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「YELLOWUHURU × the hatch "NAKED ORANGE”」に行ってきた

タイムアウト東京

「YELLOWUHURU × the hatch "NAKED ORANGE”」に行ってきた

2024年6月28日、SHIBUYA CLUB QUATTROでおこなわれた『YELLOWUHURU × the hatch "NAKED ORANGE”』に行ってきた。精神世界ジャズと覚醒のファンクをつむぐ司祭的DJ・YELLOWUHURUと、混血のオルタナジャズ/ポストハードコアバンド・the hatchによる盟友同士のオールナイト・イヴェントである。

the hatchが主催するイヴェントに、これまで僕は結構な数を参加しており、ていうかフェアーに行きたいので正直に告白するが、まぁ普通に友達である。かなり身内だ。けども、そういうフィルターを取っ払って、すげえフラットな第三者視線でみても、彼らのイヴェントは総じて質が高いと思う。集客力より音楽的野心を判断基準にすえたラインナップは日本のオルタナ/アングラシーンの一角を的確にフォーカスしていると感じるし、商売っ気のない、てづくり感覚まごころ満載な運営姿勢は、学祭的なワクワクと誠実な緊張感を折衷しており、ムード/クオリティ双方においてかなり上質だ。

ちょうどよくて、親しみやすい

Photo: Shiori Ikeno

で、いきなり結論から入るが、今回のパーティーは社交場の属性が強かった。ひとりきりで頭の中を音楽でいっぱいにするようなストイシズムより、野外フェス的な弛緩と開放感がただよっていたように思う。というとなんだかディスのように聞こえるかもしれないが、これは断じてディスではない。単なる属性の話だ。属性というのは血液型や靴のサイズのようなものであって、それ自体に良いも悪いもない。パーティーはドープであればあるほど良いというのは、カレーは辛ければ辛いほどいいと言うようなものだ。

各種フードやちょっとしたフリーマーケット的な出店などもあり、テーブル席やシッティングスペースも設けられていた本イヴェントは、これまでのthe hatch絡みのパーティーと比べても、とりわけ“ちょうどいい”ものだったと感じる。今回のコンセプトは、かつて渋谷のContactが担っていたような「300~400人規模ぐらいの、DJもバンドも両方成立するパーティー」をやることだったらしいが、そのもくろみは結構成功していたと思う。ちょうどよくて、親しみやすい。

より無防備、よりパーソナルな

Photo: Shiori Ikeno

そして、そうしたパーティーのムードは、そのままthe hatchのバンドとしての現況にもリンクしていると思った。

ライヴを観たことがない人にわかりやすく説明すると、the hatchとはジャズポストハードコアエクスペリメンタルMPBラテンサイケデリックメタルオルタナティヴアフロコンテンポラリーダンスロックグループであり、多動的な曲展開とカオシックなアンサンブルが特徴的なのだが、冒頭にやった新曲はすげえ歌モノだった。初見でも歌詞がヒアリングできるぐらい、明確に歌が聴こえるものだった。KING KRULE的なメランコリーを滲ませた新曲は、なんちゅうかすげえ純ロックバンドって感じで、かなり意表を突かれた。さながら変化球主体のピッチャーが突然ストレートを投げたときのようなトマドイである。

僕は最前列で観ていたのだが、前列の、ヘッドバンギング&モッシュを待望するキッズたちも、おそらく一様にちょっと戸惑ったのではないだろうか。けれども、この変化は、セルアウトしたとか歩み寄ったとかそういうことではなくて、ノーガードになったということなのだと思う。より無防備に、よりパーソナルな表現に向かっている。野心の末にコンテンポラリーに行き着く彼らの姿勢を、僕は無条件に支持する。かの葉っぱ隊もこう歌っている、“丸腰だから最強だ まっすぐ立ったら気持ちいい”。

野外イヴェントのごとき風通し

ほかにも印象的だったアクトをいくつか書いていく。まずはFLYING RHYTHMSだ。喫煙所で会ったGEZANのマヒト氏が「オレ、今日はFLYING RHYTHMSで死んだわ」といっていたが、まあ本当にそのぐらい強烈なことをしていた。壮絶に応酬されるドラムとパーカッション、脳天を突き抜けるようなヴォーカルがダブ処理を施され、信じがたいほど分厚く奥行きのあるハーモニーを構築している。ライヴというより現象学的にヤバい。

Photo: Shiori Ikeno

没のフロアライヴもかなり良かった。すごいフィジカルなパフォーマンスで、恐竜が暴れているみたいな感じだった。それでいてダンディズムとかロマンチシズムが随所に見え隠れしていて、かなり琴線に触れるヒートなショーケースだった。

ヒートっぷりということでいえば、DJのE.O.Uもかなり熱かった。熱くて、速かった。数度の火災報知器トラブルによる音止めを喰らいながらも、ぎりぎりアブストラクトな高速ビートをまくし立てるE.O.Uのプレイは、格ゲーのコンボ技のような痛快さがあった。

Photo: Shiori Ikeno

とにかく立てて立てて立てまくるようなSapphire Slowsやshhhhhも相当に充実していた。屋内イヴェントではなかなか感じられない風通しの良さ。エグいほどの体力と集中力からくるアッパーなビートは、ずっとフロアの多幸状態を持続させていて、さながら野外レイヴのごとき趣きがあった。

四階エントランスに特設されたDJブースは場所の性質上、あまり音が出せないようでどちらかというとDJバー的な意匠だったのだが(立って踊ってもいいし座って聴いてもいいよ的な)、そうしたフィールドにおけるAkimのプレイはかなり存在感にあふれていた。70年代のミッドナイトグルーヴを主体に、曲単位で強い曲をヴァイナルでかけるので、リスニング姿勢でもじっくり楽しむことができるし、それでいてミックステープのようにアプローチが多彩なので、いろんな風に身体を動かせられる。

ほかにも過集中的なビートを展開するyodelや、発想力豊かなsuiminなど、とにかく“ヴァラエティでおもしろい”プレイヤーがこの場所に集まっていたように思う。

正月並みの縁起の良さ

Photo: Shiori Ikeno

そして、最後を締めくくったHAPPYはかなりすばらしかった。こないだ江ノ島のOPPA-LAで観たときも思ったが、シンプルにロックバンドとしてめちゃくちゃ脂が乗っていると思う。フラワー・トラベリン・バンドとかフード・ブレインみたいな、70年代和物サイケっぽい大仰さがあり、それでいてスピリチュアル・ジャズ的な意匠がまぶされているので、聴いていてとても縁起のいい気持ちになる。なんか正月っぽい。エンディングにはthe hatchのヴォーカル山田とギタリスト宮崎も加わって長尺セッションを披露していたが、それとかもう正月感ハンパなかった。かなりあけましておめでとう!って感じだった。この日のイヴェントに先駆けて発表された新譜もムチャクチャ良くて、本当にこれからの動向が楽しみなバンドだと思う。

Photo: Shiori Ikeno

土曜の朝君と帰る

イヴェントが終わり、むらさきの夜明けの中、ビニール傘を杖にして身体を引きずりながら帰った。そのぐらい全身を酷使して遊んだ。こういう夜を過ごしたあとは、草野球の試合後みたいに、清々しい気分でベッドにもぐり込むことができる(ちなみに草野球の経験など無い)。僕は眠りに落ちる寸前、“あーあ、楽しかったなー”と心の中でつぶやいた。本当にそれに尽きる。長々と書いてきたが、結局そのひとことに集約されるパーティーだった。楽しかったぜ、また楽しませてくれ。

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