「下北沢」「御茶ノ水」は正式地名ではない! “地名の魔力”に迫る
東京の多摩地域にお住まいの方、出身の方もそれ以外の方も多摩で楽しんでいただきたいという番組。
MCは土屋礼央さん(国分寺市出身)&林家つる子さん(八王子市の大学出身)。
今週は、「たまもり」3回目の登場となる地図研究家の今尾恵介さん。これまでも“妄想の多摩地図”を作ったりとディープでマニアックな内容に。今回も地図バカと鉄道バカな二人のトークに、つる子は・・・
「下北沢」「御茶ノ水」は正式地名ではない! “地名の魔力”に迫る
今尾さん3度目のご登場! アテンド無しでスタジオ入り!
土屋:今週のゲストのご紹介です、「たまもり」準レギュラーと勝手にお呼びしております、地図研究家の今尾恵介さんです!
今尾さん:よろしくお願いします!
土屋:スタッフから聞きました。今尾さん、この収録スタジオまでアテンド無く辿り着いたそうですね(笑)。
つる子:(笑)。
今尾さん:最初、3スタジオって言われていて。行ったら、スタジオが変わりましたって言われて。
土屋:今尾さんのご出演は今年2度目ですよ、覚えるのが早い。
今尾さん:あ、そうだ。真打昇進おめでとうございます!
つる子:ありがとうございます! 無事、昇進しました!
鉄道バカ=土屋が、鉄道バカ=今尾さんに聞きたかった「時刻表」のこと
土屋:今尾さんがどんな方なのか、はじめましての方もいらっしゃると思うので。つる子さんから紹介をお願いします!
つる子:1959年生まれ、横浜市出身、日野市在住。幼少期から地形図と時刻表を愛し、出版社勤務を経て、フリーライターに。一般財団法人「地図センター」客員研究員、地図学会「地図と地名」専門部会 主査などを務めていらっしゃいます。もちろん、地図に関する著書をたくさん出されています。
土屋:鉄道好きでもある今尾さんに「時刻表」をお聞きしたくて。やっぱり好きですか?
今尾さん:好きですね。もう50年以上。
土屋:時刻表は、どういう愛で方なんですか?
今尾さん:最近、時刻表ってあまり見ないですよね? スマホで検索してということで。それだと全体が見えないので。この線にはこれくらいの間隔で走っていて、特急がどれくらいかみたいなのを俯瞰しないと、なんと無く不安になっちゃうので。
土屋:そうなんですよ! 鉄道は俯瞰してみないとダメなんですよ。
つる子:はじめて知りました(笑)。
土屋:鉄道がここで停まっているからここから行くんだ、みたいな。
今尾さんの新刊「地名の魔力 惹きつけ、惑わす、不思議な力」
土屋:そんな今尾さん、地図に関する著書もたくさん出されています。今回は地名ということで色々と伺いたいんです。基本中の基本なことを伺いたいのですけど。ラジオをやっていて、我が国、日本を“ニホン”と呼ぶべきものなのか、“ニッポン”と呼ぶべきなのか迷うんですよ。正式にはどっちなんですか?
今尾さん:どっちでもいいと思いますよ。日本銀行は“NIPPON GINKO”と書いてありますけど。日本共産党や日本維新の会など政党名でも呼び方は違うんですよ。
土屋:ちなみに、今尾さんはどっちで呼んでいるんですか?
今尾さん:ニホンの方ですね。
土屋:そういうところから、今日は地名の由来や歴史のことを伺いたいんですけど。今尾さんは先日、「地名の魔力」とう本を出されたばかりで。タイトル、素敵ですね!
今尾さん:そうですね。私が付けたわけではないんですけど(笑)。
土屋:毎回そうじゃないですか(笑)。
つる子:前にもおっしゃってましたよね(笑)。
今尾さん:営業とか色々とあるので。私がタイトル案を言ってもひっくり返されるから今回は何も提案してないんですよ。今回のタイトル、良いんですよ。“魔力”って、本当にうまいタイトルをつけていただいたと思って。地名って魔物なんですよ。
土屋:魔物?
今尾さん:例えば“銀座”という地名がありますよね。明治時代から今に至るまですごく拡大しているんですよ。なぜ拡大したかというと、<うちも銀座になりたい!>と思うんですね。そういうブランド力があるんですね。
土屋:戸越銀座とか。
今尾さん:戸越銀座もそうだけど、本家の銀座も昔は4丁目までしかなかったのが、昭和5年までに8丁目まで出来て。あとは横にも広がって。
土屋:みんなが便乗して。
「神戸」と「神田」の読み方、実はたくさんある!
土屋:今回は「地名の魔力」ということで色々と伺いたいですが。まずは『古い地名は読み方も色々ということ』で、その中でも特に「神戸」と「神田」を挙げられています。これはどういうことですか?
今尾さん:ほんとに読み方が色々とあるんですよ。「神戸=こうべ」というと、兵庫県の県庁所在地を思い浮かべるんですけど、「神戸」と書いて「こうべ」と読ませるのはあの町しかなくて。
土屋:そうなんだ。
今尾さん:あとは「神戸=ごうど、こうど」や「神戸=かんど」の方がメジャーなんですよ。
土屋:北関東に「神戸駅(ごうどえき)」にあった気がする、あれは群馬だったかな。
つる子:いや、群馬ではない・・・
今尾さん:群馬県ですね。
土屋:群馬県出身のつる子さん、それはまずいよ!
つる子:(笑)。
今尾さん:わたらせ渓谷鉄道ですね。今は「神戸」という漢字を書いて「ごうど」と読むんですけど、昔は紛らわしいので、「神戸=こうべ」が優先になって群馬県の方は「神土」と駅名だけは返させられちゃったんですよ。それがわたらせ渓谷鉄道にあって。やっぱり地元の本当の名前をということで、「神土」から「神戸」になったんですね。
つる子:そんな経緯があったんですね!
土屋:あと、名前で「神戸=かんべ」という方もいらっしゃいますよね!
今尾さん:そうですね。
つる子:よく聞きます。
今尾さん:苗字は、「神戸=かんべ、かんど」が多いんですね。
土屋:これ、なんでこんなに読み方がバラバラに広がっていったんですか?
今尾さん:このバラバラなのは方言みたいなものなのかもしれなくて。要するに、神社を維持するための人たちの住んでる集落、それが“神の戸”なんですね。それで「神戸=かんべ、ごうど」などというんですね。それが兵庫県の「神戸=こうべ」に変わったと思います。
土屋:ぼくが昔、読んだ本によると、昔は字が読める人がなかなかいなかったから、言い伝えでどんどん変わっていってしまったという。
今尾さん:それもあるでしょうね。簡単に見えて読めない地名っていっぱいあるんですよ。私の地元に「上田=かみだ」があるんですよ。
土屋:へえ!
今尾さん:簡単に見えるのに読み方がいっぱいあるんですよ。
土屋:あと、「神田」もそうなんですか?
今尾さん:「神田=かんだ」だけじゃなく、「神田=かみだ、かんた、かだ」とか。あとは、西日本では「神田=こうだ」という地名が多いんですよ。歌手の倖田來未さんも本名は「神田=こうだ」で、たぶん「神田=かんだ」」と間違えて読まれることが多いんじゃないんですかね。
土屋:へえ。そもそも、東京以外に「神田」という地名があるなんて、そもそも知らなかった。
今尾さん:これも、神社を維持するための田んぼ、という意味なんですね。
土屋:歴史の中で、漢字を変えるか、読み方を統一するか、みたいな話し合いにならなかったんですか?
今尾さん:それはなかなか難しいんですよね。50年くらい前の運転免許証なんですけど、一つの漢字に一つの読み方しかカナが入ってなかったんですよ。
土屋:ほうほう。
今尾さん:私の親族に「美枝子=みえたこ」って書いてありました。
つる子:ええ!?
今尾さん:要するに、機械化が進んでいないというか。「美」は“み”としか読めない。「美子=よしこ」さんも「美子=みこ」さんになってしまうという。
土屋:はあ! 「美=み」という! やっぱりそれは日本ならではですよね。
今尾さん:そうですね。一つの漢字で一つの読み方にしてしまうとメチャクチャになっちゃうので。日本の地名や苗字は、最初に日本語は文字の無い状態で始まりましたよね、何千年も前に。それが2世紀、3世紀と古墳時代から少しずつ大陸から漢字が入ってきて。あとから漢字を当てるという作業をやるわけですよね。
土屋:そうか! 漢字が後なのか!
今尾さん:それを、表意文字で当てるか、表音文字で当てるか。表意文字というのは、例えば、「大曲=おおまがり」という地名は大きく曲がるので表意文字なんですね。
土屋:はいはい。
今尾さん:例えば、「名古屋=なごや」は万葉仮名なんですよ。「名=な」「古=ご」「屋=や」という字を当てて。ぴったりした漢字が無い場合は万葉仮名にするというのがよくあって。
土屋:ヤンキーの“夜露死苦=よろしく”みたいな。
今尾さん:そうです(笑)。あれも万葉仮名の伝統を引き継いでいるんですね(笑)。
土屋:歴史あるんだ!
“下北沢”“御茶ノ水”という地名は無い! 「通称地名」とは!?
土屋:あと、地名でやっかいな部分でいうと、“通称地名”。どういうことですか?
今尾さん:通称地名というのは、行政や自治体の名前とか正式な大字、町名ではないもの。通称ですね。
土屋:“あだ名”みたいな?
今尾さん:そうですね。例えば、福島県の「浜通り・中通り」、青森県の「三八上北」、福井県の「嶺北・嶺南」も通称地名として使われていますね。
土屋:福島県の「浜通り・中通り」なんて、ニュースでもよく出てきますよ。
今尾さん:あれは正式地名とは言えない、その地方を表す一番わかりやすい言い方。
土屋:ということは、地図にはなんて書いてあるんですか?
今尾さん:普通は、地図には無いんですよ。
土屋:そうなんですか! あと、「下北沢」も!?
今尾さん:「下北沢」も通称地名です。
つる子:え、そうなんですか!?
今尾さん:小田急は昭和2年に開業したんですけど、その当時は“世田谷町の大字下北沢”だったんです。だから地元の地名だったんですけど、“東京市”に入って、世田谷区に入った途端、下北沢の“下”が取れてしまって、ただの世田谷区北沢になったんです。地名で“下”は嫌われるんですよ、“上”はいいけど。上北沢はあるけど、下北沢はただの北沢。
土屋:上流下流という意味だけではなく、単純に“下”という字が嫌がられた?
今尾さん:そうなんですよ。もし、小田急があと5年後に開業していたら、今頃は北沢駅になっていると思いますよ。
土屋:そうか。オレは今、“スパイ”で世田谷に住んでいるけど、たしかに世田谷に下北沢という地名は無いや!
つる子:あるつもりでした! 住所に無いんだ~。
今尾さん:あと、「御茶ノ水」もそうですね。
つる子:お茶の水もか!? そうですね。
今尾さん:千代田区御茶ノ水とか、文京区御茶ノ水って無いんですよ。将軍のお茶のための水が湧いていたというので御茶ノ水という地名が付けられたですよ。
東多摩郡(杉並・中野)の多摩への鞍替えで過半数獲得! “多摩県”が実現か!?
土屋:なるほど。では、多摩地域の通称地名でいうと、何がありますか?
今尾さん:「三多摩」ですよね。
土屋&つる子:そうか!
今尾さん:地図には、三多摩ってどこにも書いて無いんですよ。だから、多摩地域以外の人はあまり知らないかもしれないんですね。
土屋:そもそも多摩地域というのは、東京23区と島しょ部を除いた地域ですよね。三多摩ってよく考えたら・・・なんですか?
今尾さん:「三多摩」は西多摩郡、北多摩郡、南多摩郡の総称なんですよ。明治11年頃は多摩郡って巨大だったんですよ。それが東西南北の4つに分けられるんですね。そのうちの東多摩郡は、東京都の前の“東京”に行ったんですけど、西・北・南の三多摩は神奈川県に行ったんですよ。神奈川県からのちに明治26年に東京府になるので、旧神奈川県だった所が三多摩と呼ばれて。
土屋:なるほど。
今尾さん:“東多摩郡”は今の中野・杉並なんですね。早いうちに郡が統合されてしまって、南豊島郡と東多摩郡が合わさって、豊多摩郡という合成の郡の名前になるんですね。東多摩という地名は早々に消えてしまうんですよ。
土屋:はあ~。
今尾さん:のちに、杉並区・中野区になるので、(東多摩郡あったの!?)という感じで。
土屋:そうなんですよ。多摩の人間からすると、東多摩の、“連立与党の鞍替え”みたいな感じで。
つる子&今尾さん:(笑)。
今尾さん:東多摩郡は今の杉並区と中野区なので、両方合わせて人口が95万人いるんですよ。あれをゲットすれば、多摩地域の人口は500万を超えるんですよ。
土屋:きたよ(笑)! 過半数が取れるよ!
つる子:(笑)。
今尾さん:それで“多摩県”になるという。
土屋:そうですよ!
今尾さん:しましょうよ、“多摩県”に!
土屋:私に指名投票して頂けたら!
今尾さん:最初はパーシャル連合で(笑)。
「通称地名」は「正式地名」に昇格する!
土屋:さっきの「下北沢」もそうなんですけど、通称地名は地図に無いのに「駅名」にすることが多いのは、なぜなんですか?
今尾さん:例えば、「御茶ノ水」は最初は、「中央線」の前身が甲武鉄道という私鉄だったんですよ。私鉄は採算を気にして少しでもお客さんを乗せたいですよね。
つる子:そうですね。
今尾さん:そうすると、将軍のあの「御茶ノ水」。御茶ノ水の次の「水道橋駅」は、神田川にかかっている神田上水にかかっている橋ですから、人の橋ではなくて水道の橋。江戸の名所の一つだったんですね。その名所の近くだよということで、「水道橋」という駅を作って。「秋葉原」もそうですよね。今、秋葉原は正式名称で台東区にあるんですけど、秋葉原も通称地名で今の秋葉原とは違った所にあって。。
土屋:はいはい。
今尾さん:あとは「花小金井」みたいな駅も最初は通称地名。旧西武鉄道が、小金井のお花見にはこの駅をどうぞということで、「花小金井」という駅を創作したわけです。ほんとの地元の地名は“野中新田与右ヱ門組”なんです。
つる子:え? “野中新田与右ヱ門組”?
今尾さん:それよりも、“花の小金井が近いですよ”の方がアピールできるし。それが「小平市」になってから正式地名になって「花小金井◯丁目」となったんですね。
土屋:ああ、そこから!
今尾さん:駅名が先で、通称から正式になったという。
土屋:出世もあるんですね。
今尾さん:そうですね。桜上水も出世して正式な地名になったんですよ。
予定通りの2週目へ! 多摩の地名の魔力とは!?
土屋:お時間です! 今尾さんと話していると時間があっという間で。今週は23区の地名の話が中心だったので、来週は多摩地域の地名について、たっぷり伺います。来週もよろしくお願いします!
今尾さん:よろしくお願いします。
(TBSラジオ『東京042~多摩もりあげ宣言~』より抜粋)