実写のドラマや映画とは違う?「アニメのセリフ」ができるまで
SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は「アニメのセリフができるまで」についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん
たくさんの人が関わり、アニメができていく
映像制作の基本は脚本なので、アニメの場合もまず脚本家がセリフをふくめて脚本を書きます。セリフは基本的に物語を進めていくために、紡がれていきます。ただ脚本の段階では、具体的にどういう絵になるのかわからないため、「保険」として書かれてるセリフもあります。
例えば、何かを食べておいしいというシーン。出てきた料理がおいしそうに描かれていたり、キャラクターの表情などでちゃんと表現できればいいのですが、色々な状況が重なってアニメではそこまでうまく表現できない場合もあります。そこで、保険としてまずは脚本で「おいしい」と書いておくわけです。そうすれば、映像だけで伝わりにくくなった場合でも、セリフがあることで、そのシーンで伝えたいことが確実に伝わるようになります。
次に脚本を受けて演出家が絵コンテを描きます。絵コンテとは、「こういう画面にしたい」というラフな絵に、セリフとト書き、それに1カットあたりの秒数を記したものです。
この絵コンテを描いていく過程で、映像にしてみたらセリフでそこまで説明しなくてもわかるだろう、ということもでてきます。その場合は、セリフをカットすることもあります。あるいは原作で叫んでいるシーンをそのまま脚本にしても、映像にしてみると、対セリフが多すぎてテンポが悪くなることがわかり、調整するというようなことも行われます。
アニメーターは絵コンテを元に絵を描きます。アニメでは「止め口パク」という、止め絵の状態で口だけ動いてセリフを言う状態があります。アニメの場合、口パクというのは開いている口と閉じている口、その中間の中口の3パターンしかなく、それを組み合わせて喋ってるように見せています。伝統的なやり方では、セリフ1文字につき3コマと決まっており、映像は1秒24コマでできているので、8文字で1秒になる計算です。
演出家は実際に自分で喋りながらストップウォッチで時間を測り、セリフのあるカットの秒数を決めていくので、アニメーターはそれを踏まえつつ口パクをつけていきます。
しかし1文字3コマでは、どんなキャラクターも話すペースがすべて同じになってしまいます。そこで、早口の人はフレーズとフレーズの間を詰めて表現します。ただ今は、絵が完成する前にアフレコを行って、セリフに合わせて口パクをつけることが増えてきています。そのため1文字3コマという伝統的なスタイルではない場合も多くあります。
次に絵コンテからアフレコ台本が作られます。つまりアニメには脚本と台本があるというわけです。脚本は絵コンテの前に作られるものですが、アフレコ台本は音声を収録するために作られた、声優さんたちが使うためのものです。この段階では、ほぼほぼセリフは決められています。アフレコ台本は、専門の業者に絵コンテを渡して、そこに作ってもらいます。
絵コンテには、アニメーターへの指示なども書いてあるのですが、キャストがアフレコをするために必要な、キャラクターの感情につながるト書きだけを拾って作られます。
声優にはだいたい1週間前に台本とリハV(リハーサルビデオ。仮の映像で、セリフを言うタイミングを示すマークが入っているもの)が渡されるので、練習をしてアフレコに臨みます。アフレコはテスト、ラストテストのあと本番――最近はラステスのあとに本番が多いようです――という形で収録されます。
声優さんは演技ができることが前提でその場にいます。もちろん声優さんが考えてきたプランと、演出家が考えていたことがズレていたら、演出側からディレクションが入ります。これはまさに「ディレクション(方向づけ)」で、お芝居ができること前提での調整です。ある音響監督さんは、「(演技ができない人を指導する)演技指導とディレクションは違う」とおっしゃってました。
また取材の中で音響監督さんがおっしゃっていたのは、今のアニメはリアリティラインが高めのものが多いから、流れの中で自然に演じるのが大事だということと、絵を超えてほしいということ。この絵から想像できる芝居がつくのではなく、その絵の想像をちょっと超えてくるところにお芝居があると、キャラクターが膨らむよねという話をされていました。
制作過程の各所にいろんな専門家がいて、いろんなバトンが渡されていくことで、最後に皆さんのもとに名セリフが届くというわけです。