【劇団渡辺解散&大石宣広追悼公演 劇団渡辺版「四川の善人」】21年間の活動に終止符。最終公演記念Tシャツの背中部分に驚愕
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は7月17~19日開催の、劇団渡辺解散&大石宣広追悼公演 劇団渡辺版「四川の善人」を題材に。会場は同市葵区の「ギャラリー青い麦」。17日夜の公演を鑑賞。
2004年に静岡大演劇部卒業生ら3人で結成し、静岡市を拠点に活動を続けた「劇団渡辺」の解散公演は、2024年に亡くなった創立メンバーで主演俳優の大石宣広さんの追悼公演も兼ねた。
同劇団所属の蔭山ひさ枝さん、山崎馨さん、山本瑞穂子さんの3人に、SPACの吉見亮さん、貴島豪さんらゲストを迎えた演目は、故大石さんゆかりのベルトルト・ブレヒト原作「四川の善人」である。
善人を探して旅をする神様(貴島さん)。いかさまビジネスの水売りをするワン(吉見さん)を介して娼婦のシェンテ(蔭山さん)を紹介された神様は、一夜の宿代を彼女に渡し、その善行に期待を込める。たばこ屋を始めたシェンテは元飛行士スンと恋に落ちるが、彼が再び飛行機に乗るための金をたかられる。別人格シュイタとして、スンの黒いたくらみを知ったシェンテは-。
ギャラリー青い麦は、かつてこの演目を見た「人宿町やどりぎ座」より幅が狭く縦が長い。上手下手にスペースがないので、役者の出入りも客席の背後や舞台後方のついたての陰から、となる。
この舞台の条件下で最大の輝きを放っていたのが、貴島さんの神様だ。存命中、大石さんが演じていた役柄。天使の格好をした山本さんが押す台車に立った貴島さんは、客席の間を分け入るようにして登場。口角を上げ、目を細めた怪しい笑みで、会場のすみずみにまで「幸せ」のバイブレーションを行き渡らせた。
劇団渡辺の演劇はふとしたタイミングで演じ手が語り部に転換する。「四川の善人」では蔭山さんのシェンテが特に顕著。文語混じりの硬いせりふで緊張が高まった次の瞬間、ご近所との井戸端会議のような口調でさっきまで演じてきた状況をかみ砕いて説明したり、話の成り行きを説明したりする。この緩急が楽しい。劇中の世界と観客のいる世界の境目を、故意にあいまいにしている。
以前、山崎さんと蔭山さんにインタビューした際、劇団渡辺について「古典をやりたい人と、シチュエーションコメディーみたいなものをやりたい人がいたので、しばらく両方やろうという話になった」と話していた。それって共存するのか?とも思うが、今回の「四川の善人」を見て「そのまま21年間やってきたんだ」と思い至った。
ウェットな雰囲気が一切ないエンディング。「あさって解散することになりました」とあいさつし、すぐさま物販に入るメンバーの姿にすがすがしさを感じた。
今回公演のTシャツを購入し、自宅で広げてみた。背中部分に年表形式で公演演目が書かれている。約90本あった。最多は2019年で10演目のタイトルが並んでいる。この「量」はいったい何なのだ。彼らのハードコアな本質を改めて思い知った。
<DATA>
■劇団渡辺「劇団渡辺版 四川の善人」
原作:ベルトルト・ブレヒト
構成・演出:劇団渡辺
出演:蔭山ひさ枝、山﨑馨、山本瑞穂子、絢、形而マサ子、山下浩平、山田清顕、吉見亮、貴島豪(ゲスト)
会場:ギャラリー青い麦(静岡市葵区呉服町2-2-22 呉服町ビル1F)
今後の公演日時:7月18日(金)午後8時、19日(土)午後2時と午後7時
観覧料:前売 一般3000円、U25・1000円
当日 一般3500円、U25・1500円 善人(前人)チケット5000円
※チケット完売の可能性あり。予約、問い合わせは問い合わせは劇団のメールアドレス(watanabe.theatrical.company@gmail.com)へ。