込んだ負の感情を何らかのサインとして必ず表に出します。そのサインを見逃さないことが大人の役割だと思っています」。
𠮟責や処罰は一時的に問題を解決したように見えるかもしれない。しかし、根本的な解決に至らない。それは同じ問題をくり返してしまう子どもたちを見ればより明らかだろう。
(間 淳/Jun Aida)