英語を使うための「ツール」を揃える 文法学習で読解力を上げよう
大学入学共通テスト(以下、共通テスト)は2025 年1 月から新しい学習指導要領に対応した内容に改められます。
「外国語(英語)」は、どんなふうに変わるのか、気になっている中高生の皆さんも多いはず! そこで、大手進学予備校で英語を教える大岩秀樹先生に共通テストで出題される英語リーディングの特徴と、今日から取り入れたい学習法を解説してもらいます。いま求められている英語の力とは何か、どうすればその力が磨かれるのか。受験を考えている人はもちろん、英語を読む力を上げたいと思っている皆さんにも役立つノウハウをお届けします!
前回は、まず身につけておきたい力として語彙力を取り上げ、「使いこなせる単語の増やし方」を解説しました。今回は、「文法の習得」についてお話しします。
共通テストの英語リーディングの出題傾向を見てみると、文法や語彙の知識を一問一答で問うような単純な形式の問題はほとんどありません。さまざまな英語の文書に関する読解問題で構成されていて、一見文法問題がないように見えるので、「文法学習に時間をかけなくてもいいのでは?」と思うかもしれません。
しかし、英語リーディングは、英語の知識があることを前提に「英語を活用できているか」を測るテストになっていて、長文を読み解いて答えなければいけないので、当然、文法の知識も求められます。令和7年度共通テスト試作問題を例に見てみましょう。
令和7年度共通テストの試作問題はこちらから
大学入試センターホームページ(https://www.dnc.ac.jp/)内に掲載
あいまいな文法の理解が誤読を引き起こす
試作問題の第A問は、高校の授業で生徒がスマートフォンを使うことの是非について5人の意見文を読み解き、設問に答えます。その中に出てくるPsychologist(心理学者)の意見から下の文を見てください。
英文は「S(主語)+V(述語)+O(目的語)」の文型が基本で、英文によってはC(補語)なども加わります。上の2文目の英文は「SVOC」の文型です。この英文を正しく読み解くには、文法の知識が必要です。まず動詞の「-ing」形は、現在進行形だけでなく、置かれる位置によって名詞、形容詞、副詞などのような働きをします。この英文の場合「-ing」形は、この文のSとなる「名詞」の働きをするかたまりを作っており、Being believed by many は「多くの人に信じられているということ」となります。
また「make+名詞+形容詞」は「(名詞を)~にする」の意味になり、does not make an opinion correctは否定形なので、「意見を正しくするというわけではない」となります。このように、文法を理解していれば、文を単語ではなく「かたまり」ごとに理解できるようになり、どのかたまりがSVOCに当てはまるのかわかります。この英文ではmakeはV(述語)にあたり、「S が原因でO がCとなる」と、前後に因果関係を生む働きをしています。一見、S(主語)には見えないBeing believed by many が主語とわかり、「多くの人に信じられているからといって、そのことが意見を正しくするわけではない」と読み解けます。
1文目で心理学者は「スマートフォンが生徒の学びに役立つことは、広く知られている意見だ」と主張しているので、2 文目を正しく読み解けないと、「心理学者はスマートフォンの使用に賛成」と判断してしまうかもしれません。文法をしっかり理解できていないと誤読を招く可能性があるのです。文法の習得は、文法の問題を解くためだけではなく、読解にも必要な力といえます。
文法を身につけるには、語句の位置関係や語順を意識
では、どのように文法を学べばいいでしょうか。重要なポイントは、語句の位置関係、つまり英語特有の語順を習得することにあると私は考えています。
前で解説した「-ing」形やmake の働きでもありましたが、英語は語句が文のどの位置に入るかで、意味が変わってきます。それを理解できていれば、先ほどのBeing believed by many, though, does not make an opinion correct. の Being believed by many が「主語のかたまり」、does not make が「述語のかたまり」と、「意味のかたまり」が見えるようになります。この力を身につければ、読むスピードが格段に上がります。語数が6000を超える共通テストの英語リーディングを読みこなすには、備えておきたいスキルといえます。
出題される語句や文法は、高校までに習う範囲を中心に使用されているので、身構える必要はありません。まずは英検3級、つまり中学校で習う語句や文法を確実に理解することから始めましょう。
おすすめの学習法は、よくわからない英文に出合ったら、まず日本語で意味を理解したあと、語句の位置関係や語順、文法の働きを意識しながら書き写すこと。書くことで頭に入りやすくなりますし、自分の語彙力をチェックできます。次は文のかたまりを「/」で区切ってみます。これにより、語句の働きが理解できているか確認できます。そして語句を理解したら、英語で作文してみましょう。自分で作文できるまで使いこなせるようになった語句や文法は、確実に身についたといえます。
文法が苦手なら、理解できるところからやり直そう
英語を教えていると、文法に苦手意識を持つ生徒がたくさんいると感じます。多くの場合は、語順とその意味を明確にわかっていないことが大きな原因だと思われます。例えば、先ほども解説したとおり、動詞の「-ing」形には、現在進行形だけでなく、名詞、形容詞、副詞に似た働きもあり、下の3つの例文のように、置かれる位置によって意味が決まります。上から順に「名詞」「形容詞」「副詞」の働きをしています。
1 I lovetravelingandreading. 「私は旅行と読書が好きです」(名詞)
2 I saw a manreadingover there.「 私は向こうで読書している男性を見ました(」形容詞)
3 I eat breakfast,readinga newspaper.「 私は新聞を読みながら、朝食を食べます(」副詞)
日本語ではイメージしにくい概念も「文法嫌い」に拍車をかけるようです。例えば「現在完了形」。これは「現在」に視点が置かれる時制で、下の例文ではそれぞれ、「1継続的に行っている」「2過去に経験したことがある」「3過去から継続的に行ってきたことが、今完了した」と3つの働きをしています。
3つの例文は、「現在」を起点にして表現されていますが、日本語ではイメージしにくい概念といえるのではないでしょうか。文法が苦手だなと思ったら、基本に戻り、しっかり理解しましょう。例えば高校生なら、中学校で取り組んだ英文をおさらいしてもいいですね。そうして少しずつ階段を上がっていけばいいのです。
文法の学習は、英語を使うための「ツール」を揃えるようなもの。このツールが強力であればあるほど、英語を自由に扱えるようになります。文法の学習は、受験のためだけでなく将来にも役立つはずです。
大岩秀樹
東進ハイスクール・東進衛星予備校の英語科講師。基礎講座から難関大向け講座まで多数担当し、応用問題にもしっかり対応できる「本物の基礎力」にこだわる授業を行う。中学生・大学生向けの講座も多数担当しており、大学入試にとどまらない未来へつながる英語指導を心がけている。著書は50 冊以上。
■「NHKテキスト 中高生の基礎英語 in English 2024年12月号」より
■構成:稲田砂知子
■イラスト:柿崎こうこ
前回までの連載はこちら
第1回 中高生必見!「どんな問題? 共通テスト英語リーディングの特徴」
第2回 「使いこなせる単語」を増やそう! 語彙力の高め方