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AIも空気を読んで動く時代に? LayerX・名村卓が考える優秀なAIエージェントの条件

エンジニアtype

AIも空気を読んで動く時代に? LayerX・名村卓が考える優秀なAIエージェントの条件

「人間とは、道具を使う動物である」

イギリスの歴史家・トーマス・カーライルのこの言葉は、長く人間とテクノロジーの関係を象徴する言葉として語られてきた。

だが今、私たちは「道具」と呼ぶにはあまりに自律的な存在「AIエージェント」との協業に迫られている。それは命令に従うアシスタントではなく、自ら判断し、行動し、ときに私たち以上に仕事を進める存在だ。

優秀なエージェントと協業することが、自身の生産性を高め、より良い働き方を描くためには欠かせない。では、一体どのようなエージェントが「優秀」と言えるのだろうか。

その問いに答えてくれたのは、AIスタートアップLayerXでプリンシパルを務める名村 卓さん。本記事では、2025年8月1日に開催されたイベント「Bet AI Day」での名村さんの講演をもとに、優秀なAIエージェントの条件と、それを実現するためのアーキテクチャーを紐解いていく。

株式会社LayerX
プリンシパル
名村 卓さん

受託開発経験を経て、2004年株式会社サイバーエージェントに入社し、新規事業立ち上げの開発を担当。2016年に株式会社メルカリ入社。USのサービス開発を経てCTOに就任。2022年6月株式会社LayerXに入社し、イネーブルメント担当として「テクノロジーを活用した全社の生産性に責任を持つ」役割を担う

目次

Cloude Codeの登場で、エンジニアリングの在り方が一変「優秀なAIエージェント」が持つ六つの条件【1】空気を読む【2】自律して情報を検索できる【3】最小のHuman In The Loop【4】トライアンドエラーを厭わない【5】多様な知識を活用する力【6】正しいアクションを選べる分割と分散が、エージェント設計の鍵になるAIエージェントは道具ではなく、もはや同僚

Cloude Codeの登場で、エンジニアリングの在り方が一変

「AIエージェント」の登場によって、エンジニアリングの世界は一変しました。中でも『Claude Code』が登場した際のインパクトは強烈で、私自身、いくつかの変化を感じています。

まず第一に、「人間が指示してAIに処理させる」形から、「AIが出した出力に人間が手を加える」形に、仕事の進め方が大きく変わりました。

このシフトチェンジは、開発における環境設計にも影響を与えています。以前までは、共通ライブラリを整備しておくことが開発効率につながると考えられていました。でも今では、「AIが読み取りやすいガイドライン」や「コーディング規約」の整備のほうが、はるかに価値が高いと感じます。

また最近では、人間がコードを書いている横で、ドキュメント修正や検証作業など別のタスクをAIに並行して任せるといった「タスクの並列化」も起きています。

これから先、無数のAIエージェントが世の中に登場し、私たちの業務の中に密接に入り込んでいくでしょう。そして私たちは、優秀なエージェントを見極め、どう一緒に働くのかを選ぶことになります。

では、「優秀なAIエージェント」とは一体何なのでしょうか。いくつかの要素に分解して考えてみたいと思います。

「優秀なAIエージェント」が持つ六つの条件

私は、AIエージェントの優秀さとは、単なる処理能力の高さだけで決められるものではないと考えています。

タスクの本質を理解し、自分の分身のように動いてくれる……つまり人に寄り添えることこそがエージェントの真の優秀さだと思うのです。

その寄り添いを可能にするためには、次にあげる六つの要素が重要になります。

【1】空気を読む

最も大切なのが「空気を読む力」です。

人が何を目的として、どんな文脈でタスクを進めているのか。それを逐一説明しなくても察して動いてくれるエージェントこそ、本当に寄り添ってくれる存在だと思います。

具体的には、AIエージェントが仕様書を読み取って「この部分、こう直したいんですよね?」と、こちらが言い出す前に提案してくれるようなイメージです。

こうした挙動を実現するには、エージェントの設計段階で「何を任せるか」を明確に定義することが欠かせません。

役割を限定し、不要な情報を削ぎ落とし、過去の履歴などを的確に渡す。範囲が明確だからこそ、文脈を深く理解し、精度の高い気の利いたふるまいが可能になるのです。

【2】自律して情報を検索できる

次に、必要な情報を自ら取得する情報検索能力が不可欠です。

コードベースをたどったり、ドキュメントを引いたり、RAGのような仕組みを活用することで、エージェントは人に依存せず必要な知識を取りに行けるようになります。あらかじめ参照先を整備し、ナレッジの構造を設計しておくことが、この力を支えます。

【3】最小のHuman In The Loop

「最小の Human In the Loop」を目指すことで、人間の助けがなくても動く便利なエージェントに近づきます。

これを実現するには、エージェント自身が手順を探索できるよう、必要なツールやガイドラインを事前に渡しておくことが求められます。人間の手を借りず、一定の判断を委ねられる設計になっていることが前提です。

【4】トライアンドエラーを厭わない

現実の業務では思わぬエラーやバグと遭遇するシーンが大いにあります。大切なのは常に正解を出すことではなく、実行した結果が正しいか、何が間違っているかを検証できることです。

そのため、APIなどの失敗メッセージが具体的で理解しやすく、過去の行動履歴や失敗時のログなど次に活かせる情報を適切に与える設計が求められます。こうした情報があることで、エージェントも行動をスムーズに修正できます。

【5】多様な知識を活用する力

LLMが持つ事前知識に加え、社内文書やルール、担当業務の背景など、状況ごとに必要なナレッジを切り替えて使うためには、ナレッジの取捨選択と提示の方法、検索性をどう設計するかが鍵になります。

【6】正しいアクションを選べる

プロセスがどれだけスマートでも、出力が見当違いなら意味がありません。エージェントに与えるツールの設計、スキーマのシンプルさやAPIの分かりやすさまで考慮された設計が肝心です。

正しいアクションを選ぶために試行錯誤できることが、全ての土台になると言っても過言ではありません。

これら六つの力を、一つ一つ技術と設計によって積み上げていくことで、人に寄り添うAIエージェントは実現します。優秀さとは、単なる性能ではなく、「人と共に働けるように丁寧に設計された結果」であると、私は思っています。

分割と分散が、エージェント設計の鍵になる

続いては、「人に寄り添うAIエージェント」を、どうすれば実際に実現できるのかについて考えてみましょう。私たち人間がAIエージェントに用意すべき環境と、エージェント設計の具体的な視点についてお話しします。

まず重要なのは、「AIフレンドリーな情報環境」を整えることです。

大前提、AIエージェントが自律的に動くためには、エージェントの意思決定を司る「LLM」に対して、「会話の履歴」「過去のアクション」「ツールの実行結果」「ユーザーの状態」といった多層的なコンテキストを与える必要があります。

ですが、LLMに与えられるコンテキストにはサイズの上限がありますし、量が多すぎると逆にノイズが増えて精度が落ちることもあります。そのため、「意思決定に不要な情報を削る」「情報を圧縮する」「スコープを明確にして移譲する」といった設計上の工夫が不可欠になります。

とはいえ、どれだけコンテキストをうまく設計しても、エージェントとのやり取りを重ねるごとに、文脈の量は時系列的に膨れ上がっていきます。長いタスクや複雑な業務であればあるほど、一つのエージェントだけで完結させるのが難しくなっていくのです。

そこで有効なのが「Multi Agent構成」です。このアプローチでは、タスクを複数のエージェントに分担させることで、各エージェントが自分の役割に応じた最小限のコンテキストだけを保持して動けるようになります。

例えば、ユーザーの依頼を受け取って全体方針を立てる「リーダーエージェント」が最初にタスクを分解し、「情報収集」「設計」「実装」などの機能を担う専門のサブエージェントたちに指示を出すといった構造です。これによって、エージェント全体としてのスケーラビリティーが向上し、それぞれのエージェントがより高い感度で“空気を読む”ようになります。

こうした連携をさらにスムーズにする方法としては、「シェアードメモリ(共有メモリ)」の導入が効果的です。あるエージェントが取得したファイル一覧やAPIの実行結果などを共通のメモリ領域に保存し、他のエージェントがそれを必要に応じて参照できるようにする。この設計によって、やり取りが都度プロンプト経由でなくても済むようになり、協調作業の効率が飛躍的に高まるのです。

AIエージェントは道具ではなく、もはや同僚

構造的な工夫によって、AIエージェントが優秀に働ける環境は徐々に整っていくでしょう。しかし、本当に「人に寄り添う存在」としてのエージェントを育てていくには、もう一つ、私たちに求められることがあります。

それは、私たち人間がAIエージェントとどう向き合うか、という文化的な土壌づくりです。

例えば、エージェントに親しみやすい名前やキャラクターを持たせれば、ミスをしても寛容な気持ちで受け止められる気がしますよね。単なる道具ではなく、仲間として関わっていく。そんな関係性を築けたとき、エージェントとの共働はより自然で、創造的なものになると私は信じています。

人に寄り添うAIエージェントを育てるには、まず人間がAIに寄り添える設計と文化をつくること。その先にこそ、本当の共創があるのではないでしょうか。

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文/今中康達(編集部)

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