“好き”だけじゃうまくいかない? 話題のドラマ「かのそれ」原作者が語る、愛のリアル。
修羅場漫画『油谷ゆり子の恋』や『女の共感4コマ』が話題の「漫画のシュララ」が、リアルな人間関係の“こじれ”や“ざわめき”に迫る本連載。漫画だけじゃない、世の中はシュララ的修羅場であふれてる!? 今回も、話題のドラマをきっかけに、恋と愛の境界線をのぞいてみます。
ドラマ『彼女がそれも愛と呼ぶなら』(読売テレビ・日本テレビ系)。「ポリアモリー(複数恋愛)」をテーマにした異色のラブストーリーで、シュララもお気に入りの作品です。
劇中には、原作者の一木けいさんが実体験で言われた言葉もセリフとして登場したのだとか! 前回に続き、原作者・一木けいさんと、ドラマを手がけた伊藤愛プロデューサーに、作品の裏側や“恋愛観の揺れ”についてお話を伺いました。
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10代の頃、「浮気したら殺す」と言われ……日本では「ポリアモリー」だと言いづらい!?
一木けいさん
1979年、福岡県生れ。2016年、「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。『1ミリの後悔もない、はずがない』でデビュー。他の著書に『愛を知らない』『結論それなの、愛』などがある。
(写真/ⓒ新潮社)
伊藤愛プロデューサー
2018年読売テレビ入社。バラエティ制作を経てドラマ制作へ。「好きやねんけどどうやろか」「シークレット同盟」などを担当。全国ネットのドラマでの企画プロデュースは今作が初。
10代の頃、「浮気したら殺す」と言われ……
いよいよ最終回を迎えますが、ドラマの中で印象的なシーンはありましたか?
一木さん:
太呂役の竹野世梛さんと、千夏役の小宮山莉渚さんのシーンです。実は、ドラマでも使われた太呂さんのセリフに、自分が言われたことのある言葉を使っていて。
そうだったのですね!どんなセリフでしょうか?
一木さん:
「浮気したら殺す」「半分は俺の身体」です。
太呂が、恋人の千夏に言った言葉ですね。恋人である千夏の身体の半分は、俺の身体でもあると。それは、先生が実際に言われたことのある言葉なのでしょうか……?
一木さん:
はい。「浮気したら殺す」と言われたのは10代の頃、「半分は俺の身体」と言われたのは大人になってからです。脅す意図はなく、ロマンスのニュアンスだったのだと思います。「あれは変」とわかったのはだいぶ経ってからで、この作品に書いて、そのシーンに対する怒りや恐怖のご感想を拝読して、「やっぱり変だった」としみじみ思いました。
第8話では、千夏が太呂からのエスカレートする性的な要求や束縛に追い詰められながらも、「嫌」とは言えずに悩んでいる姿が描かれました。
一木さん:
今回ドラマとなって、そのセリフを言われている千夏を見て、特に若い世代は渦中にいるとき「これは愛じゃないのかも」とすぐ結論を出すのは難しいよねと思いました。「ちょっとおかしいな?」と感じるようになるのは、時間が経過してからで。愛情の表れだと思ったり、嫌悪と混乱でぐちゃぐちゃになることも多いのではないでしょうか。
伊藤P:
恋人からの要求で、「あれ?」と疑問に思うことがあったら、ちゃんと「嫌」と言っていいんだよ、と若い世代に伝わってくれたらうれしいです。
日本では「ポリアモリー」だと言いづらい!?
今回、ドラマを通して初めて「ポリアモリー」という言葉を知った人も多いのではと思います。日本で「ポリアモリー」の方は多いのでしょうか?
一木さん:
2013年から9年ほどタイに住んでいたのですが、タイには「お互いさま、人それぞれ」みたいな文化があって。「自分も間違えるけれど君も間違えていい」というゆるしをいろんな場面で感じました。一方、日本では人目を気にする雰囲気がありますし、「ゆるしゆるされ」というのがそんなに強くない。「ポリアモリー」だとしても、言いづらいところがあると思います。
そうですね。
一木さん:
とくに倫理面での失敗に厳しいですよね。色々な価値観の人がいるから目盛りを尊重し合おう、となっていくといいのですが……。
伊藤P:
ゴシップを叩く風潮は昔からあったと思いますが、最近は“一時の叩けるコンテンツ”としてストレス発散の的になっているような気がします。
一木さん:
あるトピックに対してどうして腹が立つのか?(当事者に)ひどいコメントをしてもいいと思うのか?と考えるきっかけにこの作品がなったらいいなと思います。
「かのそれ」がきっかけになるといいですよね。最後に、最終回の見どころを教えてください!
伊藤P:
最終回では、ひとつの場所で長いお芝居をするシーンがあるのですが、キャストのみなさんの表情だけで見られるシーンとなっています。本当に見ごたえのあるお芝居になっているので、ぜひ注目していただけたら。
一木さん:
最終回の台本を読ませていただきましたが、それぞれが、それぞれらしい決着をつけています。みなさんの最終回の感想が楽しみです。ぜひ「#かのそれ」をつけて、どんどんお願いします!
伊藤P:
そうですね! みなさんからいただいたコメントは全部見ています! 最終回もよろしくお願いします!
“愛”という言葉で包み込まれた違和感を見逃していませんか? 誰かの言葉に心がざわついたら、それはあなた自身の「境界線」に触れているのかもしれませんね。
人の数だけある「正解じゃないかもしれない愛」を、これからも一緒にのぞいていきましょう♡
写真/ⓒytv、しばたみのり 文/anna