『六文そば中延店』のげそ天は都内最強!名店の味と看板を引き継ぎレベルアップした懐かしくて新しい味わい
濃いめのツユにゆで麺を使うと、古典的なスタイルの立ち食いそばで知られている『六文そば』。 現在は都内に5店舗あり、その中でも中延店は六文そばファンから評価が高い。
都内最強のげそ天!
『六文そば』の名を冠した立ち食いそば店は現在、都内に中延店・須田町店・人形町店・日暮里店・金杉橋店の5店がある。 チェーンではなく、同じルーツを持つ独立した店舗で、げそ天が看板メニュー、昔ながらの味わいのそばを提供している(日暮里店は少し趣が違う)。それぞれ40年以上の歴史がある古い店だが、中延店は最近、げそ天そばが進化を遂げ、ファンから注目されているのだ。
どんなげそ天か? まずでかいのだ。天ぷら自体も大きいが、中に入っているゲソも大粒。プリッとしたゲソは塩梅よく揚げられていて柔らか。ツユをじっくりしみこませてかぶりつけば、ダシかえしの風味とゲソの旨味があいまって、奥深いうまさが口中に広がっていく。こんなげそ天は、ちょっとほかでは食べたことがない。
ツユもいい。最近多いダシが前に出たタイプではなく、かえしの強さで勝負するストロングスタイル。 キンとしたかえしの奥にはかつおだしの旨味がどんと控えていて、壮大なうまさだ。 いかにも『六文そば』らしいツユなのだが、さらにその良さを突き詰めた感がある。懐かしさもあり、新しさもあるのだ。
実はこの一杯は、最近になって進化したもの。『六文そば中延店』は2022年11月に再オープンしていて、それをきっかけに変わったのだ。
一度閉店した『六文そば中延店』
もともと『六文そば中延店』は『六文そば須田町店』と同じオーナーが経営していたのだが、そのオーナーが2021年に急逝してしまう。『須田町店』は家族が後を継ぐことになったのだが、『中延店』はしばらく営業こそしたものの、結果的に手放すことに。その際に『中延店』の2階で居酒屋を経営していた現オーナーの中野英治さんが、『六文そば中延店』を引き継いだのだ。
店内の造作はそのまま。店名も『六文そば』の名前を残してほしいと、前オーナー親族の意向もあってそのまま続けることになった。味も、ツユや天ぷらの作り方を前店の従業員に教わり、『六文そば』の味を守った。こうして『六文そば中延店』は、それまでと変わらない姿と味で再スタートを切ったのだ。
生まれ変わったげそ天
とはいえ、つくる人が変われば、味も変わる。ツユはより濃く、いい方向に変化した。そして、大きく変わったのがげそ天だ。中野さんの本業は、豊洲などの市場内でものを運ぶ荷役の会社経営。当然、卸業者との関係も深く、そのつてで業界最大級サイズのゲソを仕入れ、げそ天に使うようになった。従業員もベテラン揚げ物師の武山きくみさんが加わり、天ぷらの質も向上。こうして見た目と味の方向性は同じながら、新しい『六文そば中延店』が生まれたのだ。
近年、古い立ち食いそば店が高齢化などで継続が難しくなる中、新しいオーナーに事業を継承することが多くなっている。うまくいった店、いかなかった店、いろいろあるが、失敗例で多いのが、味を変えて常連客が離れてしまうパターンだ。『六文そば中延店』は、基本の味をそのままにさらなるブラッシュアップをして成功するという、理想的な例だろう。
最近は嗜好の多様化や健康志向もあって、昔ながらの濃い立ち食いそばのツユは少数派になってきている。昆布やしいたけを使って旨味をふくらませ、かえしを控えた当たりの優しいツユを出す店が増えているのだ。時代の流れといえばそれまでだが、食文化の継承という点でも「濃いつゆ」は残っていってほしいし、立ち食いそばファンとしてはいつまでも食べ続けたい。『六文そば中延店』は貴重な立ち食いそば店でもあり、ファンにとっては希望でもあるのだ。
六文そば中延店(ロクモンソバナカノブテン)
住所:東京都品川区中延4-6-18/営業時間:6:00~20:00/定休日:なし/アクセス:東急電鉄大井町線・地下鉄浅草線中延駅から徒歩1分
取材・撮影・文=本橋隆司
本橋隆司
大衆食ライター
1971年東京生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て2008年にフリーへ。ニュースサイトの編集をしながら、主に立ち食いそば、町パンなど、戦後大衆食の研究、執筆を続けている。