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【企業レポート】 “言っても無駄・どうせ変わらない”だった職場が変わった日―近藤保子代表取締役社長が挑む、働き方と農業の未来革命(コンドウ印刷 長岡市)

にいがた経済新聞

社内改革が次々と成果に繋がっているコンドウ印刷

かつて、職場には諦めの空気が漂っていた。

「言っても無駄・どうせ変わらない」— そんな感覚が、社員たちの胸に滲んでいた。

残業は月100時間超。元請け依存の体制。誰もがどこか、目の前の仕事に張り合いを感じられずにいた。

だが今、その会社は確かに変わった。変革の旗を掲げたのは、コンドウ印刷株式会社(新潟県長岡市)の近藤保子代表取締役社長だ。残業は月3時間前後。女性オペレーターも増え、活躍の場が広がっている。社員同士が学びを語り合い、前向きな空気が職場を包んでいる。

近藤社長は長岡市出身。弁当店を営んでいた実家で育ち、県立長岡農業高校を卒業後、一般企業で数年間働いた後に、見合いを通じて近藤清規現会長と知り合い、結婚した。それと共に、会社の経営にも参画。現在は、夫から社長職を引継ぎ、3代目に就任している。

「最初は、想像以上に大変でしたね。」

入社直後の近藤氏が目にしたのは、疲弊しきった現場と、形だけの仕組み。

「頑張っても評価されない、給与に反映されない。そんな空気が蔓延していた」という。

代表取締役就任直後、彼女が最初に取り組んだのは、業務の見直し。

「“心配だからやっていた”ことが、“やらなきゃいけない”ことになっていた。それを一つずつやめていったんです」と近藤社長は語る。作業の棚卸し、ルールの再整理。

ムダを削り、やるべきことを明確にする中で、残業時間は劇的に減少。

月100時間を超えていた残業はわずか3時間前後に。そして、かつて男性中心だった印刷オペレーターの現場に、今では多くの女性が加わるようになった。

加えて、近藤社長は人事評価制度と賃金制度の整備にも着手。

そこには、「従業員の最低賃金をあげても、今の生産力では、会社の持続性に大きな影響を与える」という想いがあった。評価基準を明文化し、賃金の体系も社員に見える形で整えたことで、社内のモチベーションは大きく改善した。また、年に数度の外部研修の受講を推奨し、社員の意欲と成長を支える仕組みも拡充させた。しだいに、「学びたい」という声が自然と上がるようになり、現場に前向きな空気が生まれた。

こうした改革の積み重ねが評価され、同社は、「健康経営優良法人2022」、「ユースエール認定」などの制度認証を相次いで取得し、長岡市より「はたプラチナ賞」も受賞。元請会社からの信頼も目に見えて変わってきた。

そして2025年、近藤社長は第二の挑戦に乗り出す。

それが、循環型農業「アクアポニックス」への参入だ。水耕栽培と魚の養殖を組み合わせたこの農法は、無農薬・持続可能な仕組みとして注目されている。新会社アクアフロニックス株式会社を設立し、環境にやさしい次世代農業への道を切り拓いた。

業界の先駆者株式会社プラントフォームと提携し、「フィッシュベジ」ブランドの生産・販売に加え、プラントの提供や研修支援も担う。見た目の美しさだけでなく、香りや栄養価にもこだわった食用バラ(エディブルフラワー)の栽培を進めている。このプラントは、バラ以外の野菜やハーブにも対応可能。「新たな食の選択肢を届けたい」と近藤氏は期待している。

業務の棚卸しから始まった小さな改革は、現場の空気を変え、社員の意識を変え、会社の未来を変えた。無理をやめ、無駄を削り、社員一人ひとりの潜在力を信じたことが、組織のしなやかな強さに変わっていった。

今、コンドウ印刷は印刷業に留まらず、「育てる力」を軸に、地域と未来を耕している。

地方の中小企業が、ここまでやれる。コンドウ印刷の挑戦は、始まったばかりだ。

新しい事業にも期待を膨らませる近藤保子代表取締役社長

(文・写真 湯本 泰隆)

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