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「反日武装戦線に参加」「ビル爆破で8人死亡」49年逃亡し死の間際に本名を明かした男の素顔を追う『桐島です』

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「反日武装戦線に参加」「ビル爆破で8人死亡」49年逃亡し死の間際に本名を明かした男の素顔を追う『桐島です』

「“最期”は本名で迎えたい」

2024年1月、1970年代の連続企業爆破事件に関与したとされ、約半世紀にわたり逃亡を続けていた桐島聡氏とみられる人物が、神奈川県内の病院で末期がんの治療中に自らの素性を明かし、その数日後に死亡したという衝撃的な報道が日本中を駆け巡った。

1975年に爆発物取締罰則違反などの容疑で全国指名手配された桐島氏は身分証を持たず、偽名を使って藤沢市内の工務店で住み込み勤務を続けており、「最期は本名で迎えたい」と語っていたという。警視庁はDNA鑑定などを経て本人と特定し、2024年2月に指名手配を解除、最終的には被疑者死亡により不起訴処分となった。

この実在の人物を題材にした映画『桐島です』が現在、新宿武蔵野館ほかにて全国公開中。本作は桐島の半生を、実名を用いてフィクションとドキュメンタリーの境界を揺さぶる形で描いている。監督は『夜明けまでバス停で』(2022年)で高い評価を得た高橋伴明、脚本は同作でもタッグを組んだ梶原阿貴が担当。主演の毎熊克哉は、20代から70歳に至るまでの桐島を一人で演じ切った。

『桐島です』©北の丸プロダクション

東アジア反日武装戦線は、桐島聡は何をしたのか?

物語は1970年代、高度経済成長の影で社会不安が渦巻く日本を背景に、大学生だった桐島が東アジア反日武装戦線の活動に共鳴し、組織と行動を共にするところから始まる。

『桐島です』©北の丸プロダクション

やがて連続企業爆破事件が発生し、桐島は多くの犠牲者が出たことで深い葛藤に苛まれる。組織は警察の捜査により事実上壊滅するが、桐島は偽名を使って逃亡。とある工務店で静かな生活を送る中、ライブハウスで出会った歌手キーナの歌に心を動かされ、ささやかな愛を育むが……。

『桐島です』©北の丸プロダクション

東アジア反日武装戦線は1970年代に実在した極左武装組織。1974年から1975年にかけて三菱重工爆破事件を含む12件の企業爆破事件を起こしたとされる。思想的には反帝国主義・反資本主義を掲げ、アイヌ革命論やアジアへの連帯を標榜していたが、一般市民を巻き込む爆弾テロという手段は大きな社会的衝撃を与えた。

『桐島です』©北の丸プロダクション

1975年5月の一斉逮捕により主要メンバーの多くが拘束されたが、桐島はその後も唯一逮捕されないまま、2024年に死亡が確認されるまで49年にわたり行方不明とされていた。

『桐島です』©北の丸プロダクション

観客に突きつけられる桐島の半生と変わらぬ世界の歪み

奇しくも今年3月には、足立正生監督が桐島を題材に描いた映画『逃走』が公開された。しかし『桐島です』は歴史的背景を踏まえつつ、あくまで桐島という一人の(ごく普通に見える)男性の内面に迫ることを主眼としている。

『桐島です』©北の丸プロダクション

政治的主張や事件の是非を断定するのではなく、逃亡者としての孤独、罪の意識、そして人とのつながりへの希求を、静かに、しかし鋭く描き出す。劇中では、河島英五の「時代おくれ」が象徴的に用いられ、時代に取り残された男の心情を浮かび上がらせる。

『桐島です』©北の丸プロダクション

桐島はビル爆破事件には直接関与していなかったと言われているものの、実在の事件を扱う以上、それは観客にも重い問いとして突きつけられる。なぜ彼は逃げ続けたのか、なぜ最期を迎える前に名乗り出たのか、そして私たちは彼の存在をどう受け止めるべきなのか。

『桐島です』©北の丸プロダクション

国際秩序を踏みにじる侵略行為がまかり通り、国内でも不穏な排斥ムードがじわじわと浸透しつつある今、本作が何か大切な気づきを与えてくれるかもしれない。

『桐島です』は新宿武蔵野館ほかにて全国公開中

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