ITエンジニア転職2025予測!事業貢献しないならSESに行くべき?二者択一が迫られる一年に
2024年は、エンジニアバブル崩壊の影響が色濃く出始めた年でした。バブルが続くことを疑わず未経験でエンジニアを目指した方や、転職を繰り返して年収を上げすぎてしまった方にとっては、厳しい一年だったでしょう。
今回は、2024年の総括として、エンジニアバブル崩壊後に何が起きているのかを振り返りつつ、2025年以降にエンジニアとして生き残っていくための方法についても考察していきたいと思います。
博士(慶應SFC、IT)
合同会社エンジニアリングマネージメント社長
久松 剛さん(
)
2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。12年に予算都合で高学歴ワーキングプアとなり、ネットマーケティングに入社し、Omiai SRE・リクルーター・情シス部長などを担当。18年レバレジーズ入社。開発部長、レバテック技術顧問としてキャリアアドバイザー・エージェント教育を担当する。20年、受託開発企業に参画。22年2月より独立。レンタルEMとして日系大手企業、自社サービス、SIer、スタートアップ、人材系事業会社といった複数企業の採用・組織づくり・制度づくりなどに関わる
目次
【2024年振り返り】ブラックすぎる!エンジニアになろう系商材の数々が露呈【1】永遠にエンジニアになれない、エンジニア志望者【2】未経験者に「経験者のふり」を指示? 経歴詐称させる悪徳SES【3】RAを増強しすぎた結果、「案件採用」に手を出す企業【2025年予測1】自社貢献意識の強い、プロダクトエンジニア求人が増加【2025年予測2】再び強まる「外注」への流れ【2025年予測3】DevRel領域のバブル、2025年に崩壊?2025年に転職を考えるエンジニアが抑えておきたいこと
【2024年振り返り】ブラックすぎる!エンジニアになろう系商材の数々が露呈
2024年は、「エンジニアバブルの反動」が顕在化した一年でした。エンジニア志望者が増えすぎ、RA(リクルートアドバイザー)が増えすぎ、そして人材は流動化しすぎた。その反動が現れ始めたのです。
その反動とは何か。実際に起きたことを例に、もう少し解像度をあげてみましょう。
【1】永遠にエンジニアになれない、エンジニア志望者
まず、2018年以降のプログラミングスクールブームによって、未経験からエンジニアを目指す人が増えました。先行きの暗い日本でも、ITエンジニアになれば安泰だと思う人が急増したわけです。
しかし、ここ最近はエンジニアになろうと思ってネット検索しても、ろくな情報に当たらず、不遇なキャリアを重ねてしまう方が増えています。
特に情報系学部出身ではない若手、つまりIT業界の情報に疎い人に多いのですが、例えば、YouTube検索やSEO対策されたインターネット記事から情報を得ようとした結果、紹介会社や派遣会社へ誘導されてしまうのです。
そこで「エンジニアとはなんぞや」が分からないまま登録し、斡旋企業の囲い込み力に長けた担当がつく。それで「今なら需要が伸びているインフラエンジニアになるといいよ」と言われるまま入社を決め、ヘルプデスクやテスターの仕事にアサインされてしまう。これはまだいい方で、コールセンターや家電量販店の店員、警備員、某自動車会社の期間工など、エンジニアとは無縁の仕事にアサインされ、一向にITエンジニアになれないというケースも相次ぎました。
明らかに悪質なのですが、2024年末にもなると「目の前の候補者に内定が出る企業はこうした企業群しか無いので、彼らの働き口確保のためにもやむを得ない」という正当化の声も聞こえてくるようになりました。
【2】未経験者に「経験者のふり」を指示? 経歴詐称させる悪徳SES
SES企業における経歴詐称指示も問題になりました。
どういう内容だったかと言うと、「エンジニアになれる」という広告を見た未経験者に登録をさせ、自社運営のスクールに誘導して40万から60万円する教材を購入させます。そこでエンジニアの勉強ができるかと思いきや、未経験を経験者と偽る経歴詐称まがいの営業方法を教え込まれるのです。
しかも案件が決まるまでの期間は営業活動や面談を行っても無報酬。いざ案件が決まっても、経歴詐称しているので、当然求められるレベルの仕事なんてできません。クライアントや上司から圧をかけられ、メンタルを病んで退職していくんです。
そんなエンジニア志望者を狙う「悪質案件全部盛り」のような事件もありました。
SES企業における経歴詐称指示が違法な業務命令にあたるとして損害賠償請求を認める勝訴判決を獲得http://blog.livedoor.jp/tokyolaw/archives/1082584497.html
経歴詐称などの強要やプログラミングスクール詐欺などを行った悪質なSES事業者に対し、2024年7月に515万円を超える損害賠償命令が言い渡されています。これを皮切りに、2025年は悪質な事件に次々と決着がつくのではないでしょうか。
プログラミングスクールの広告は、「エンジニアになれば転職で収入100万円アップ可能」、「フルリモートで自由な働き方ができる」とうたいます。しかし、ITエンジニアは専門職。当たり前ですが、それなりの学習量と、下積み期間が求められるんです。
2025年以降、こうした安易な言葉はますます信用を低下させ、エンジニアの支持が得られづらいものと化すでしょう。
【3】RAを増強しすぎた結果、「案件採用」に手を出す企業
エンジニアバブル崩壊の影響は、企業側にも及びました。バブル時は各社エンジニアの正規採用に力を入れていたので、CA/RAを増強しすぎたんです。ある会社では、人材紹介会社の担当者を、5年間で100人から400人にまで増やしたと聞きました。
RAの人員を増やせば、増やした人件費の分だけ粗利を出さなければなりません。その結果、かなり強引な人材紹介が増え、「案件採用」に頼る人材紹介会社も現れました。
「案件採用」とは、最終面接で企業側から「合格」と言われたのちに、営業活動を経て案件を獲得して初めて入社が決まる、という採用方法です。つまり、案件が決まるまでは企業側に基本給も社会保険料負担義務も発生しない、「無職」の状態です。
本来、案件を獲得できるまでマネタイズできない「案件採用」は、エンジニアバブル下の人材紹介会社から見れば売上が読めないため忌避されてきました。しかし、増加した人件費のために、手を出さざるを得ないのでしょう。
「案件採用」の対象となりやすいのは、未経験、微経験、50代以上、スキルセットが古い人が中心です。転職回数が多いジョブホッパー、そしてエンジニアバブルの影響で実力以上に年収が上がってしまった人なども内定が出にくいため、案件採用の対象になりやすい傾向があります。
人材紹介会社としても、貰い手のない人材をどこかの会社に決めてあげたい、という良心のカケラから手を出しているところもあるようです。しかしながら商材が『人の人生』であることを考えると、良心とは言い難いです。
何だか物騒な話ばかりしてしまいましたが、エンジニアバブルの反動が出てきた一年を振り返ったところで、いよいよ2025年に起きる変化をお話していきましょう。
【2025年予測1】自社貢献意識の強い、プロダクトエンジニア求人が増加
ここ1年で「プロダクトエンジニア」の求人を出す企業が出始めていますが、2025年はこの動きが加速するでしょう。
プロダクトエンジニアとは、言われたものをただ実装するだけではなく、事業貢献に対する意識が高く、事業のためなら自分のジョブディスクリプション(職務内容)を飛び越えて主体的に事業に向き合える人材です。
そう聞くと「スタッフエンジニアなど、従来からいた人材と同じでは?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、企業の着目ポイントが変化してきていることに留意する必要があります。
例えば、これまでの採用シーンでは「〇〇の開発言語に精通した人」や「〇〇の開発経験がある人」みたいな着目のされ方で主でしたが、現在は「事業に共感し、広く事業貢献できる人」か否かがメンバー層に至るまでシビアに問われる潮流がきています。
特に自社サービスを持つ成長企業はその傾向が強いです。ただ現状、プロダクトエンジニア求人は非常に要件が高いので(スキルよりマインドが問われるため)、おそらく2025年をかけてもう少し現実的な着地になりそうです。
【2025年予測2】再び強まる「外注」への流れ
上記の話と絡みますが、これまで内製化を進めていた企業も「この部分はAI活用や自動化で対応できそう」「自社社員にはもっと本質的な業務に注力させたい」といった声が聞かれ始めています。
企業によっては下記のようなエンジニアバブル由来の悩みがあります。
●他社との中途採用合戦で給与を上げすぎた
●フルリモート、フルフレックス、残業ゼロなど、
エンジニアを優遇し過ぎたため、マネージメントコストが高い
●新規事業をするために正社員採用したが、既存事業に集中することにした
●正社員採用し過ぎた(ので余っている)
2024年の話題としてあるのが「リモートワークから出社への回帰」です。時折見られる手法ですが、出社強制を従業員に伝えることで、リモートワークありきの人材が一定、自己都合退職します。レイオフと違って退職パッケージが不要であるため、経営上のインパクトが少ない状態でプロダクト志向の弱い人材を整理することができます。私はこれを『緩やかなレイアウト』と呼んでいます。えげつない手法ですが、よく見掛けます。
噂によると、あるメガベンチャーではフロントエンジニア20人を自社正社員採用ではなく、SESに発注するという話が聞こえてきています。コアコンピタンスに関わる新規開発ではなく、運用保守が中心となってきたプロダクトのため、SESでいいという事業判断をした可能性が高いと思われます。
台頭している高還元SESに発注できれば技術力には問題ありませんし、自社の社員ではないのでマネジメントする必要もありません。予算に応じて人員の増減も容易です。2025年は、再び外注への流れが来るでしょう。時代は繰り返すんですね。
フルリモート勤務者はお先真っ暗? 突きつけられた「出社要請」への向き合い方https://type.jp/et/feature/25960/
【2025年予測3】DevRel領域のバブル、2025年に崩壊?
近年目に付くのは、DevRel(デブレル)と呼ばれる動きです。元々はAPI提供事業者による開発者向け広報の意味合いでした。
ここ数年で拡大解釈され、彼らは自社の技術的な情報を発信する「技術広報」と、自社の認知を広げて採用を促進する「採用広報」が含まれるようになりました。技術ブログの作成やイベントへの登壇、スポンサー出展などを積極的に手掛けています。
更に2024年末には、DevRelを元の意味に戻すためにDevRec(デブレク)やDeveloper Enablementと呼ぶ向きも出てきました。
しかし、最近はとにかくDevRel関係のイベントが多すぎるように感じます。今年の秋に行われたWebサービス関連のテックカンファレンスをリストアップすると、3カ月の間に10ヵ所以上ありました。バブル期と言っていいでしょう。
イベントを打てば当然お金がかかります。しかし、デブレルイベントをやったからといって、翌月入社に繋がるわけではない。お金の流れに透明性が求められる上場企業の中にはデブレルイベントの意義に疑問を抱き、スポンサーを降りるところも出てきています。採用が難しいからこそデブレルの存在は重要な一方、その効果を丁寧に経営陣に説明していない企業が少なくないのです。
面接後のアンケートを実施して認知チャネルを回収するとか、イベントでXアカウントを回収するとか、効果を見える化する努力をセットでやっていかないと、経営層にその意義を問われた時に防衛できなくなります。経営陣を説得できずにデブレルイベントが消えていく、みたいな話が、おそらく来年にかけて増えていくように感じています。
2025年に転職を考えるエンジニアが抑えておきたいこと
2025年以降、先述したように自社に対する貢献度が高いエンジニアをプロダクトエンジニアとして正社員とし、それ以外の部分はSESへ外注する。企業はそんな事業判断をしていくでしょう。
業界という切り取り方をすれば、製造業のように販路が確保され、企業体力のある業種が伸びると思います。そういった企業の社内DXや、商品に結びついたサービスのSaaSによる外販には将来性があります。例えば自動車業界などが挙げられます。
彼らは資金力もありますし、既に販路も開拓されている。大きな会社になれば、海外にも工場があるので、海外展開もできます。スタートアップが欲しかったものが全て揃っているわけです。
これまではエンジニアバブルの余韻で、企業からスカウトがくることもありました。しかし2025年からは自主的にお金のある企業に首を突っ込んでいかなければ、キャリアの生存戦略で優位には立てません。業界地図を見ながら、知らない業界でも積極的に興味を向けて、自ら求人を探していくべきでしょう。
これからのエンジニアに必要なのは「利他性」です。事業に貢献する「利他性」があってこそ、その先に事業強化と顧客への貢献が見えてくる。それを忘れると、いい転職は難しいでしょう。これまではマネージャークラスに求められていた事業共感や自社貢献が、今後は全てのエンジニアに求められるのです。自社サービスだけてなく、コンサルやSIer、SESでも良い条件の企業では求められています。
リファラルで声がかかるのを待っていても、永遠にチャンスはやって来ません。エンジニアバブルでは珍しくなかったフルリモート、フルフレックス、相場以上の給料を求め続けることには、転職を選んでも社内にとどまってもリスクが伴います。
事業に興味を持ち、自分の職務範囲を飛び越えてコミットする正社員のプロダクトエンジニアになる。事業貢献に興味を持てない人は、高還元のSESをはじめとするクライアントワークを視野に入れる。2025年は、自分自身がどちらの立場をとるかを迫られる年になると考えています。
2024年の振り返り、そして2025年以降のITエンジニア転職/採用に関する見立ては、いかがだったでしょうか。向こう1年の予測もなかなか難しい時代ですが、私が日頃見聞きしている多くの企業や転職者の声からお届けしました。
2025年に転職を考えられているエンジニアの方は、本記事の内容も参考にしながら戦略を練ってみるのも手です。エンジニアとその採用に関わるみなさんが、2025年も活躍できることを願っています。
文/宮﨑まきこ 編集/玉城智子(編集部)