「地域」のため「できること」 地震の被災地高校生・能登×釜石 つながる、共に考える
東日本大震災と能登半島地震―。その被災地、岩手県釜石市と石川県能登町の高校生が災害復興や防災をテーマにした学びを通じ、それぞれの地域への思いを深めている。釜石高の生徒有志グループ「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」は20日、復興のプロセスを学ぶ東北研修で来釜した能登高の生徒らと交流。震災の教訓を伝える活動を紹介しながら、「地域のためにできること」を共に考えた。
「これ以上、大切な人を失いたくない。だから今のうちから備えて、災害が来たらどうしたらいいか、家族と話してください。…『津波てんでんこ』、自分、そして大切な人を信じてください」。夢団代表の加藤祢音さん(3年)の語りに能登高の生徒らはじっと耳を傾けた。
釜石情報交流センター(大町)であった交流会の一場面。加藤さんは、地元のラグビーチーム日本製鉄釜石シーウェイブスのホーム戦に合わせて行っている語り部活動を見せた。震災の津波で祖母ら親族3人を亡くしたが、当時3歳で記憶はほとんどなく、両親から聞いたことを語っている。「顔も名前も、存在すら知らなかった。それがつらい」。そんな思いを込め、備えの大切さを訴える。「自分と大切な人を信じ、それぞれが自分の身を守る行動をとることが多くの命を救う一つの道」と。
能登高生は、語り部の練習などを質問。「もとから災害や防災に興味を持っていたのか」と聞かれると、加藤さんは「中学で勉強し、興味はあった。夢団に入ったのは友達がいたからだったけど、活動を通して防災に関心が深まった。どう行動するかは自分」と答えた。
カードゲーム形式で防災意識の向上を図る「釜石版クロスロード」や、防災すごろくなど夢団オリジナルのゲームも紹介。「高校生ができること」について意見を交わす時間も設け、能登高の生徒たちは「能登版」の取り組みへ生かすヒントを探っていた。
能登高の東北研修は18~21日に実施。生徒ら8人、教員ら3人は宮城県の石巻市や女川町の復興の様子を視察し、官民連携のまちづくりについて話を聞いた後、19日に釜石入りした。20日には夢団の8人との交流のほか、うのすまい・トモス(鵜住居町)で、釜石東中2年生の時に震災を経験した川崎杏樹さん(いのちをつなぐ未来館スタッフ)や、夢団の活動を支える伊藤聡さん(「さんつな」代表)から復興まちづくりの過程について説明を受けた。能登町小木地区と復興姉妹都市として交流する大槌町安渡地区も見学した。
東北研修のきっかけは、今年3月に夢団の生徒有志が能登地域を訪れたこと。被災地域の現状視察やボランティア活動、小木地区の中学校で進められていた防災教育について学んだりした。能登高の生徒との同世代交流の機会も。今回、夢団の活動に刺激を受けた能登高の生徒が自主的に企画し、学校や町が後押しして実現した。
能登高の三田晴也さん(3年)は、仲良くなった釜石高の三浦大和さん(同)ら夢団メンバーに会うのを楽しみにやってきた。高校生ができる活動のアドバイスをもらい、ノートにメモ書き。今なお崩れたままの建物が残る古里を思い浮かべ、「まちづくりに役立てるようになりたい」と思いを強めた。
三田さんは地震で自宅が半壊した。岩手、宮城の震災被災地を訪ね、急激な人口減や未利用の土地が目立っている現状は「今の能登に当てはまる」と認識。安渡地区の漁師が「仕事がしづらい」と漏らした巨大な防潮堤について、「めっちゃ高い。あれを能登につくられたら能登じゃなくなる」とつぶやいた。
人が優しく、食べ物がおいしい。静かで落ち着く。そして、能登は楽しい―。古里に愛着を持つ女子生徒(同)は、地元で保育士として働き、子どもたちに災害の記憶や教訓、防災を伝えたいと将来を思い描く。東北の被災地をめぐり、「復興していてもいろいろな課題が見えてくる。どう解決していけばいいのか探ることができれば、能登で生かせるかもしれない」と、地元住民の声を熱心に聞いた。
夢団メンバーにとっても実りある交流になった。三浦さんは「能登で暮らす人たちの強さ」を改めて実感し、自分が育った地域のことを見つめ直す機会にした。加藤さんも「物心がついた時には復興した風景だったから、釜石の復興の足跡を改めて教えてもらえてよかった。次代を担う世代が地域を結びつけることでまちの形が見えてくると思うから、他地域の人たちと学び合う時間を刺激に、できる活動を続けたい」と見据えた。
今回の東北研修をコーディネートした伊藤さんは、近い将来、まちづくりの担い手として期待される若者たちの交流をうれしそうに見つめる。昨年2月から能登と釜石を行き来しながら応援を続ける中で、小木地区の防災教育に岩手、釜石の復興教育が生かされていると知った。さらに独自に発展させていたことから、「夢団メンバーの学びの深化に」と能登訪問を企画。それから、つながった相互訪問に、「災害からの復興はひとくくりにはできず、長くかかる。是が非でも若者たちが関わっていくことであって、受け継がれていくべき。一過性で終わるのではなく、続けて交流することで切磋琢磨(せっさたくま)しながら、それぞれの地域を盛り上げてほしい」と期待した。