アートウィーク東京が開催、現代アート作品が買える特別展「AWT FOCUS」も
2024年11月7日(木)〜10日(日)で開催される、年に一度の現代アートの祭典「アートウィーク東京(AWT)」。無料バスでのギャラリー・美術館巡りや、現代アート・建築・フードのコラボレーションによる「AWT BAR」など、多様で魅力的なプログラムが展開する。ここでは、美術館とギャラリーの体験をかけ合わせた、展示作品が買える特別展「AWT FOCUS」に注目して紹介したい。
虎ノ門「大倉集古館」を舞台にする本展では、「森美術館」の館長・片岡真実監修の下、「大地と風と火と:アジアから想像する未来」をテーマに57組のアーティストによる作品群が集合した。
自宅の壁に飾るなら? 購入する視点で鑑賞してみる
本展は作品購入が目的のギャラリーと、作品鑑賞がメインの美術館の2つの要素をかけ合わせた企画で、出展作品は全て購入可能だ。館内には、国内外のギャラリーが提案したい作品が、片岡のキュレーションにより配置されている。
現代ドイツ写真を代表するアーティストの一人であるトーマス・ルフ(Thoma Ruff)の作品には、人工的に生成されたフラクタル構造がベロア素材のカーペットにプリントされている。自宅に敷ける宇宙の模様を作るこのカーペットは、視覚的な美しさと深み、立体感を持つ。自宅での配置方法などを思案しながら鑑賞することで、作品との関係性が少し近くに感じられるのが面白い。
中国調の大倉集古館の装飾も堪能
ホワイトキューブの空間ではなく、黒を基調にした中国調の建築に作品が公開されている本展では、同館の装飾や雰囲気も楽しめる。片岡は、中国風の邸宅に自身が住んでいるという体で、作品配置を考えたという。
世界各地の妖怪、精霊、神仏など目に見えない精神世界を描き続ける金子富之の作品には、迫力満点の龍蛇(りゅうだ)神が描かれている。天井や柱にも竜の装飾があり、作品と空間とのコラボレーションは見応えがある。
また、メキシコ人建築家でありアーティストのホセ・ダヴィラ(Jose Davila)の作品は、メキシコで生まれたアカプルコチェアのフレームから自然石がぶら下がっている。作品の後ろには同館の赤い窓枠があり、作品の影と合わさって、絶妙なバランスの空間を生み出す。
空間に流れる物語を体感する
アジア的宇宙観を起点に、自然の推理や目に見えないエネルギーといった観点から世界を見つめ、多様性が共存する未来を創造する本展。さまざまな文化的背景を持つ作品群を通して、世界や宇宙を俯瞰(ふかん)するようなストーリーを感じることができる。
原田裕規のCG映像には、生命が見当たらない、過去か未来の地球をイメージした空間が写されている。その中で作家は、現存する2万種以上の生物名を読み上げる。
小林万里子は、「死んで土に還る」という循環の中、動植物が同じ世界観で生きる刺しゅう作品『所有され得ぬ者たち』や、死んだ猫から植物が生える『この世界からは出ていくけれど』を展開。
フランスのアーティスト、ローラン・グラッソ(Laurent Grasso)によるSF映画のような雰囲気を持つ映像作品には、台湾で撮影された自然風景に、黒い四角い物体が現れる。物体は見えない不思議なエネルギーを放射しているのか、あるいは大地からエネルギーを吸い取っているのか……。
それぞれの作品からは神秘、政治、放射能といった空気の中に存在するあらゆる不可視のエネルギー、宇宙の構造や自然の推理、祈りの物語が流れている。それらを意識してみて、マクロからミクロまで宇宙が織り成すストーリーの中に入ってみてほしい。
アートシーンで話題のアジアのコンテンポラリーアーティストに注目
アジアで話題のコンテンポラリーアーティストをチェックできるのも、本展の魅力。アジアのコスモロジーを内在させた、深遠で興味深い作品群が並ぶ。
タイ、ラオス、ミャンマー、中国雲南省などの山岳地帯に暮らす少数民族・アカ族出身の画家、ブスイ・アジョウ(Busui Ajaw)の赤が強いインパクトを持つ作品には、乳房を7個持つ女性の神様が描かれている。また、ボルネオ島のマレーシア領出身のイー・イラン(Yee I-Lann)は、この地の経済循環とコミュニティー保存のため、女性たちとマット編みを協働し、東南アジアで日常的に使用されているマットを展示する。
さらに、シャーマニズムが盛んな韓国出身のヤン・ヘギュ(Haegue Yang)は、祈祷(きとう)などに用いられる韓国伝統の紙細工から触発された作品を手がけた。壁一面に左右対称の模様が描かれ、幻想的な世界が広がっている。
宇宙から来たさまざまなストーリーを持つ作品群がギュッと一つの場所に凝縮されたような本展。鑑賞者とアートコレクターの視点の両方を味わってほしい。今週末は、現代アートの旅へ出かけてみては。