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【男を破滅させる美しき夢魔】世界各地に伝わる「サキュバス」の伝承

草の実堂

画像 一般的なサキュバスのイメージ illstAC cc0
画像 一般的なサキュバスのイメージ illstAC cc0

サキュバスといえば、創作の世界で大人気の、いわゆるモンスター娘の一つだ。

その多くは魅力的な容姿と肉体を持ち、男性にとって都合の良い存在として描かれることが多い。

しかし、神話や伝承におけるサキュバスは、男を破滅へと導き、地獄へ引きずり込む恐ろしい怪物として語られてきた。

本稿では、そんなサキュバスと、世界各国に伝わるサキュバス的な特徴を持つ魔物の伝承について解説する。

サキュバスについて

画像 : サキュバス 草の実堂作成

そもそもサキュバス(Succubus)とは、キリスト教に伝わる悪魔であり、日本語では「夢魔」などと訳される。

夢の中でいかがわしい行為を行い、生命エネルギーを吸い取り衰弱死させる、恐るべき魔物だと考えられていた。
男の理想とする女性の姿で現れるとも伝えられるが、本来は醜悪な姿の怪物だとする説もある。

しかしサキュバスは、キリスト教の神父や牧師たちが、不貞行為や自慰行為を正当化するための、体の良い言い訳として使われていた側面も存在する。

聖職者は禁欲が定められているが、所詮は人間であるため完全なコントロールなど不可能だ。
そこで「サキュバスに襲われた」などと誤魔化すことで、罰則を回避していたのである。

実は世界各国に、類似する伝承が残っている。

1. リャナンシー

画像 : リャナンシー 草の実堂作成

リャナンシー(Leanan sídhe)は、アイルランドに伝わる妖精である。

美しい女性の姿をしており、気に入った男を誘惑し、その血を吸うという。

男は芸術的才能を開花させるが、夜ごと血を求められるため、最後は貧血になって死んでしまうそうだ。

2. アルプ

画像 : アルプ 草の実堂作成

アルプ(Alp)とは、ドイツに伝わる妖怪である。

猫や犬、ヘビや蝶など、様々な動物の姿に変身できるとされ、ちょっとした隙間からでも人間の家屋に浸入できる。
また、自身を透明にできる魔法の帽子を常に被っているため、アルプを見つけることは困難極まるという。

アルプはターゲットの寝室に侵入すると、霧の姿になって体内に入り込む、または物理的に伸し掛かるなどして、悪夢を見せる。
また、血や母乳を吸い取ることを好むともいわれる。
被害に遭うのは圧倒的に女性が多く、このためアルプの性別は男ではないかと、まことしやかに囁かれている。

その起源は、北欧神話に登場する「アールヴ」という妖精族だと考えられている。

ちなみにアールヴは、妖精の代名詞である「エルフ」の語源でもあるという。

3. 飛縁魔

画像 : 竹原春泉画『絵本百物語』より「飛縁魔」 public domain

飛縁魔(ひのえんま)または縁障女(えんしょうじょ)は、江戸の日本に伝わる妖怪である。

作家・桃山人の『絵本百物語』にて、その存在は言及されている。

飛縁魔は美しい女性の姿をしているが、その本性は邪悪極まりないとされ、男を誘惑しては夜な夜な生き血を啜り、最後には破滅へと導く恐るべき妖怪だと伝えられている。

その名の由来については諸説あり、仏教由来の「魔縁」という人間の心を惑わす悪魔から名付けられたという説や、※丙午(ひのえうま)生まれの女性は男の寿命を縮めるという迷信が転じた説など、様々である。

※丙午…60の倍数+46の年。近年だと1966年。

4. ドローネ

画像 : ドローネ 草の実堂作成

死美人ドローネは、怪奇作家・佐藤有文の著作『いちばんくわしい世界妖怪図鑑』に記載されている妖怪である。

深夜0時ピッタリに、鏡の中から現れるという。

一目でもドローネの姿を見た人間は、その美貌の虜になり、食事すら手につかず次第にやせ細っていく。
そしてあわや餓死寸前という時に、ドローネは再びその人の前に姿を現し、「私を愛しているのなら、鏡の中へ入ってくるのです」と囁く。

空腹と性欲でまともな判断ができなくなっている被害者は、喜んでその提案を受け入れてしまう。
だが、鏡の中へ足を踏み入れた瞬間、被害者は「死の世界」へと放り込まれ、命を落とす。
死者となり正気に戻った被害者は、そこで初めて、自分が姦計に嵌ったことを悟るのだ。

一説によるとドローネは、悪魔たちに操られる「死美人」という、いわば人間をあの世に引き込む疑似餌のような存在だとされる。

5. パウチカムイ

画像 : パウチカムイ 草の実堂作成

パウチカムイ(Pawci-Kamuy)は、北海道のアイヌ民族に伝わる性欲を司る魔神である。

普段は神々の世界を流れる「ススランペッ」という川のほとりで、全裸で踊りながら過ごしているという。
パウチカムイが踊りながら柳の葉を川へと投げ込むと、なんとその葉はシシャモに変わり、人間の世界まで泳いでいくそうだ。

パウチカムイは時折、地上に姿を現し、人々を惑わせたとされる。
人間が浮気をしたり、突然全裸になり踊り狂うのは、全てこの魔神の仕業だと考えられていた。

とあるユーカラ(アイヌの昔話)には、次のような話が伝わる。

(意訳・要約)

ある小さなコタン(村)で、一人の男がパウチカムイの集団に遭遇した。
このままでは色狂いにされてしまうと恐れた男は、

「東の十勝には大きなコタンがあるので、そっちに行ってくれ」

と思わず口走ってしまった。

その言葉どおりに、魔神の群れは十勝のコタンを襲撃した。

村人全員が欲望の虜となり、寝食も忘れ、狂ったようにいかがわしい行為と裸踊りに耽るようになった。
やがてコタンは全滅し、その事実を知った男は、大いに後悔した。

このように、パウチカムイは人間の理性を崩壊させる邪神として、非常に恐れられていた。

参考 : 『絵本百物語』『いちばんくわしい世界妖怪図鑑』他
文 / 草の実堂編集部

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