介護におけるQOLとは?介護者が知っておきたいQOLを高める方法
WHOも提唱する人生の最終段階のQOL~「治す医療」から「支える医療」へ
QOL(Quality of Life)という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
日本語では「生活の質」と訳されるこの言葉は、近年、医療や介護の現場で重要視されるようになってきました。
従来の医療は、病気を治すことが主な目的でした。しかし、人生の最終段階においては、病気を完治させることよりも、その人らしく充実した日々を送ることが大切だと考えられるようになってきたのです。
実際、世界保健機関(WHO)による緩和ケアの定義では、「生命を脅かす疾患に関連する問題に直面している患者と家族のQOLを改善するアプローチ」と明記されています。これは、治癒を目的とした医療から、QOLを重視した支援へと概念が変化していることを示しています。
人生の最終段階で大切なのは、残された時間をどう過ごすかということ。たとえ病気を抱えていても、その人らしく、自分らしく生きることが何よりも重要なのです。医療や介護は、そのためのサポート役として大きな意味を持っています。
在宅療養者と家族のQOLを支える地域包括ケア~医療・介護・福祉の連携
最期まで自宅で過ごしたいと願う人は少なくありません。しかし、病状が進行すると、医療的なケアが必要になることも。そんなとき頼りになるのが、地域包括ケアシステムです。
地域包括ケアシステムとは、医療、介護、福祉などのさまざまなサービスを切れ目なく提供する仕組みのこと。在宅医療や訪問看護、ホームヘルプ、デイサービスなどを組み合わせることで、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けることができるのです。
実は今後、在宅医療のニーズはますます高まると予想されています。厚生労働省の調査によると、2025年には在宅医療の需要が2014年の約2.5倍になるとのこと。超高齢社会を迎える日本において、地域包括ケアシステムの重要性は計り知れません。
療養者本人だけでなく、家族のQOL向上のためにも、医療・介護・福祉の多職種連携は欠かせません。その人らしい暮らしを支えるチーム医療の輪が、今、各地で広がりを見せています。
本人や家族の尊厳を重視した看取りケア~その人らしい最期を
人生の最終段階において、私たちが目指すべきなのは、本人の尊厳を守り、望む形での看取りを実現することです。そのためには、本人の意思を尊重しながら、家族の心情にも寄り添っていくことが大切になります。
厚生労働省が2007年に作成した「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」では、医療・ケアチームと本人・家族とが十分に話し合い、本人の意思を尊重しながら、最善の医療及びケアを行うことを基本とするとしています。
たとえ意思疎通が難しくなっても、その人らしさを大切にし、できる限り本人の望む形での最期を迎えられるよう支援すること。それこそが、QOLを重視した看取りケアの本質なのかもしれません。
医療・ケアチームと家族とが、密にコミュニケーションを取りながら、一丸となってその人らしい看取りを目指していく。そんな取り組みが、各地の在宅現場で行われています。
2021年の死亡データを見てみると、老衰が10.6%、がんが26.5%、心不全や腎不全などの慢性疾患が37.9%を占めています。多くの人が、長い療養生活の末に人生の幕を閉じているのが現状です。
QOLを重視するということは、最期の瞬間まで、その人らしさを大切にするということ。たとえ死が避けられないとしても、どう生きるかを問い続け、その人らしい選択を支えていくこと。それこそが、私たち家族にできる最大のケアなのかもしれません。
大切な家族のQOL(生活の質)を支える介護とは?わかりやすく定義を解説
介護する家族が知っておくべきQOLの基本的な意味と重要性
介護という言葉を聞いて、何を思い浮かべますか?
身の回りの世話、食事や入浴の介助、移動の手伝いなど、どれも大切なケアです。しかし、私たち家族が目指すべきは、単に命を永らえるだけの介護ではありません。
大切なのは、その人らしさを尊重し、充実した日々を送れるよう支えること。ここで登場するのがQOL(Quality of Life)という考え方です。
QOLとは、WHOが提唱している「生活の質」を表す概念。単に寿命の長さだけでなく、身体的、精神的、社会的に良好な状態で日常生活を送れているかどうかを重視します。
介護の現場では、このQOLの向上こそが重要な目標となるのです。たとえ介護が必要な状況になっても、その人らしい暮らしを続けられるよう、私たち家族が寄り添い、サポートしていくことが何より大切なのです。
わかりやすく説明!QOLを構成する3つの要素「生命・生活・人生」
QOLを支える介護とは、具体的にはどのようなものでしょうか。ここでは、QOLを構成する3つの要素をもとに、わかりやすく説明していきます。
1つ目は、「生命(からだとこころ)」の質の向上です。体調管理はもちろん、痛みの緩和や心理的なケアなど、心身両面での健康をサポートすることが求められます。
2つ目は、「生活(暮らし)」の質の向上。食事、排泄、入浴、移動、コミュニケーションなど、日常生活のさまざまな場面で、その人のペースに合わせた介助が必要です。同時に、生活の中の楽しみを見出すことも大切なポイントになります。
最後は、「人生(生きがい)」の質の向上。趣味活動や社会参加への支援など、その人らしく、充実した人生を送れるようなケアが求められるのです。
介護を通じて、この3つの要素それぞれの充実度を高めていくこと。それこそが、QOLを支える家族の役割だと言えるでしょう。
家族も理解しておきたいQOLとADLの違いを簡単に説明
ところで、QOLと似た言葉にADL(Activities of Daily Living)というものがあります。日常生活動作能力と訳されるADLは、食事、排泄、入浴、移動など、日常生活に必要な基本的動作の自立度を表す指標です。
ADLは「できること」に着目しているのに対し、QOLは「その人らしさ」や「充実度」を重視しているのです。
たとえば、身体機能が低下し、ADLが低くなっても、生活に楽しみを見出せていれば、QOLは高いと言えます。逆に、ヘルパーの助けを借りれば身の回りのことはできるけれど、生きがいを見失っている状態では、ADLは高くてもQOLは低いことになります。
つまり、ADLはQOLを構成する一部であり、ADLの向上だけを目指すのではなく、トータルでQOLを高めることが大切なのです。
もちろん、ADLの向上は重要です。できることを増やし、自立度を高めることは、QOLを支える大きな要素になります。しかし、そこに「その人らしさ」という視点を加えることで、より豊かな介護が実現できるのではないでしょうか。
医療と看護の力を借りて!家族にできる要介護者のQOL向上策
症状マネジメントで大切な人の苦痛を和らげる
介護の中で、家族としてまず取り組みたいのが、症状のマネジメントです。特に、がんや認知症などの疾患を抱えている場合、さまざまな身体的・精神的な症状に悩まされることも少なくありません。
がんであれば、痛みやだるさ、吐き気など。認知症であれば、徘徊やせん妄、抑うつなど。これらの症状は、QOLを大きく低下させる要因になります。
私たち家族にできることは、本人の訴えに耳を傾け、症状をしっかりと観察すること。痛みやつらさをできるだけ和らげられるよう、医療の力を借りながら、症状のマネジメントに取り組んでいくことが求められます。
医師や看護師、薬剤師などの専門職と連携しながら、痛み止めの使用や、療養環境の調整など、できる限りの対策を講じていきましょう。つらい症状が和らぐことで、その人らしさを発揮できる時間が増えていくはずです。
生活の中の楽しみや役割を見出す支援~何かできることを一緒に探そう
症状マネジメントと並んで重要なのが、生活の質を高める取り組みです。
体調や気持ちに波はあるかもしれませんが、できる範囲で、その人らしい暮らしを続けられるよう支援することが何より大切。
たとえば、趣味の時間を作ること。以前は好きだった俳句や編み物、ガーデニングなど、ささやかでも、その人の心を潤すような趣味活動を見つけ、続けられるよう後押しする。それが、私たち家族の大切な役目です。
また、家族の中での役割を持つことも、大きな励みになります。洗濯物をたたむ、花に水をやる、孫の話し相手になるなど、「この人にしかできないこと」を一緒に探してみましょう。
もちろん、無理のない範囲で。ほんの少しでも、「家族の役に立っている」と感じられたら、それが生きる張り合いにもつながるはずです。
調査によると、高齢者の4人に3人が、「生きがいを感じている」と回答しています。その内容は、「健康であること」「趣味や楽しみ」「家族や友人との関わり」などさまざま。つまり、生きがいの源泉は、日常の何気ない営みの中にこそあるのです。
人生の最終段階だからこそ、一日一日を大切に過ごしたい。家族として、その思いに寄り添い、できることを一緒に探っていく。それが、QOLを高めるケアの本質なのかもしれません。
本人の価値観や意向を尊重した意思決定支援~家族の役割
QOLを考える上で欠かせないのが、本人の意思決定を尊重するという視点です。
治療方針の選択、療養の場所、延命措置の是非など、さまざまな局面で本人の意向を確認し、その人らしい選択ができるようサポートすること。それが私たち家族の重要な役割です。
特に、人生の最終段階においては、あらかじめ本人の意思を確認しておく「アドバンス・ケア・プランニング」の考え方が広がっています。
具体的には、以下などを元気なうちから繰り返し話し合っておくことで、本人の望む生き方を実現しやすくなるのです。
どこで療養したいか
どこで最期を迎えたいか
延命治療は望むか
とは言え、急な病状の変化などで、本人の意思が確認できないこともあります。そんなときこそ、家族の出番です。
日頃の何気ない会話の中から、本人の価値観や人生観をくみ取っておくこと。それが、「この人ならこう望むだろう」という推察を可能にします。
また、もし本人が自ら意思表示できなくなった場合、どのように療養を進めるか。誰を頼りにするか、家族内ではどう役割分担するか。事前に話し合っておくことで、いざというときに慌てずに済むはずです。
たとえ言葉に表せなくなっても、その人らしさを感じ取り、そっと寄り添うこと。苦しいときも、つらいときも、最期まで手を離さずにいること。その温かな見守りこそが、家族にしかできない、かけがえのないケアなのかもしれません。
以上、QOLの意味と重要性、介護を通じたQOL向上の方法などについて詳しく解説してきました。
最後に押さえておきたいのは、「その人らしく生きること」の意味の大切さです。人はみな、それぞれに輝かしい個性を持っています。たとえ心身が弱っても、その輝きは失われません。
家族にできることは、その人らしさを日々の関わりの中で見出し、お互いの心の支え合いながら、最期まで寄り添っていくこと。
たとえ介護生活が長くなっても、決して一人で抱え込まず、医療・介護の専門職とも連携を取りながら、QOLを高める適切なケアを模索し続けること。そうした日々の積み重ねが、きっと大切な人生を支える力になるはずです。
最期の時を安らかに迎えるためにも、今日から一歩ずつ。大切な人のQOL向上を目指して、あなたにできることを考えてみませんか。
苦しいときも、つらいときも、その笑顔を忘れずに。あなたの愛情が、その人の人生に光を灯し続けるのです。