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せん妄と認知症の違いって何?症状から原因、対策まで徹底解説!

「みんなの介護」ニュース

藤野 雅一

せん妄とは?認知症との違いを理解しよう

せん妄の定義と特徴 - 注意力低下と意識障がい

せん妄とは、急性に発症する意識障がいの一種であり、注意力の低下や思考力の混乱を主な特徴としています。

アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-5では、「注意の障がい」と「意識の障がい」の存在が、せん妄の診断に必須とされています。つまり、せん妄状態にある方は、周囲の状況を正しく認識することが困難となり、時間や場所の見当識が大きく損なわれるのです。

また、せん妄では睡眠サイクルの乱れから、夜間に不穏や興奮状態を示すことが多いのも大きな特徴の一つです。日中は比較的落ち着いていても、夜になると急に大声を上げたり、危険な行動に及んだりすることがあります。

一方、認知症は記憶障がいが主体となる点がせん妄との大きな違いと言えるでしょう。認知症では、見当識障がいや記憶障がいは徐々に進行していきますが、せん妄のように急激な変化は見られません。

このように、せん妄と認知症は、ともに意識障がいを伴いますが、発症のパターンや主体となる症状に明確な違いがあるのです。

せん妄の3つのタイプ - 過活動型、低活動型、混合型

せん妄は、その症状の特徴から「過活動型」「低活動型」「混合型」の3つのタイプに分類されます。

過活動型せん妄

興奮や攻撃性、幻覚や妄想が前面に立つのが特徴です。ときに大声を上げたり、点滴を引き抜こうとしたり、身体的な暴力をふるったりすることもあります。こうした行動は、本人だけでなく、周囲の人々の安全にも関わってきます。

低活動型せん妄

無気力や無関心、傾眠傾向などが主な症状となります。過活動型とは対照的に、反応が乏しく、ケアへの拒否も示しにくいのが特徴です。ただし、注意力の低下や見当識障がいを伴っている点は、過活動型と変わりありません。

混合型せん妄

その名の通り過活動型と低活動型の症状が混在するタイプであり、1日の中でも症状が大きく変動することが多いと言われています。

また、いずれのタイプのせん妄においても、夕方から夜間にかけて症状が悪化することが少なくありません。日中は比較的落ち着いていても、日没とともに急に不穏になったり、大声を上げてしまうケースがあるのです。

こうした症状の日内変動も、せん妄の重要な特徴の一つと言えるでしょう。

せん妄と認知症の違い - 発症の速さと症状、予後の違い

先述の通り、せん妄と認知症は、ともに意識障がいを伴いますが、いくつかの重要な違いがあります。

まず発症のパターンについては、せん妄が何らかの身体疾患や薬剤の影響により急性に発症するのに対し、認知症は脳の器質的変化により緩やかに症状が現れ、進行性の経過をたどるという大きな違いがあります。

症状面でも、両者には明確な違いが見られます。

せん妄では注意力の低下と意識レベルの変動が目立つのに対し、認知症では記憶障がいが主体となります。また、せん妄の場合は昼夜逆転など、意識レベルの変動も大きいケースもありますが、認知症の意識レベルは比較的一定に保たれており、変動も少ないことが多いのです。

検査所見においても、両者は異なる特徴を示します。

せん妄では、脳波検査で全般性の徐波化が見られることが多いのに対し、認知症では画像検査で脳萎縮などが見られることが特徴的です。

ただし、両者の鑑別には、画像検査や脳波検査だけでは不十分であり、詳細な臨床症状の観察が何より重要になります。

そして予後についても、せん妄は原因疾患の治療や環境調整により改善が期待できる一方、認知症は現時点で根本的な治療法はなく、進行を抑えることが精一杯と言わざるを得ません。

以上のように、せん妄と認知症は、症状が類似している面もありますが、発症のパターンや症状の特徴、検査所見、予後など、多くの点で異なる病態であることを理解することが重要です。

介護に携わる者は、こうした違いを念頭に置きながら、それぞれの病態に合わせた適切なケアを心がける必要があるのです。

せん妄はなぜ起こる?3つの発症因子と予防のポイント

せん妄の準備因子 - 高齢、認知機能低下、感覚障がいなど

せん妄の発症には、「準備因子」「促進因子」「直接因子」の3つの因子が複雑に絡み合っていると考えられています。

このうち準備因子は、患者側のせん妄の発症リスクを高める背景因子と言えるでしょう。つまり、準備因子を多く持つ患者ほど、些細な変化を契機にせん妄を発症しやすいということです。

準備因子の代表例としては、高齢、認知機能低下、ADL低下、感覚・栄養障がいなどが挙げられます。特に、認知症は最も強力な準備因子の一つであり、認知症高齢者はせん妄のハイリスク群と言っても過言ではありません。

認知機能が低下すると環境の変化に適応しにくかったり、自己の状況を客観視できなかったりするため、せん妄を発症しやすいのです。

また、視力や聴力の低下も、見過ごせない準備因子の一つです。情報の8割以上は、視覚と聴覚から得ていると言われています。これらの感覚機能が低下すると、周囲の状況を正しく把握できず、不安や混乱に陥りやすくなります。そのため、眼鏡や補聴器の適切な使用は、せん妄の予防に欠かせないポイントと言えるでしょう。

さらに、ADLの低下や栄養障がいなども、準備因子として無視できません。動作能力が低下すると、自力で体を動かすことも難しくなるため、環境への適応力が乏しくなります。

また、栄養状態が良くないと免疫力が低下し、感染症などの合併症を発症しやすくなるのです。

このように、準備因子を複数持つ場合は、せん妄のハイリスク群と言えます。ただし、準備因子は簡単に改善できるものではありません。

むしろ、日頃から認知機能や身体機能の維持に努め、リスクの蓄積を防ぐことが重要なのです。

せん妄の促進因子 - 環境の変化、睡眠障がい、疼痛など

次に、せん妄の促進因子について解説しましょう。

促進因子は、準備因子を持つ高齢者に対して、せん妄の発症を促す因子と言えます。具体的な促進因子としては、環境の変化、睡眠障がい、疼痛、感染症、脱水、便秘などが挙げられます。

中でも、環境の変化は大きな促進因子と言えるでしょう。住み慣れた自宅から病院に入院することは、高齢者にとって大きなストレスとなるでしょう。見知らぬ場所で不安を感じたり、不慣れなベッドで寝付けなかったりと、心身への負担が大きくなります。

また、入院によって活動量が低下することも、せん妄の促進因子となり得ます。実際に、入院している高齢患者の10~15%はせん妄を引き起こしているというデータもあります。

活動量の低下は、昼夜リズムの乱れや、睡眠障がい、便秘など、さまざまな問題を引き起こします。そして、これらの問題が相互に悪影響を及ぼし合い、せん妄の発症リスクを高めていくのです。

疼痛や発熱、脱水なども、見逃せません。体に不調を感じることで、高齢者は不安や混乱に陥りやすくなります。特に、コミュニケーションが取りづらい認知症高齢者の場合、痛みの訴えが表出されにくいことに注意が必要です。

せん妄の直接因子 - 薬剤、手術、疾患など

最後に、せん妄の直接因子について説明しましょう。

直接因子は、文字通りせん妄を直接引き起こす因子であり、その多くは医療行為に伴って生じるものです。例えば、薬剤、手術や処置、脳血管障がいなどの中枢神経疾患などが代表的です。

薬剤の中でも、特に抗コリン作用を持つ薬剤や、ベンゾジアゼピン系薬などがせん妄のリスクを高めると報告されています。これらの薬剤は必要に応じて使用されますが、高齢者では副作用としてせん妄を引き起こすリスクも高くなるのです。

また、全身麻酔下の手術も、せん妄の強力なトリガーとなることが知られています。手術侵襲による炎症反応や、麻酔薬の影響などが複雑に絡み合い、術後せん妄を引き起こすと考えられています。

特に、高齢者や認知症の方、ADLの低下した方などは、術後せん妄のハイリスク群と言えるでしょう。

さらに、脳血管障がいや脳炎、髄膜炎など、中枢神経系に直接影響を及ぼす疾患も直接因子となります。これらの疾患では、脳の器質的な損傷や炎症が生じるため、意識障がいや認知機能の低下を来たしやすいのです。

直接因子の中には、医療者が介入できるものも少なくありません。薬剤の見直しや、手術時の全身管理の工夫など、予防的な対応が可能な場合もあります。ただし、治療のためにリスクの高い薬剤を使用せざるを得ないケースもあるでしょう。せん妄のリスクと、治療の必要性を天秤にかけ、適切な判断を下すことが求められます。

いずれにせよ、直接因子に関する正しい知識を持ち、リスクを最小限に抑える努力が欠かせません。医療者と介護者が密に連携し、情報を共有しながら、患者の状態に合わせた対策を講じていく必要があるのです。

せん妄の予防対策 - 生活リズムの調整、環境整備など

ここまで、せん妄の発症因子について解説してきましたが、それでは具体的にどのような予防対策が有効なのでしょうか。

せん妄の予防において特に重要なのは、「生活リズムの調整」と「環境の整備」の2点です。

まず、生活リズムの調整について説明しましょう。

せん妄の予防には、昼夜逆転を防ぎ、適切な睡眠-覚醒リズムを維持することが欠かせません。そのためには日中の活動を促し、夜間の安静を図ることが大切です。

また、食事や検温、配薬などの日課を一定の時間に設定し、生活にメリハリをつけることも重要です。

さらに、光療法と呼ばれる昼光の利用も、生活リズムの調整に役立つと言われています。朝の光を浴びることで、体内時計がリセットされ、昼夜のリズムが整いやすくなるのです。自然光を取り入れたり、散歩に出かけたりするなど、簡単な工夫で効果が期待できます。

次に、環境の整備についてお話しします。

せん妄の予防と改善には、本人が過ごしやすい環境を整えることが何より大切です。まずは、カレンダーや時計を設置し、時間や日付の見当識を保てるようにしましょう。

また、ベッドサイドには、なるべく馴染みのものを置くようにします。家族の写真や、お気に入りの枕など、安心感を与えてくれるアイテムは、せん妄の予防につながります。

ただし、環境整備を行う際には、プライバシーや尊厳に十分配慮することが大切です。必要以上に行動を制限したり、過剰な装飾を施したりすることは避けましょう。あくまでも、本人の安全と快適性を最優先に考え、必要最小限の整備を心がけることが大切です。

せん妄が疑われたら?具体的対応策を紹介

せん妄の症状チェックリストと観察のポイント

せん妄は、早期発見・早期対応が何より重要です。しかし、症状は多岐にわたり、時間帯によっても変化するため、見逃されやすいのが現状です。

せん妄でよく見られる症状としては、夜間の不穏・興奮、幻覚・妄想、見当識障がい、注意力の低下などが挙げられます。

特に、夜間の不穏や興奮は、せん妄の初発症状として現れることが多いため、注意が必要です。日中は普段と変わらない様子でも、夜になると突然大声を上げたり、ベッドから出ようとしたりするようであれば、せん妄の可能性を疑ってみましょう。

こうしたせん妄の症状を見逃さないためには、系統的なチェックリストを活用することが有効です。代表的なものとして、「CAM(Confusion Assessment Method)」が挙げられます。

CAMでは、「急性の発症」「注意力の低下」「思考の混乱」「意識レベルの変化」の4項目をチェックし、せん妄の有無を判定します。特に、「急性の発症」と「注意力の低下」の2項目は、せん妄に特異的な所見とされています。

ただし、チェックリストはあくまでもスクリーニングのためのツールであり、確定診断には医師の判断が必要です。

また、チェックリストに頼りすぎるのも禁物です。普段と違う様子がないか、患者の表情や言動の変化を敏感に感じ取る観察力が何より重要なのです。

生活リズムを整え、身体的苦痛を取り除く工夫

せん妄が疑われた場合、まずは生活リズムの調整に取り組むことが大切です。特に、夜間の安眠を確保することを最優先に考えましょう。

そのためには、日中の活動量を増やし、体を適度に疲れさせることが効果的です。レクリエーションや軽体操など、楽しみながら体を動かせる活動を取り入れるのも良いでしょう。

ただし、過度な負荷はせん妄を悪化させる恐れがあるため、本人の体力に合わせて慎重に行うことが大切です。

また、発熱や脱水、便秘など、身体的な不調がないかどうかも注意深く観察しましょう。バイタルサインのチェックはもちろん、皮膚の乾燥具合や尿量など、細かな変化にも目を配ることが大切です。

コミュニケーションが取りづらい認知症高齢者の場合は、言葉だけでなく、表情や仕草からも苦痛のサインを読み取ることが求められます。「痛い」と訴えられなくても、顔をしかめたり、落ち着きがなくなったりするようであれば、何らかの不調を疑ってみましょう。

せん妄の原因検索と医療職との連携、家族支援

せん妄への対応において最も重要なのは、原因となる疾患の検索と治療です。

せん妄は、さまざまな身体的・精神的要因によって引き起こされ、根本的な解決には原因の特定が欠かせません。感染症や脱水、電解質異常など、疑われる原因について医師に的確に伝え、適切な検査と治療を依頼することが大切です。

また、使用中の薬剤が原因の場合もあるので、医師や薬剤師に相談し、必要に応じて減量や中止を検討してもらうことが重要です。

せん妄の症状が落ち着いても、すぐに元通りになるわけではありません。回復までには一定の時間を要することを、家族もしっかりと理解しておく必要があります。せん妄について理解を深め、回復への道のりを共に歩む姿勢が大切です。

不可解な言動に戸惑い、不安を感じることもあると思いますが、経過や今後の見通しについて把握し、本人が安心できる環境を整えることが求められます。

せん妄の予防と治療には、多職種の知恵と経験、そして家族の理解と協力が欠かせません。

以上、せん妄という複雑な病態について、予防と対応の基本を解説してきました。せん妄は、正しい知識と適切な対応によって乗り越えていくことは不可能ではありません。本記事が、せん妄と向き合う皆さまの一助となれば幸いです。

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