子どもの暴力行為が20年で3倍に! “キレる子ども”のメカニズムと親の心構え[児童精神科医が解説]
児童精神科医が説く「キレる子ども」の受け止め方第1回。キレる子どものメカニズムと、キレた子どもに向き合う親の心構えについて。全4回。
【イラストで見る】子どもの「キレる」は実は困っている子どもの「SOS」子どもがキレやすい。
些細なことで怒る。すぐに反抗する。暴言を吐いたり、暴力をふるう……。そんな悩みはなかなか周囲に相談できないもの。さらに、その対応には時間も手間もかかり、保護者の精神もすり減ってしまいます。まずは子どもの行動を止めること。暴力・暴言を止め、そのあとどう子どもと寄り添ってゆくのか。
子どもの“こころのSOS”に向き合うための“接し方”をまとめた書籍『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』(著:原田謙/講談社)から、今回は“キレる”のメカニズム、キレた子どもに向き合う心構えを一部抜粋してご紹介します。
子どもの「キレる」は実は困っている子どものSOSといいます。 イラスト/めやお『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』より
子どもの暴力行為が20年間で3倍に
文部科学省が小学校・中学校・高校での子どもの暴力行為の発生率を定期的に調査していますが、その合計の数値は以前より高くなっています。
児童・生徒1000人当たりの暴力行為発生件数は2002年度に2.5件、2012年度に4.1件でしたが、2022年度は7.5件となりました。20年間で3倍になっているのです。
また、かつては中学校での暴力行為の発生が多かったのですが、2021年度に初めて小学校での発生率が中学・高校よりも高くなりました。キレる子どもの問題の低年齢化がうかがえます。
家庭内暴力の統計もあります。法務省が公表している「犯罪白書」によると、少年による家庭内暴力の認知件数は2002年に1291件でしたが、2012年には1625件、そして2022年には4551件に増加しています。こちらの調査でも数値が20年間で3倍以上になっているのです。こちらも小学生の増加が目立ちます。
学校での子どもの暴力行為の発生件数をまとめたグラフ(左)では2014年ごろから小学生が増えているのがわかる。グラフ(右)は子どもの家庭暴力の認知件数。 『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』より
怒るとキレるの違いとは?
怒りの感情は喜びや悲しみと同じように、基本的な感情の一つです。怒りを言葉や行動で表現するのは、悪いことではありません。「怒る」というのは必ずしも不適切な行為ではないのです。
一方、怒りを抑えきれず、キレてしまうと、理性的な対応ができません。暴言や暴力が出ることもあります。それは不適切な行為です。
さて、“キレる”とはどのような状態のことをいうのでしょうか?
キレることを火山の噴火にたとえて考えると、メカニズムを理解しやすくなるかもしれません。
「キレる」は噴火、「怒りの感情」はマグマです。地中にはマグマがたまっていますが、火山はいつも噴火しているわけではありません。マグマがあること自体は、問題ではないのです。
「キレる」は火山にたまったマグマが噴火するイメージ。 イラスト/めやお『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』より
ただ、マグマがたくさんたまりすぎて限界がくると噴火します。そうなると、周辺地域に被害が出ます。それと同じように、人間も怒りの感情を内にため込むと徐々に苦しくなり、やがて限界がきてキレてしまいます。そのときには、人に怪我をさせたり、物を壊したりすることもあるのです。
“キレる”パターンは3つに分けられる
パターン①怒りが大きくなってキレる
怒りが爆発してキレる過程には、大きく3つのパターンがあります。
一つは怒りが大きくなってキレるパターンです。日頃から怒りを感じる場面が多く、しかもそれを我慢する状況が続いていて、怒りが自分の内側にたまっていく。そして爆発してしまうのです。
このパターンは例えば、不適切な養育を受けている子に見られます。
大人から暴力をふるわれたり放置されたりして、怒りを感じる。しかし怒れば反抗的だとみなされ、さらに厳しい仕打ちを受ける。そのような状況では、子どもは刃向かえば状況が悪化することを察して、怒りの感情を抑え込もうとします。それがやがて爆発するのです。
また、最近の子どもは「いい子」でいるように求められることが多いと私は感じています。乱暴な言葉を口にしたり、きょうだいや友達に強く当たったりすると、すぐに注意されます。日常的に怒りをため込みやすくなっているように思います。
そのような環境下では、おとなしい子が実は怒りをため込んでいて、ある日突然キレることがあります。
パターン②小さな怒りを我慢できない
第二のパターンは、小さな怒りを抑えるのが難しくて、爆発してしまう形です。例えば衝動性が高くて、少し悪口を言われただけでもキレてしまう子がいます。また、些細なことにこだわって、他の人が気にしないようなことで激しく怒り出す子もいます。
あるいは、小さいころからまわりの大人に先回りされて問題を取り除かれていたために、我慢する練習が不十分なまま成長したという場合にも、怒りを我慢しづらくなります。
些細なことで急にキレてしまう子どもも。安全確保のためその場を離れるのも有効。 イラスト/めやお『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』より
このパターンの場合、他の子どもたちがおだやかに過ごしている場面で、我慢の苦手な子どもだけがキレてしまうということになりがちです。
パターン③2つのパターンが重なる
①と②が重なるパターンもあります。我慢をするのが苦手な子が、不適切な養育を受けたり、「いい子」でいることを強要されたりして、キレやすくなるパターンです。
これがもっとも深刻です。発達障害の特性が関連している場合もあるのですが、そういった背景がまわりの大人になかなか理解されず、大人のほうも途方にくれてしまい、お互いの関係に悪循環が生じている場合に、この第三のパターンが見られます。
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子どものキレる行動を見ていると、発達特性だけではなく、その子の性格やこれまでの育て方も影響しているように思えてくることもあります。「原因はどれなんだろう」と悩んでしまうこともあるでしょう。
原因を重視しすぎない
そういうときには、一つの要因を重視しすぎないことが大切です。キレる行動にはさまざまな要因があります。特定の出来事や、その子の性格なども要因となります。よく親の養育が問題視されますが、一つの要因だけではなく、さまざまなことが関連しているのだと考えましょう。そのほうが、子どもや自分を責める気持ちが少なくなります。
私たち大人は、キレる子どもを「悪い子」ととらえてしまいがちです。しかし、その子も四六時中キレているわけではありません。勉強や運動などをがんばっているときもあります。子どものよい面に目を向ける。子どもを見直す。まずはそこから始めてみてください。
次に、大人が子どもとの接し方を見直しましょう。例えば「子どもに厳しすぎたかな」と感じたときに、「自分はそういう性格だから」と考えると、気持ちが後ろ向きになります。「性格」ではなく「接し方」を見直しましょう。これまでのやり方には、よいところもあったはずです。その点は継続しながら、うまくいっていないところを見直していきましょう。
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次回は、暴言・暴力をどこまで許す? 子どもの問題行動・やり過ぎ行為、暴言に、大人は具体的にどう対応するべきか、についてご紹介します。
構成/佐々木奈々子
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■今回ご紹介の書籍はこちら
『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』(著:原田謙/講談社)
児童精神科医の著者が25年以上の臨床で培ってきた、キレる子どもへの対応・支援法を、マンガを交えて解説します。
「暴力の止め方」「話の聞き方」「ほめ方・𠮟り方」「発達障害の場合」など、ノウハウ的な接し方だけでなく、子どもと向き合うときに意識したい大人側の心構えも重要。ブレない姿勢で、子どものこころに寄り添いながら対応をしていくことで、キレる行動は減っていくでしょう。本書では事例をマンガで紹介しながら対応のしかたを解説。子どものこころに寄り添う対応法がわかります。
『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』(著:原田謙/講談社)