原宿・表参道さんぽのおすすめ6スポット。いつだって刺激的な街で、自分らしい宝探し
ファッションカルチャーの最先端を肌で感じる日本一の流行発信エリアは、いつだってキラキラとして刺激に満ちている。若者の街、ハイブランドの街だと気後れしないで、自分らしい宝探しに出かけてみよう。冒険は裏切らない。
あの名喫茶の要素も引き継いで『VAT BAKERY』【明治神宮前】
2024年末に生まれたベーカリー。アパレルと雑貨の物販フロアを上がれば、バットで焼き上げるブリオッシュ生地をメインとしたパンや焼き菓子が並ぶ。さらにその上には雰囲気の異なる2つのカフェスペース。同年に閉店した神田「珈琲専門店エース」の白と茶のイスとテーブル、のりトーストとも対面できる。窓席では表参道も一望!
10:00~20:00(カフェは19:30LO)、不定休。
☎03-6419-7237
作り手の顔が見える原宿生まれのレザー製品『Organ』【明治神宮前】
足を踏み入れると漂う革のいい匂い。オリジナルの革かばんや小物を扱うこの店は、広い間口の空間に工房も兼ね備え、ものづくりの様子がいつでも目にできる。使用するのは主に牛革で植物タンニンなめしのイタリアンレザー。分業ではなく職人それぞれが完成まで担う一貫性で手掛けている。丈夫かつ柔らかさ、上品さを意識した、毎日使いたくなる品ばかりだ。
12:00~19:00、水・木休。
☎03-3406-2010
ほしい香りを1本から気軽に楽しむ『リスン青山』【表参道】
天然香料を中心に使い作られたインセンスの専門店。150種以上もある香りの中には、店舗をイメージした限定の香りや、触感を香りで表したユニークなSENSATIONシリーズなども。その豊富さに目移りするが、スタッフが好みの香りを丁寧に導き出してくれる。長さ7cmのスティックタイプで燃焼時間は約15分。1本(44円~)から買える気軽さもうれしい。
10:00~19:00、水休。
☎03-5469-5006
唯一無二の愛しの一鉢を『翠堂明(みどりどうめい)』【明治神宮前】
植物好きの吉川靖さん・早矢香さん夫妻が2024年に開いた観葉植物専門店。商品の植物には一つ一つの個性を引き立てる鉢を組み合わせ、アート作品のようにタイトルまで付けられている。「花言葉や風水などを参考に考えます。ギフトとして、言葉も一緒にあげたいという方が多いです」。ちなみに靖さんが抱えるこのドラセナのタイトルは「良き寄り道」。
12:00~20:00(土・日・祝は13:00~19:00)、金休。
☎なし
連れて帰りたい、味わいある暮らしの相棒『pejite(ペジテ) 青山』【表参道】
目印の看板もなくビルの奥まった一角に現れるのは、栃木県益子に本店と工房を持つ2018年開店のセレクトショップ。益子と聞けば器と思いきや、全国の作家による器のみならず、「電灯も古道具も古家具も、店の物は全部売り物なんです」と微笑(ほほえ)む店主の長沼洋子さん。華美ではないがどの品も眺め続けたくなる味わいがある。長く寄り添ってくれる暮らしの相棒を見つけたい。
11:00~19:00、無休。
☎03-6427-6131
厳選された日本のクラフトと一期一会の生酒を『Zakka+Sake Bar DEARYOU 表参道店』【表参道】
食器にアクセサリー、木工やホーロー製品、金網細工など、多彩な日本の手工芸品を集めた雑貨店でありながら、奥には7席のカウンター。2023年の開店以来、併設するバーのウリは生酒だ。「外国人の方が多いので、日本でしか飲めないものを提供したくて」と酒匠の資格を持つ山田昌彦さん。週ごとに替わるラインアップを楽しみに。カフェ利用も可。
11:00~20:00(飲食は19:30LO)、無休。
☎070-9330-3949
メインストリートから離れると見せる違う顔
原宿駅に降り立てば、「今日は祭りか?」と思わずにはいられない。いつでも人気の街だから人出はしかたないけれど、辟易(へきえき)して『VAT BAKERY』に逃げ込んだ。表参道のケヤキを眼下にホッとできるカフェで見つけたのはなんとのりトースト。今はなき名喫茶の名物だ。聞けば、店づくりを担ったアーティストの藤原ヒロシ氏が神田「エース」によく通った縁でレシピを受け継いだとか。ちょっと勇気を出して踏み込んでみれば、うれしい出合いが待っている。
明治時代に原宿駅が開業し、大正8年(1919)に明治神宮の参道として大通りが整備され、街の歩みが始まった原宿と表参道。1960年代から原宿に若者が集まり発展。1990年代の表参道には海外のハイブランドが軒を連ねるように。流行の発信地であり続ける街は、きらびやかさに気後れしがち。でも、「メインストリートから離れると違う顔があります。何かに特化したセンスのいい店も点在しているんです」と教えてくれたのは、革製品を手掛ける『Organ』の桃井将也さん。確かに! 脇道に逸(そ)れ縦横無尽に散策すれば路地や住宅地もあり、思った以上の地形のハードな高低差も実感する。この店のように地に足を付けた個人店も多く、自分好みの店と遭遇しようものなら、とっておきの宝物を得た気分になる。
『翠堂明』もその一つで、愛情を持って仕立てた観葉植物の一鉢一鉢がとにかく魅力的。「開店を機に表参道に移り住みましたが、都会だけど住宅街の方は人情味がある。意外と下町っぽいんです。お店が閉まるのも早くて夜は静かで、朝は鳥が近所にやって来る。まさか表参道で鳥の声で朝目覚めるなんて!」と共に下町出身の吉川夫妻が笑い合う。
そういやここは都心の他の街と違って無機質でなく息苦しくもない。“気”がいいとさえ言われている。やはり、神宮橋交差点から表参道交差点まで1km続く立派なケヤキ並木、この緑のおかげか。気づけばゆったりと街を歩けている自分がいた。
「この街は50代頃からが一番楽しめるのではないでしょうか。生活にゆとりも出てきて、でもボンボン買うのではなくお買い物上手。当店でも、器一つをじっくりと、選ぶのを楽しみながら慎重に買ってくださいます」とは、これまたオアシスのような『pejite 青山』の長沼洋子さん。
訪れるたびに刺激的で心躍る場所はいくつになっても大事。だからこれからも私のペースで歩きたい。
取材・文=下里康子 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2025年10月号より