「援助を求める力」を育む!星槎大学・阿部利彦先生が選ぶおすすめの3冊【発達ナビ・あの人の本棚から】
阿部利彦先生が選ぶ3冊は?
長年にわたり発達に特性のある子どもとその家族の支援に尽力されてきた阿部利彦先生は、教員、教育相談員、支援委員などを歴任し、一貫して教育現場に携わってこられました。その豊富なご経験と深い洞察力から、子どもたち一人ひとりの可能性を最大限に引き出すための教育を追求し続けています。
今回は阿部先生に、「保護者の方へ」「支援に携わる方へ」「著者ご自身の作品」という3つの観点から、心からおすすめしたい書籍を選んでいただきました。
阿部利彦先生が選ぶ!保護者の方におすすめの1冊『発達障害と生きる親子のための小学校コミュニケーションハック』(なちゅ。/著)
「学校との話し合いで、どうお願いすればいいか分からない」――。そんな悩みを抱える保護者に向けた、実践的なコミュニケーション術が満載の一冊です。著者は、ADHD(注意欠如多動症)当事者であり、対人コミュニケーションに苦手意識を抱えてきました。自身の経験と試行錯誤の末に見つけ出した、具体的で効果的な声かけ例や対応方法が「マインドセット編」「ハック編」「不登校編」「ご自愛ケア編」の全4章に詰まっています。「意図がうまく伝わらない」「どうお願いすればいいか迷う」といった悩みを抱える方にとって、この本は心強い味方となるのではないでしょうか。
なちゅ。さんの書かれた本書には、お子さんの支援について学校と交渉していくためのテクニックが満載です。さらにたくさんの特別支援教育に関する情報、そして保護者としての願いといろいろな人に対するやさしさがぎっしりつまっていると思います。
なちゅ。さんから学ぶことはたくさんありますが、特に「援助を求める力」を発揮して多くの人とつながり、連携し、しかしその「つながり」に依存することなくご自身もできることを丁寧に続けていらっしゃる。その姿勢とバランス感覚に皆さんも感動を覚えることでしょう。
支援者の方におすすめの1冊:『私たちの「インクルーシブ学級」を語り合おう』(阿部利彦・川上康則・菊池哲平/編著)
特別支援教育の専門家と、現場で実践を重ねる教師たちが対話を通して見出した、インクルーシブな学級づくりのヒントが詰まった一冊です。本書は、特別支援教育の専門家3名が、7名の実践家をゲストに迎え、「インクルーシブ学級」の課題と可能性を探求する鼎談集となっています。ゲストの先生方との対話を通して、インクルーシブな授業づくりや学級経営、教師の成長支援、子どもの見取りなど、多岐にわたるテーマを掘り下げていきます。
「インクルーシブ教育」を実感的に理解したい方、ユニバーサルデザインやUDLに関心がある方、そして多様なニーズに応える学級づくりを目指す先生方に向けた、未来の教室への道しるべとなる一冊です。
「インクルーシブな学級を作る」という目標を掲げると「具体的には何をしたらいいのだろう」と思われる先生方も多いと思います。本書に登場する先生方の実践をうかがうと、皆さんそれぞれの方法で「クラスの子どもたち一人ひとりが安心して過ごすことのできる環境を作る」ということに真摯に取り組まれています。子どもたちが「わからない・できない」に正直になれる場所、間違いから学ぶことのできる場所、「助けて」と言える場所を築くことが、結果としてその学級をインクルーシブなものにする、と本書を通じてお気づきになるはずです。
発達ナビユーザーへおすすめの自著1冊:『「援助を求める力」を大切にする支援~子ども・保護者・教師の援助要請~』(阿部利彦/編著)
「困っていても、なかなか人に頼れない」――それは、子どもたちだけではなく、保護者や教師にも共通する悩みではないでしょうか?
発達に特性がある子どもたちにとって、学校生活で「教えて」「手伝って」と声をかけるのは特に難しい場合があります。しかし、困ったときに援助を求める力、すなわち「援助要請スキル」は、問題解決や心の健康を保つために欠かせない、生きるうえで非常に大切な力です。
本書は、阿部利彦先生が、子どもたちが「人に援助を求めてうまくいく経験」を重ねられるよう、教師や保護者がどう働きかけるべきかを分かりやすく解説しています。子どもだけでなく、保護者や教師自身の援助要請の難しさや大切さにも焦点を当て、誰もが安心して過ごせる社会づくりのためのヒントとなる本です。
私は援助要請スキルを「問題を解決するために、適切な相手の力を借りながら最終的には自力解決するための技術」と定義しています。私は、就労支援の経験から、子ども・大人関係なく、また障害のあるなしにかかわらず、我々にとって重要なのはこの「援助要請スキル」=「援助を求める力」である、と考えるようになりました。
ただし、私は「助けて!」と言うことができない立場の人たちを「援助を求められない」と捉えてはいません。本書を通じて「困った」「助けて」「手伝って」ということの難しさと大切さを、子どもたち、保護者の方々、先生方、それぞれの立場で見つめ直してみたいと考えています。「援助を求める力とは」皆さんも一緒に考えてみませんか?
まとめ
阿部先生のお話と選書から見えてくるのは、「子どもだけでなく、保護者や教師も、お互いに助けを求め合える温かい社会」の姿です。
一人ひとりの「困った」に寄り添い、共に解決していくこと。このシンプルな行動こそが、これからの時代を生きる子どもたちにとって、何よりも大切な力となるのかもしれません。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。