台風10号の爪痕残る 復旧への動きも
8月末に日本列島各地で猛威を振るった台風10号。台風の接近に伴い、秦野市内の城山配水場では8月30日の24時間雨量が269・0mmを記録した。この大雨の影響により、床上・床下浸水、道路崩落、土砂崩れなどの被害が発生し、その爪痕は現在に至るまで市民の日常生活に大きな影響を与えている。現在の状況を改めて取材した。
市道7号線で通行止め続く
東海大学前駅から名古木方面へ抜ける弘法山の道、市道7号線(龍法寺付近〜曽屋5890の1付近)では、約10カ所におよび倒木や法面の崩落、道路崩落などが発生した。
特に被害が大きかったのは、南矢名1390付近の道路。法面からの土砂流入のほか、雨による浸食でおよそ5m幅道路の半分ほどが崩れ、斜面の畑に土砂が流れてしまっている。秦野市建設管理課、道路整備課によると、市道7号線で発生した倒木や土砂などについては撤去作業が進んでおり、道路崩落現場についても「早期の仮復旧に向け、現在作業を進めている」という。9月13日時点で、仮復旧の時期については「未定」とのことで、通行止めの解除は秦野市緊急情報メールなどで告知を行う予定。両課では「まだ台風シーズンが続くため、何か道路の異常があれば建設管理課、もしくは建設総務課に連絡してほしい」と話す。
遺産登録の棚田甚大な被害
秦野市名古木の棚田も、台風10号よって起きた土砂崩れの被害にあった。この棚田は、神奈川県内で唯一農林水産省から「つなぐ棚田遺産」に登録されている「名古木の棚田群」の一部。棚田を管理する有志団体によると、30日の記録的な大雨で付近の山の斜面が崩れ、大量の土砂が棚田に流れ込んだという。棚田に広がった土砂でなぎ倒された稲は、全体の8割にのぼる。
9月に入りわずかに残った稲を刈り取ることができたものの、棚田への被害が甚大なため来年以降、稲作を継続できるか分からない状態だという。「復旧を目指しているが莫大な費用が見込まれ、個人の力だけではどうにもならない」と同団体。今後、市の担当課や県に状況を説明し、復旧への呼びかけを行うという。
菩提の茶畑で2回目の崩落
高梨茶園(菩提)では、台風10号による豪雨で茶畑が崩れ大きな被害が出た。茶畑は3段目と2段目が崩れ、1段目は土砂により木が押し流されるなど一反(生産量にして700〜800kg)ほどを損失。被害額は年間で100万円、復旧し再び収穫できるまでを考えると1千万円ほどになるという。
茶畑が崩れたのは、30日の夕方。4代目の高梨晃さんは消防団としても、個人的にも昼頃に見回りをしたが、その時は大丈夫だった。しかし夕方、「畑の下の方まで土が流れている。高梨さんのところではないか」という電話を受け急ぎ現場に向かうと、土砂が道を塞ぐほど畑は大きく崩れてしまっていた。
その後、新聞で被害が報じられると全国の取引先や生産者仲間から「大丈夫か」という心配の連絡を受けた。復旧に関してもボランティアとして多くの人が手伝いに訪れ、できる範囲の片づけは終了している。中には重機を持って手伝ってくれた仲間もいた。
2019年の台風19号の時にも茶畑が崩れる被害を受けた高梨茶園。「父から受け継ぐ思い入れのある畑で、しかも2回目の被害。さすがにショックが大きかった」と高梨さんは話す。一方で、励ましの言葉や手伝いに勇気づけられ、再び前を向く決意もした。
現在は行政にどう復旧するのがよいかなどを相談している。「人がいない時間だから大きな事故にならずに済んだが、また同じようなことが起きないよう排水を一番に考えた方法を模索したい」と高梨さんは話す。
今後はクラウドファンディングの活用も検討している高梨さん。「返礼としてお茶の苗木植え体験などを考えてもいいかも。どうせならこの危機をプラスに捉え、茶園だけではなく秦野の北地区のお茶をPRできる場に転じることができれば」と思いを語った。
寺院本堂に土砂流入
市内の寺院でも、山の土砂崩れによる大きな被害が発生した。30日の朝、土砂や木が押し寄せ、雨戸や窓を突き破り本堂内に侵入した。
「防犯カメラを確認したら、もはや土石流だった。人がいない時間で本当に良かった」と話すのは同寺の住職。過去にも台風などによる土砂被害はあったが、ここまでひどいものは初めてのことだという。
本堂や庭に流れ込んだ土砂のかき出しには、状況を知った多くの人が手伝いに来た。現在は本堂内や庭はきれいになり、業者に消毒などを任せている段階だという。一方で崩れた場所を直さなければならず、「完全復旧は来年になるのではないか」と住職は話した。
南矢名のアパート床上浸水
東海大学前駅付近では、一般住宅やアパートなどが床上浸水などの被害を受けた。松屋不動産(南矢名)が管理するアパートもそのうちの一つで、1階の5部屋が床上浸水したという。
台風の予報を受け、朝の5時と6時に見回りを行ったという同社の福嶋秀樹社長。この時は大丈夫だったが、3回目の7時には床上まで浸水していた。これほどの被害は同アパートの管理をしてから初めてで、「恐らく雨水の排水が間に合わず、わずかな間に一気に水が流れ込んだのでは」と福嶋社長は話す。
震災や風水害の災害ボランティアの活動を日ごろから行い、災害対応の知識とネットワークを持っていた福嶋社長は、復旧に向け即座に動いた。45人のボランティア仲間が入れ替わりで手伝うことで1週間ほどで概ね復旧させたが、「普通はなかなかこうはいかない」と話す。
今回の台風では災害ボランティアセンターが立ち上がったほか、個人なら「り災証明書」を取るという選択肢もある。「そういった知識を持つことが大事。あとは日ごろからの備え(自助)とご近所付き合い(共助)も大事だと自分が被災して痛感した」と福嶋社長。同アパートを掃除する傍ら、同じく浸水した近所の人たちに対応の仕方や、どの消毒剤が有効かなどの知識を伝えた。今後は少しでも浸水を防げるよう門扉の交換や、柵部分への対策を考えているという。
被災者へ支援も
秦野市では、災害によって被災した市民の復興の後押しとして「り災証明書」「り災届出証明書」の発行や生活支援などを行っている。
「り災証明書」は住家(実際に居住している建物)の被害程度を証明するもので、「り災届出証明書」は自動車や家財などの非住家に被害があった場合、届出を行った事実を証明するもの。申請は、被害にあった日の翌日から90日以内に、市資産税課(本庁舎2階)か電子申請で行う。
こうした申請を行うことで、市の生活復興に対する支援を受けることができる。例としては、見舞金の支給や市民税などの減免措置、り災ごみの無償処分などがあり、詳細については市ホームページで公開されている。また、支援情報や相談窓口等をまとめた「被災者支援ハンドブック」も、市ホームページからダウンロードすることができる。
ハンドブックに関する問い合わせは市防災課【電話】0463・82・9621へ。