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鈴木愛理「歌とダンスでぶつかって高め合いたい」ーーミュージカル『SIX』で「史上最も有名でスキャンダラスな暴君」の元妻役に挑戦

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鈴木愛理 撮影=河上良

世界的な人気を集めているミュージカル『SIX』の日本キャスト版が、2025年1月31日(金)から2月21日(金)まで東京・EXシアター六本木、2月28日(金)から3月2日(日)まで愛知・御園座、3月7日(金)から16日(日)まで大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演される。同作は、16世紀に実在し、「英国史上最も有名でスキャンダラスな暴君」と称されるヘンリー8世の6人の元妻たちが、現代によみがえってガールズバンドを結成する物語。ヘンリー8世と離婚、処刑などされた彼女たちが「誰が一番このバンドの主役にふさわしいのか」を決めるため、「ヘンリー8世からどれだけ酷いことをされたか」を披露し合う。そんな同作の来日版も1月8日(水)から26日(日)まで東京の同シアターで上演。来日版、日本キャスト版、両作の熱気が2025年の始まりを飾る。そこで今回は日本キャスト版で、5番目の妃であるキャサリン・ハワードを演じる鈴木愛理に、物語や役について話を訊いた。

――鈴木さんはキャサリン・ハワードというキャラクターをどのように捉えていらっしゃいますか。

6人の元妻のなかでもプレイガールとして知られていて、若いときから恋愛についてもオープン。ちょっと早熟なイメージを持っています。でもそれはハワードの表面的な部分。彼女には、それだけでは語れない面があります。ですので、なぜそういった性格になってしまったのか、その背景にはなにがあるのかなど、ちゃんと理由や本心を自分なりにつかんだ上で、ハワードが持っている嘆きみたいなものを、ソロナンバーなどを通して伝えていきたいです。作品を見始めたときと、見終わったときとでは、ハワードの印象が違っているかもしれません。

――キャサリン・ハワードのソロナンバー「All You Wanna Do」には、そんな彼女の気持ちの揺れ動きがあらわされています。ヘンリー8世という夫がいながら、別の男性に心が傾くと綴られていますね。

ハワードは、どこかに寂しさを抱えている人なのではないでしょうか。大胆な行動に出るのですが、決してポジティブさやアグレッシブさからくるものではない。幼少期にちゃんと愛情を注いでもらえなかったこと、当時に経験したこと、それらが影響しているはずなんですよね。だからこそ成長したとき、人から与えられる愛情をすべて「嬉しい」と感じてしまう、つまり、それだけ愛情に枯渇していた。倫理的に間違っていたとしても、愛情に対してすごくまっすぐで、それが結果的に歪みにも繋がってしまったのだと考えています。

――愛情にまっすぐなのに、結果的に歪んでしまうというのはとても興味深い捉え方ですね。

ハワードには、ハワードなりにもっと誰かに愛されていい理由がいっぱいあったと私は思うんです。今回はその辺りを見逃さずにお芝居をしたり、歌ったりしないといけません。この作品を通して、ハワードが自分の心をちゃんと保てなかった理由を見つけたい。あと、ハワードって他の5人の元妻たちに比べると資料が少ないとされているようなんです。そういう点でも、私自身がもっともっと彼女のことを知って、イメージを膨らませていく必要があるんじゃないかなと思っています。

――10月に大阪市内で開かれた記者会見では、自分なりのエッセンスを込めたいとおっしゃっていましたが、それはそういった部分を指すのでしょうか。

私自身のエッセンスというのは、性格的な部分というよりも、歌唱やダンスのことです。私はかつてアイドルグループで活動をしていたので、そのときに培ったものを出していきたいんですよね。たとえば複数名でパフォーマンスするときに自分らしさをどのように出すか、そこでの個性のあらわし方などをエッセンスとして入れていきたい。ハワード自身は歴史的な人物なので、お芝居の部分ではちゃんと彼女になりきりたいです。

――ダンスパートも盛りだくさんにありますか。

ずっと歌って、踊っています。歌もいわゆるミュージカル調ではなくて、ポップス調とか、ロック調とか。生バンドで披露します。ほぼ全編にわたって6人の元妻が登場しているので、インパクトもかなりあるはず。共演者のみなさんとは「こういうふうに歌って、踊っていきましょう」とコミュニケーションをとりつつ、歌とダンスでぶつかり合うくらいの感覚で高め合っていきたいです。ハワードを演じるにあたっては、まだ稽古前とあって「どうやって演じよう」と模索しているところもありますが、みなさんと歌って、踊っていくことに関してはすごく楽しみです。

『SIX』の振りで出てくる王冠ポーズ

――物語としては、6人の元妻たちが「自分はヘンリーにこんなに酷いことをされた」とエピソードを披露し、その内容で競い合って「主役」を決めていきます。彼女たちがヘンリーにどんな感情を抱いているのか、その本心が見どころではないでしょうか。

6人の元妻たちによる、6通りの考え方や感情があるのではないでしょうか。権力が欲しい、お姫様になりたい、ヘンリーのことが本当に好きなど、みんないろんな理由があって王妃になりましたから。ですので一概には言えませんが、そこにはマイナスとプラスのイメージが存在し、その上で「ヘンリーにちゃんと愛されたかった」、もしくは「愛したかった」という感情がある。「誰が一番酷いことをされたか」を競って歌ってはいますが、「私はこれくらい愛されたの、だけど……」というニュアンスも込められている点がおもしろいなって。

――おっしゃるように、愛情と憎しみは紙一重な気がします。「ヘンリーにこんなに酷いことをされた」は、「それだけ愛されていた」の証明や裏返しと解釈できるかも。好きだからこそ、ちょっとしたことで憎しみが生まれることもあるでしょうし。

その点では、6人の元妻たちって気持ちがまだまだ若い。私は、愛情に憎しみなんていらないですから(笑)。私は「あ、嫌だ!」となるとスパーンと切っちゃいたくなりますし。だけど6人の元妻たちは、いろんな理由でヘンリーと別れるから、好きだけど憎いというのはかなりあるのではないでしょうか。あと彼女たちは離婚をキッカケに処刑などされているので、次のステージへ行きたくても行けない悲しさがあったでしょうね。いろんな気持ちを引きずったまま天国に行って、それを晴らすためにステージに戻ってくる。そう考えると、演者である私たちは、6人の元妻たちがこの世に残した想いを、ミュージカルを通して晴らしてあげなければいけない。それくらいの感覚で演技をして、歌って、踊っていかなきゃなと思っています。

――たしかに6人の元妻からは深い情念も感じられると思います。

みんな「自分が一番愛されていて、自分が一番愛していた」と考えています。そして、そういうところから一体感も強まっていく。その上で、実際にヘンリー8世ってどうだったのかが明かされていく。日本のショートドラマとかでもありますよね、誰かの元妻や元カノたちが集結してそれぞれがエピソードを話していくような作品が。そして、自分の元夫、元カレの本性に気付いていくみたいな。そういう感覚に似ている気がします。もちろん元妻たちは、ヘンリーを絶対的に憎んでいるとは言い切れません。それぞれの経験を明かし合いながら最後は「自分たちは、自分らしくやっていこう」「ウチらって最高じゃん」みたいな連帯感が生まれていく。ご覧になる方はそういった部分を見て、楽しく、スカッとできると思います。

――ストーリー展開、そして歌やダンスのパフォーマンス面などボリューム満点の内容になりそうですね。

まさにエンターテインメントなショー。6人の元妻たちのパワーがすごいので、男性の方はちょっと肩身が狭くなるかもしれませんが(笑)、80分ノンストップなので「今日は盛り上がるぞ」という気持ちでご鑑賞していただきたいです。

取材・文=田辺ユウキ 撮影=河上良

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