謎の多い魚<クダリボウズギス>が干潟の地中から発見! 口内保育をすることも判明【宮城県南三陸町】
現在、日本からは4800種以上の魚が知られていますが、中には「希少魚」と呼ばれる魚も少なくありません。
テンジクダイ科に属するクダリボウズギスは半透明な体に赤い色素を持つ小型魚で、世界的にも珍しい魚とされています。そのため、生息地や生態、繁殖に関する詳細な情報がほとんどありませんでした。
そのような中、京都大学、一般社団法人サスティナビリティセンターの研究グループは、宮城県志津川湾の水戸辺川河口の干潟でクダリボウズギスを採集。そのうち4個体は口内保育を行っていることを発見しました。
この研究成果は『Plankton & Benthos Research』に掲載されており、オープンアクセスなので誰でも閲覧することが可能です(論文タイトル:First report of a genus Gymnapogon utilizing subterranean chambers in the upper intertidal zone of an estuary for shelter and reproduction in Shizugawa Bay, Miyagi Prefecture, Japan)。
希少な魚「クダリボウズギス」
現在、日本で4800種もの魚が知られており、中には生態がほとんど知られていない希少な魚も存在します。
テンジクダイ科クダリボウズギス属に分類されるクダリボウズギスGymnapogon japonicus も、そのような魚の1種です。世界的にも珍しいこの魚は希少魚とされ、生態や繁殖、どのような場所に生息するのか詳細な情報がほとんどありませんでした。
志津川湾における資源環境のかく乱
今回、クダリボウズギスが発見された志津川湾(しづがわわん)は宮城県南三陸町に面する湾。
志津川湾は東日本大震災による被害、その後の復旧工事により干潟や潮間帯から後背地にかけて連続する環境が大きくかく乱されてきました。
南三陸町、京都大学、一般社団法人サスティナビリティセンターの研究グループは震災後、宮城県レッドデータブック作成のため、海岸底生動物調査を行っている中、宮城県志津川湾の水戸辺川河口の干潟で多数のクダリボウズギスを採集しました。
クダリボウズギスは地中にいた
クダリボウズギスが採集されたのは2022年6~7月。水戸辺川河口の干潟をスコップで掘り起こし、地中から13個体ものクダリボウズギスが見つかっています。
採集されたクダリボウズギスは深さ28~43センチの地中の空洞から出現しており、1つの空洞から複数の個体が出現することもあったようです。
巣穴を作ったのは誰?
今回の研究で、クダリボウズギスが出現した地中には小さな空洞が確認されています。
テッポウエビ類やアナジャコ類などの巣穴を作る甲殻類も出現していることから、クダリボウズギスが利用していた空洞はこれらの甲殻類の巣穴の一部と考えらえているようです。
また、クダリボウズギスの体表面には水の流れの変化を感じ取る「感覚孔」がたくさんありますが、こられを駆使することにより視覚情報のない地中の構造把握しているものと考えられています。
しかし、地中に広がる空間構造は広大であり全容把握が難しいほか、宿主の特定ができていないため、さらなる調査が求められています。
クダリボウズギス4個体が口内保育
水戸辺川河口の干潟から採集されたクダリボウズギス13個体ですが、そのうちの4個体は口の中で卵を保護する「口内保育」をしており、性別がオスであることが判明しています。
口内保育は、テンジクダイ科のほかシクリッド科で見られる生態です。
卵塊は球状で約1センチほどの大きさ、約1ミリほどの卵が細い糸でひと塊になっていたようです。これらの発見からクダリボウズギスが干潟の空洞を住処として利用するほか、そこで子育ても行うことが明らかになりました。
テンジクダイ科は約380種が知られていますが、その多くが南方に生息しています。そのため、今回の研究によりクダリボウズギスがこのグループで最も北で繁殖することもわかったのです。
まだまだ謎なクダリボウズギス
今回の研究は希少魚であるクダリボウズギスが干潟の地中で発見されるという非常に驚くべき内容でした。
一方、クダリボウズギスが1日のうちどのくらいを地中で過ごすのか、卵が孵化する瞬間に地中か出てくるのかなどはまだ謎として残っているようです。
巣穴に関しては甲殻類が作ったものを利用している可能性が高いとして、生息環境や他の生物との関係性などの解明が期待されています。
(サカナト編集部)