【倉敷市】自家焙煎専門店「倉敷珈琲館」 〜 こだわりのネルドリップで味わう至福のひととき
白壁の街並みが美しい、倉敷市を代表する観光スポット「倉敷美観地区」。
倉敷川沿いの街並みは訪れる人を魅了してやみません。その倉敷美観地区の一角に、レトロな看板と鮮やかな朱色の門が目をひくのが「倉敷珈琲館」です。
1971年創業の自家焙煎珈琲専門店とはどういったお店なのか。おすすめのメニューや、創業時から使い続けている焙煎機など、珈琲専門店としてのこだわりを取材しました。
こだわりの店内
創業当時とかわらない内装は、倉敷国際ホテルなどを設計した建築家 浦辺鎮太郎(うらべ しずたろう)が手がけたもの。店内は赤レンガと木が醸し出すレトロな雰囲気につつまれています。
天井の梁には浦辺鎮太郎の言葉「DOING NOTHING IS DOING ALL」が書かれていますが、浦辺氏の造語で直訳できない言葉です。
元になった言葉は英語のことわざ
「DOING NOTHING IS DOING ILL」(何も行動を起こさない事は罪である)
と思われますが、文献などでも確認できないため参考情報として記載します。
床に敷かれているタイルはイタリア製で、これも創業時のまま。
カウンターにあるアンティークがお店の雰囲気をさらに引き立てます。
こだわりの珈琲
倉敷珈琲館は自家焙煎珈琲専門店です。
軽食やスイーツ、フルーツジュース、珈琲の種類のなかでも加圧して抽出する「エスプレッソ」はありません。
珈琲は、布製のフィルターを使った「ネル・ドリップ」にこだわって淹(い)れていて、メニューには「水出しコーヒー」も用意されています。
こだわりの詰まった珈琲を飲んでみたくなり、人気No.1メニュー「琥珀の女王」と「ウインナコーヒー」を飲んでみることにしました。どちらの珈琲も、注文時にスタッフから「味の変化を楽しんでいただきたいので、珈琲は混ぜずに飲んでください」とアドバイスされました。
琥珀の女王
「琥珀の女王」は、リキュール(アルコール)が入っている冷たい珈琲ですが、ほんのりとした温かさを感じました。
最初に、濃厚なミルクの甘さが口のなかに広がり、そのあとを蜂蜜とリキュールで味付けされたコクのある水出しコーヒーが追いかけてきます。冷たい珈琲だからでしょうか、リキュールがしっかり効いてより味わい深いのものにしてくれました。
ウインナコーヒー
こちらは深みのあるあたたかい珈琲で、上にかけてある濃厚な生クリームが特徴です。
実際に飲んでみると、まず生クリームの濃厚さに驚きます。ほど良い甘さのクリームを楽しんでいると、続いてやや苦めの珈琲が口の中に広がってきました。濃厚なクリームと重なり、甘さと苦さが絶妙なバランスで口のなかに広がっていきます。
その後、カップのなかでクリームが溶け込み、甘さが和らいできた頃に、底にあるザラメの溶け込んだ珈琲が再び味を引き締めてくれました。
どちらの珈琲も「混ぜずに飲む」ことで、いくつもの味が楽しめるようになっています。
別の日に王道の「本日のストレート」もいただきました。この日の珈琲豆は「SANTOS」でスッキリとして飲みやすい印象でした。
こだわりの焙煎機
焙煎は店長のみがおこなっており、創業時よりずっと使っているそうです。取材時は特別に焙煎する様子を見せていただけました。
焙煎は創業時から受け継ぐ直火式のアンティーク焙煎機を使用。デザインもどことなく「ぶたさん」に似ていてかわいいですね。
焙煎は時間にして20分ほどで、温度管理や空気調節などの作業のため焙煎機につきっきりだそうです。
焙煎機の温度計もアナログ式でレトロな雰囲気。
焙煎機全体のようす。
焙煎中の珈琲豆にいい色が着き始めたようで、最終的にはパチパチという音などで判断するとのこと。その日の気温や湿度などでかわってくるらしく、やはり経験がモノをいう作業だそうです。
焙煎された珈琲豆を冷却しながら、次の豆の焙煎をします。冷却が終わった珈琲豆は、さらにきれいな豆だけに選別され、3日ほどおくことで味がおちつくそうです。
倉敷珈琲館店長の松尾直毅(まつお なおき)さんに珈琲への想いを聞いてみました。
こだわりの珈琲について店長に聞きました
1971年の創業当時から、自家焙煎珈琲だけでお店を開いている倉敷珈琲館。現在の店長で焙煎士の松尾直毅(まつお なおき)さんに、こだわりの珈琲への想いを聞いてみました。
──創業の1971年からかわったことはありますか。
松尾(敬称略)──
外観、内装、調度品などは創業当時からほとんどかわっていません。
建物内のトイレなど、一部改装して手を入れている以外はほとんど創業時のままです。外観や内装だけでなく、焙煎機や焙煎方法、ドリップ方法、珈琲だけのメニュー設定などもほとんどかわっていません。むしろそれが倉敷珈琲館の特長でもあります。
──珈琲だけのメニュー設定だと、とまどう来店者もいませんか?
松尾──
たしかに、お客様のなかには軽食、ジュースなど珈琲以外のメニューを希望されるかたもいらっしゃいます。
ですが、倉敷珈琲館は珈琲の専門店だからこそ、珈琲豆の仕入れから焙煎、ドリップまで、すべての工程に徹底的にこだわれると思っています。
──焙煎機にはやはりこだわりがあるのでしょうか。
松尾──
もちろん当店のこだわりのひとつは焙煎機です。ただ、実はこの焙煎機だと効率は良くないです。
3kg釜なのですが、効率だけを考えれば、もっと大きな焙煎機で一度に多くの豆を焙煎したほうが良いのは確かです。
しかし、この焙煎機でないと倉敷珈琲館伝統の味を引き出すことはできません。
焙煎する日は、ほとんど焙煎室にこもっています。
創業時からの焙煎機で手間暇かけて少量ずつ焙煎することで、豆本来の風味を最大限に引き出し、最高の状態で皆様にお届けしたい。当店の珈琲へのこだわりです。
──「ネル・ドリップ(布製のフィルターを使ったドリップ)」の良いところを教えてください。
松尾──
ネル・ドリップは、味の広がりの点で無間のバリーションが可能です。ほかの抽出方法とは違い、ネル・ドリップとの緊張関係を守ることで、珈琲と会話しながらコクのある味をととのえることができます。
これは科学的にも理にかなっているんです。
またネル・ドリップで淹れるのも、誰でもいいわけでなくやはり2年、3年と経験を積んだスタッフが淹れます。ドリッパーは花形のポジションです。
──メニューや焙煎のこだわりのほかにお店で守っていくものなどがありましたら教えてください。
松尾──
お客様のお声のなかに
「学生のころにきた。(学生時代に背伸びして高いコーヒーを飲んだ)」
「亡くなった妻ときた。」
「なつかしい。昔と全然変わっていない。」
など、いろいろなお言葉をいただきます。
思い出のお店としてのブランドを守りつつ、今きてくださってるお客様の思い出のお店になりたいと思っています。
──読者や来店されたかたへのメッセージなどがあればお願いします。
松尾──
店内に入ると気づくかもしれませんが、当店はBGMや有線放送などを流していません。これは創業当初からのこだわりで、あえて流さないようにしているんですよ。
倉敷美観地区の中心部にある当店ですが、一歩店内に入ると、観光地の喧騒(けんそう)から離れ、静寂の世界が広がります。
お客様同士の会話、新聞をめくる音、珈琲を淹れる音…。
そんな、空間が奏でる自然の音を聞きながら、くつろいでいただきたいと思っています。
また、最近は外国のかたも来店することが多くなり、にぎやかな時間も増えました。しかし、それも当店の音なのです。
珈琲を飲みながらゆっくりと滞在するかたもいますので、ぜひ気兼ねなくご来店いただき、倉敷珈琲館の自家焙煎珈琲を楽しんでいただきたいですね。
おわりに
こだわりの珈琲をいただきながら店長の松尾さんのお話を聞くと、珈琲だけでなくお店の建物や空間、調度品などすべてが「倉敷珈琲館」をかたち作っていると感じました。
特に印象的だったのは、創業時から使い続けているという焙煎機を見せていただいたことです。非効率ながらも大切に使い続けているというお話に、珈琲への深い愛情を感じました。
また、店長をはじめ、スタッフの対応はていねいで、珈琲を飲みながら長居するかたが多いのも納得です。
珈琲専門店ならではの豊富なメニューも魅力です。いただいた人気No.1の「琥珀の女王」は、ミルクと濃厚な珈琲のハーモニーが絶妙で、忘れられない一杯になりました。
倉敷美観地区を訪れた際は、ぜひ「倉敷珈琲館」で、特別なひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。