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【インタビュー】主演・平田桃子が語る、英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の誇るビントリー版『シンデレラ』の醍醐味~イギリスの名門7年ぶりに来日

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平田桃子

イギリス屈指の名門バレエ団である英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団が2025年6月~7月、7年ぶりに来日し『眠れる森の美女』『シンデレラ』を上演する。プリンシパル(最高位ダンサー)の平田桃子は、当たり役とするデヴィッド・ビントリー版『シンデレラ』の表題役を踊る(6月27日、29日公演)。『シンデレラ』の魅力やバレエ団の近況、長年輝き続ける秘訣を聞いた。

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団『シンデレラ』 (Photo:Bill Cooper)



■新体制で心を一つにして乗り越えたコロナ禍

――英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BRB)の前回の日本公演は2018年でした。その後、2020年1月、芸術監督が24年間在任したデヴィッド・ビントリーからカルロス・アコスタに代わりました。アコスタが就任した当初の印象をお聞かせください。

カルロスが芸術監督に就くと同時にコロナ禍になりました。バーミンガムの街もロックダウンになるなど先が見えない時期もありましたが、少しずつ活動を再開し、2021年に入ってカルロスが手がけた『ドン・キホーテ』を新たに上演することによって、以前のような形で公演ができるようになりました。カルロスは皆を引っ張るエナジーを持っているので、ダンサーたちは彼の下でまとまり、バレエ団が一つになった感じがありました。

――アコスタのリーダーシップを、どのような点から感じますか?

カルロスは「こうしたヴィジョンがあるから、次にこの作品を上演するんだ」というように方向性を示してくれるので、モチベーションにつながります。また、ダンサーの踊りやリハーサルへの向き合い方に具体的な要求があり、それを伝えるのが上手です。ダンサーの才能をぐいぐいと引き出します。プリンシパルに対してもアドヴァイスをくれるのでありがたいですね。

――芸術監督が代わっても変わらないBRBの特徴は何でしょうか?

入団するダンサーのタイプが以前とは違ってきたりはしますが、皆の仲が良いという根本は変わりません。ツアーが多く、一緒に長い時間を過ごすので、自然とそうなります。それから、BRBはバレエカンパニーなので、古典作品を中心に上演している点も変わりません。

(Photo:Mizuho Hasegawa)



■ビントリー版『シンデレラ』の魅惑を語る

――今回の日本公演では、ビントリー版『シンデレラ』(2010年初演)のタイトル・ロールを演じます。2015年の日本公演で上演された際にもシンデレラを踊られました。当たり役ですね。

初演時、春の精の第一キャストとして創作に参加すると同時に、シンデレラ役にも配役していただきました。デヴィッドが直接シンデレラ役の振付をしている現場に毎回立ち会っています。これまでに一番時間を費やしてきた作品なので思い入れが深いです。デヴィッドの考えるシンデレラ像を理解し、一人の女性としての成長・変化を探りながら演じてきましたが、踊るたびに毎回異なる感情が芽生えます。その発見が楽しいんですよ。自分で「こうあるべき」という枠を作らないようにしています。まさに役を「生きる」という言葉がぴったりです。

――ビントリーは英国バレエの系譜に連なる巨匠で、演劇的な作品を多数創っています。彼の振付の特徴はどこにありますか?

デヴィッドが一番大事にしているのは音楽性です。音楽に忠実に振付をしたうえで、細かい点にこだわりがあります。歩くタイミングや何気ない仕草一つとっても音にはまっていないといけないんです。そこを身に付けて踊りこむと、デヴィッドの細かい計算が理解できるようになります。音楽と一体化すると、私自身もしっくりした気持ちで踊ることができます。

――ビントリー版『シンデレラ』には、いわゆる"ガラスの靴"は出てきません。その代わり、亡くなった母の形見である舞踏会用の靴が重要な役割を果たします。シンデレラは、宮殿の舞踏会での王子とのパ・ド・ドゥの場面は別にして、ほかのシーンでは裸足で踊りますね。

私は裸足で踊ることに慣れていないので、トウシューズで踊るよりも身体への負担は大きいんですよ。だからこそ、トウシューズで宮殿での舞踏会に登場する第2幕では、踊りを存分に楽しむことができます。王子とのパ・ド・ドゥに関しては、パートナーを完全に信頼します。絶対に助けてくれるに違いないという気持ちですべてを捧げて踊ります。

――シンデレラの前に現れた物乞いの老女=仙女は亡き母親の精霊という設定です。母親への愛は、やはりビントリー版の大きなテーマでしょうか?

バレエで描かれる愛といえば男女の関係が多いので、デヴィッドはもう少し現実味を入れたかったのではないかと考えています。私も母親への愛情が強いので、自分と被る部分もありますね。そこが舞台にも反映されていると感じます。

――義理の姉の二人の存在も印象的で"やせっぽちの義姉"と"ふとっちょの義姉"が登場します。英国バレエとしておなじみのアシュトン版『シンデレラ』では男性コンビが演じますが、ビントリー版では女性が演じるのがポイントですね。

そこもデヴィッドらしく、現実味を出すためだと思います。第1幕では義理の姉たちがシンデレラに強く当たる場面もありますが、彼女たちのチャーミングな部分を出したりして、そこの部分だけが強調されないように構成されています。だから憎めない存在です。

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団『シンデレラ』 (Photo:Bill Cooper)



■"パーフェクトな王子"ウィリアム・ブレスウェルと夢の共演!

――王子はウィリアム・ブレイスウェル(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)です。BRB出身の後輩が古巣に客演する形ですね。今年2月にバーミンガムで2回平田さんと『シンデレラ』を踊り、6月の日本公演でも共演します。彼と組んでみていかがでしたか?

ウィリアムは本当にパーフェクトな王子なので、夢のような気分で踊ることができました。彼がBRBにいた頃は一緒に踊る機会がほぼなかったので、初めて全幕で共演できたのがうれしくてなりません。最初のリハーサルから何の問題もなくコミュニケーションがとれました。とても情熱的なダンサーで、心から楽しんで踊っているのが伝わってくるんですよ。私も初心に戻りました。「舞台とは楽しむものだ」とウィリアムからあらためて教わった気がします。

――平田さんの感じる、ビントレー版『シンデレラ』の魅力を教えてください。

登場人物一人ひとりのキャラクターが完成されています。一見ただ立っているだけのように見える役でも重要だったりするので、それぞれのキャラクターの人生に注目していただくと、物語がさらにおもしろくなるでしょう。それから、美術・衣裳の美しさがあってこのバレエが成り立っていると思います。デザイナーのジョン・マクファーレンの創る世界観が大好きです。

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団『シンデレラ』 (Photo:Bill Cooper)



■トップバレリーナとして踊り続ける秘訣とは

――日本公演では『眠れる森の美女』も上演します。ビントリーの前に芸術監督を務めたピーター・ライトによる演出です。平田さんは出演されませんが、一言いただけますか。

『眠れる森の美女』にはソロを含む踊りの見せ場がたくさんあります。今育ってきている女性ダンサーたちを見てもらえるのがうれしいです。東京(6月21日公演)で主役のオーロラ姫を踊る栗原ゆうちゃんは、とにかくパワフル。日本人には稀なエネルギーを持ち、それでいて精確に踊ります。この数年で大きく成長したのでご注目ください。

――トップバレリーナとして長く踊り続ける秘訣はありますか?

特別なことはしていませんが、常にお稽古をしてモチベーションを保ち、コンディションを高めるように心がけています。それを日々続けることが、長く踊り続けることの秘訣かもしれません。自分のからだの声に耳をかたむけ、何が必要かを理解するのが大事です。若い人も含めたダンサー同士でコミュニケーションをとることも大切です。バレエを楽しめなくなった時点で引退を考えますが、いまは舞台に立つことがまだまだ楽しいですね。

――日本公演への意気込みをお話しください。

日本でふたたび『シンデレラ』を踊る機会に恵まれ喜んでいます。成長した姿をご覧に入れたいですね。いまカンパニーにいる素晴らしいダンサーたちと創りあげる、いましか見ることのできない舞台を、皆様に楽しんでいただけるとうれしいです。

(Photo:Mizuho Hasegawa)

取材・文=高橋森彦

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