【福島県こども未来局 吉成宣子局長】東日本大震災の影響。子どもたちの安全や未来を守るため
東北地方の南側に位置し、山や海など自然が多い福島県。東北自動車道と東北新幹線が通り、加えて福島空港によって空の便もあるため、観光に訪れる人も少なくありません。一方、2011年の東日本大震災では、地震の被害だけではなく原子力発電所に関わる問題も発生しました。震災から14年。福島県の子育てはどう変わり、どのような展望を持って政策に取り組んでいるのでしょうか。福島県保健福祉部こども未来局の吉成宣子局長にお話をうかがいました。
自然に囲まれ桃の主産地として有名な福島県
――福島県は海も山もあり、自然が豊かな県ですね。福島といえば桃というイメージがあります。県外のお店でも夏には福島県産の桃を多く見かけました。
吉成宣子・こども未来局長(以下、吉成局長):福島は桃の生産量が全国2位で、まさに桃の主産地です。「あかつき」という品種が有名で、糖度が高くてみずみずしい桃なんですよ。冬にかけては、会津で栽培されている「みしらず柿」が美味しくなる時期です。元々は渋柿で、古くから栽培されています。 観光名所としては、会津若松市の鶴ヶ城天守閣があります。戊辰戦争の激しい戦いに1ヶ月も耐え抜いて、その名を天下に知らしめたお城です。1874年(明治7年)に一度取り壊されたのですが現在は復元され、ご覧いただくことができます。
東日本大震災の影響は大きかった。だからこそ子どもたちを守りたい
――福島県の子育て政策を見ると、「福島県内のこども・若者の居場所一覧」や「福島県ひきこもり相談支援センター」など、内容が多岐にわたります。子どもに対するサポートが充実している印象を受けますが、こうなった経緯を教えていただけますか?
吉成局長:ここまで子育て政策に力を入れてきた背景には、やはり東日本大震災の影響があります。福島県は原発事故により大きな影響を受けました。子どもたちは外で遊べなくなり、子育て中の親御さんたちも、この先どうなるのだろう、子どもたちは大丈夫なのだろうか……といった不安を抱えました。私は、子育て支援を担当しており、子どもたちを守りたい、子どもたちの育ち、遊びの環境などについて、県として真剣に考えなければならないという思いが強くありました。
また、震災によって福島県を離れた方もたくさんいます。そういう方たちがいつか戻ってこられるように、安心して子育てができるような場所にしておきたいとも思いました。
――当時は原発の被害が大きく子どもたちの外遊びは禁止だったと聞きましたが……。
吉成局長:考え方は人それぞれでした。正確な情報が乏しく、洗濯物を外に干すかどうか、保育園でも外で遊ばせるかどうか、親御さんがそれぞれに判断をしているところがあったからです。何がよくて何がだめなのか、判断に迷う人も多かったと思います。園でも、外に出してほしくない親御さん、外で遊んでもいいと考える親御さんの両方が混在していたので、現場の先生方は本当に大変だったと思います。
――当時は何が正しいのかの判断も難しい状況だったと記憶しています。
吉成局長:正しい知識は本当に必要で大切なことです。けれど正しい知識があればそれで安心ということではなく、安心と安全は違うものなんです。たとえば「もう外で遊んでも大丈夫ですよ」と公的な機関が発表したとしても、心配だと感じる親御さんは一定数いるわけです。それは当然のことですから、その気持ちに寄り添いながら子育てを支援していくことが求められていました。
――心配なら外で遊ばせなければいいという声もありましたか?
吉成局長:ありましたね。その意見も尊重しつつ、一方で外遊びや自然に触れる遊びは子どもにとって大切なので、安全を確認しながら少しずつ外遊びができるようにする必要があると考えました。具体的には、「子どもの冒険ひろば」を整備して、誰でも遊びに来られる居場所をつくりました。「子どもの冒険ひろば」では、プレーリーダーや地域の方々が子どもたちを見守っているので、親御さんも安心して子どもたちを遊ばせることができます。
子ども食堂などの子どもの居場所を一覧に
――「福島県内のこども・若者の居場所一覧」とはどのようなものですか?
吉成局長:自主的なボランティア活動として取り組まれている子ども食堂などの子どもの居場所を掲載した一覧です。この表を見ると、どこに子ども食堂や学習支援、体験活動などができる場所があるかがわかります。自宅から歩いて行ける場所にあることがわかって、多くの子どもや親御さんが居場所を活用できるようになりました。2024年7月時点で186ヶ所と、年々増えてきています。
――子ども食堂はどのような形で運営されていますか?
吉成局長:県内の約8割の子ども食堂では、子どもたちは無料で利用することができます。利用料をとる子ども食堂でも、100円などワンコインとしているところが多いようです。多くの子ども食堂は、民間団体の助成金や個人・企業からの寄付金によって支えられています。
「ひきこもり」の理解が必要。サポーター養成を行う
――「福島県ひきこもり相談支援センター」はどのような場所ですか? どのような方が相談に来られるのでしょうか?
吉成局長:6割近くは親御さんやきょうだいからの相談で、残り4割は本人からです。カウンセリングを受けてもらうほか、センターとしての支援が難しい場合には専門的な支援機関を紹介しています。
状況によってさまざまですが、なかには家族との会話もできない、という人もいます。まずは相談者のお話を丁寧に聞きながら、家族やご近所さんとの関係性を築き、少しずつ社会とのつながりを増やしていく、といった方法で進めています。
――ひきこもりになると、本人と家族との接触も少なくなると聞きます。ご家族へも働きかけをされていますか?
吉成局長:ひきこもりのお子さんに対する接し方は、家族ごとに考えて提案しています。同時に親御さんの気持ちに寄り添うこともとても大切だと考えています。ひきこもりのわが子を否定したり、自分の子育てが悪かったのだと自身を責めてしまったりする人が多いからです。さまざまな価値観が認められる時代ですし、社会との関わり方も多様化しています。そのような現実を親御さんにも知ってもらうための支援もしています。
――「社会との関わり方」は親御さんが気にされることのひとつですが、ひきこもりに対してマイナスイメージを持つ人もまだまだ多いのではないでしょうか。
吉成局長:ひきこもりについてマイナスイメージを持つ人が多いのも事実です。けれど社会全体で理解を深めることも大切なのではないでしょうか。福島県では、ひきこもりで辛い思いをしている家族の話を聞くサポーターの養成を行っています。特別な資格は必要なく、研修を受けることで一般の方でもサポーターとして活動できます。サポーターになることで「誰もが生きやすい社会をつくりたい」と考える人が増えてきたように感じており、嬉しく思っています。
編集後記 福島県は東日本大震災で大きな被害に遭いました。当時、育児中だった吉成局長は「子どもの安全や安心を守ろうという気持ちがより強くなった」と言います。子どもの居場所づくり、引きこもりで悩む本人や家族を救う活動など、どの政策にも吉成局長の実感を伴う強い気持ちがあることを感じました。
次回は福島県が取り組む「子どもの夢応援」についてお聞きします。
※取材は2024年11月に行いました。記事の内容は取材時時点のものです。