This is LAST、Billyrrom、紫 今ら新進気鋭のアーティストが集結ーー『THE BONDS 2024 GIGANTIC TOWN MEETING』をピックアップレポ
4月13日(土)、大阪・梅田のライブハウス4会場でサーキットイベント『THE BONDS 2024 GIGANTIC TOWN MEETING(以下、『GTM』)』が行われた。本イベントは毎年夏に行われる『OSAKA GIGANTIC MUSIC FESTIVAL(通称『ジャイガ』)』のスピンオフイベントで、2021年にスタートした。「絶対に今観てほしい新しいアーティストたち」が出演し、この中から夏のジャイガに出演を果たしたアーティストも多数いる。今回は全24組の出演者の中から、今SPICEが見逃せないアーティスト6組を厳選したライブレポートをお届けする。
『THE BONDS 2024 GIGANTIC TOWN MEETING』2024.4.13(SAT)UMEDA CLUB QUATTRO/umeda TRAD/Banana Hall/Umeda Zeela
この日の大阪の最高気温は25℃。見事な晴天で、春の陽気どころか夏の気配すら感じるほどだったが、サーキットイベントにはうってつけの天気に恵まれた。会場のUMEDA CLUB QUATTRO、umeda TRAD、Banana Hall、Umeda Zeelaはそれぞれ約5~10分弱で移動できる距離にある。Banana Hallの2階に設置されたリストバンド交換所には、朝から人々が行列をなし、それぞれお目当てのライブへと向かっていた。
Bye-Bye-Handの方程式
時刻はお昼12時。トッパーを飾ったのは、umeda TRADに登場したBye-Bye-Handの方程式(以下、バイハン)。松本孝弘の「#1090 -Million Dreams」をSEにメンバーが1人ずつ現れる。清弘陽哉(Dr)の前に集まって気合を入れ、ジャーン! と轟音を響かせ、汐田泰輝(Vo.Gt)が「ジャイガー! おはようございます! 起きてるかー! 好きにやってくれ!」と大声で叫ぶと、中村龍人(Ba)と岩橋茅津(Gt)も前に出て煽る。朝イチのフロアを叩き起こすように、のっけから「風街突風倶楽部」で爆音を投下! フロアはしっかり拳を上げて食らいつく。間髪入れず「daring rolling」で熱を引き上げ、「ソフビ人間」「romance tower」を連投した。
MCでは続々と会場に入ってくるオーディエンスを歓迎し、「今日は日頃からすげえお世話になってる人たちに呼ばれてます」とキョードー大阪に感謝を述べる。2月にバイハンが主催した『秘密蜂蜜フェス』も共に作り上げたことから「密接になってその人を知った上でイベントに出るのと知らない上でイベントに出るのは、気持ちの乗り方が全然違う」と、この日の特別さを口にする。トッパーを任された責任感もあるのだろう。1音目からはちきれんばかりのパフォーマンスの熱さも頷けた。
後半は5月リリースの1stフルアルバム『ソフビ』のリード曲「閃光配信」をパンチ力たっぷりに披露。その後も息つく間もなく楽曲をつなぎ、「一緒にライブ作っていこう!」と汗だくでフロアをひとつにする。届けようとするまっすぐなサウンドで、体内の衝動が突き動かされる。ラストパートはさらに勢いを増し、4人全員での歌唱がエモーショナルな「あの子と宇宙に夢中な僕ら」、一番激しく短い楽曲「風鈴」を爆発させた。最初から最後まですさまじい勢いで、現場への愛と信頼をぶつけたBye-Bye-Handの方程式だった。
LET ME KNOW
Umeda Zeelaには、2024年1月に活動を開始したばかりのMatty(Vo)、双子のKen_M(Gt)とLyo(Dr) によるノスタルジックモダンロックバンド・LET ME KNOWが、サポートベースに太田あさひを迎えた4人編成で登場。パンパンになったフロアからは、彼らの注目度の高さがうかがえる。SEが流れ、静かにステージの幕が開く。メンバーはグラサンに革ジャンというロックな出で立ちだが、1曲目の「1800」で聴こえてきたギターリフはあまりにキャッチーで、Mattyの歌声は中性的なハスキーボイス。どこか湿度のある日本語ロックは聴けば聴くほど肌馴染みが良く、懐かしさと新しさが同時にやってくる不思議な感覚に陥った。続く「Goodbye Daily」でも、グッドメロディーとジュブナイル感を孕んだ歌詞が、爽やかに駆け抜ける。「バンドマンの元カレ」や「好きなんです」は等身大の若者の恋愛の心情を歌ったJ-POP。Mattyの歌声とそれを支えるバンドサウンドのバランスが絶妙でクセになる。
Mattyが「LET ME KNOWです! 一生懸命歌います!」と初々しい挨拶をした後に披露された「偽愛とハイボール」は、アーバンなシティポップで80’sの空気感を醸し出す。一度聴くと覚えてしまう「LAD浪漫's」の<恋ってすげえよな>という歌詞と王道ポップスのメロディーも、彼らが鳴らすとなぜか新鮮に映る。ラストは英語詞の「LOVE SONG」。緊張感も解けたのか、マイクをくるくると回しながら情熱的に叫ぶように歌うMattyの佇まいは、さながらロックスターのようだった。ルックス、楽曲の幅広さ、アレンジ、演奏力、どこをとっても良い意味でのインパクトがあり、ライブが終わるとしばし呆然としてしまった。これからの飛躍が楽しみで仕方ないし、その魅力の理由をもっと知りたいと思えるバンドだった。
リアクション ザ ブッタ
umeda TRADの3番手に登場したのは、佐々木直人(Vo.Ba)、木田健太郎(Gt)、大野宏二朗(Dr)からなるリアクション ザ ブッタ。SEに乗せて1人ずつステージに現れ、勢いよく3人で音を放つと、待ってましたとばかりにクラップが発生。佐々木が「大阪元気ですかー! 楽しんでいこう」と叫び、見事なスラップをはじきながら「Loopy」を歌う。3ピースとは思えない音圧、前に飛ばすボーカルと絡み合うサウンドが実に気持ち良い。続けざまに木田のギターリフが唸りを上げて、疾走感たっぷりの「Voyager」へ。さらに大野が爆裂ビートを叩き込み、「リード」で会場を掌握する。フロアの反応の良さを見て、メンバーは笑顔で充実感を滲ませた。
MCでは佐々木が、『GTM』の初出演は2021年で、今回で3度目だと振り返る。さらに『THE BONDS』自体が始まった2020年からの歴史を改めて見返したと言い、「2020年は自粛自粛でライブすることが難しい時期でした。その中でも音楽を止めないという気持ちで『THE BONDS』が立ち上がって。僕らも2021年はやっと有観客でやれた時。4年とはいえ歴史と気持ちがあるイベントの一角を担えることを本当に嬉しく思います」と、熱い想いを口にした。
後半は同期も使いながら、TikTokで話題沸騰中の「ドラマのあとで- retake」をまっすぐに響かせる。切なさも立ちのぼる少しダークなナンバー「一目惚れかき消して」を経て、一気に明るくなった「オンステージ」ではクラップが咲き誇る。佐々木は「『THE BONDS』は、俺たちにとっても皆にとっても居場所をくれるイベント。だからこそ、この居場所になれるような歌を歌って終わりにしたいと思います」と「彗星」を披露。爽やかなメロディーと伸びやかな歌声、それを後押しするビートと星のようにきらめくギターフレーズ。佐々木が高く拳を突き上げると、続々とフロアの拳も上がる。確かな絆を結んでエモーショナルなライブを終えたリアクション ザ ブッタだった。
紫 今
Banana Hallに現れたのはシンガーソングライターの紫 今。すっぽりとフードを被り、SEなしで静かに薄暗いステージに現れると、アカペラで軽くフェイクを響かせる。すーっと息を吸うとベースの低音ラインが鳴り響き、すぐさまフロアからクラップが発生。まずはFM802 2023年12月度邦楽ヘビーローテーション曲の「Not Queen」を妖しくパワフルに歌い上げる。華奢な身体から放たれるシャウトの鋭さと声量にただ圧倒される。彼女が歌いながら空中に手を伸ばすと、シアー素材の衣装の輪郭が逆光の照明に透けて、幻想的な雰囲気を作り出した。続く「ゴールデンタイム」では自らクラップを煽り、「いいねえ皆!」と嬉しそう。ミステリアスでありながら熱量は高く、明るいキャラも垣間見える。ステージを右へ左へ動き回り、ハイトーンボーカルを響かせる度にぞわぞわと鳥肌が立ち、底知れぬ魅力を感じざるを得なかった。
「エーミール」からはギアをアップ! 「いくぜ大阪~!」と煽り、リズムに乗せてグルーヴィに歌声を放つと、オーディエンスも左右に手を振り会場はひとつに。MCでは逆光の中で「見に来てくれてありがとうございます! 皆めちゃくちゃノッてくれてて、大阪大好き~!」と嬉しそうに叫び、「大切な人を思って聴いてくれたら嬉しいです」と「学級日誌」を披露。
コーラスパートの同期でぐんと世界観を広げ、歌声はより迫力を増す。さらに切ないメロディラインとダイナミズムが美しく共存した「Soap Flower」、ストリングスも入った揺れるように柔らかな「夢遊病」、クールなナンバー「青と棘」を経て、「ここからが紫 今のライブの本番です! ついてこれますか!」と叫んで惹きつけ、「フラットライン」を投下。フロアはハンズアップ&ジャンプで盛り上がる。ラストはSNSでバイラルヒットした「凡人様」を力強く歌い上げ、すさまじいハイトーンのフェイクをお見舞いして30分のライブを終えた。中毒性の強い、さすがのステージングだった。
Billyrrom
Banana Hallのトリをつとめたのは、2020年に東京・町田で結成されたBillyrrom。Mol(Vo)、Rin(Gt)、Shunsuke(Dr) 、Taiseiwatabiki(Ba) 、Leno(Key.Syn)、Yuta Hara(DJ.MPC)の6人がステージに並ぶとそれだけで存在感がある。まずはバンドセッションでファンキーにフロアを盛り上げる。Molは楽しそうに「自由に楽しんでって!」と叫び、「Defunk」をプレイ。のっけからオーディエンスは手を挙げてダンス!
それぞれソロの見せ場も作り、気持ちの良い疾走感で軽快に挨拶代わりの1曲を披露した。続く「Danceless Island」では、Molの開放的な歌声や華麗なキメが炸裂。時折入るDJのスクラッチも小気味良い。MCでMolは「大阪の人っていつも良いですよね。すげえあったかいんだわ」と笑顔を見せ、「せっかく来たからには後悔させないんで、楽しんで帰って!」と頼もしい言葉で会場を盛り上げた。
後半はLenoのシンセサウンドがアーバンな「Noidleap」をソウルフルに披露。Rinのギターソロも絶好調で唸りをあげる。さらに「すき家」のCMソングでもお馴染みの「Eclipse」を大阪初披露。オーディエンスはメロウなサウンドにゆらゆらと身体を委ねる。バンドの実力の高さを感じさせるアレンジや、一度聴くと耳に残るメロディーが見る者の記憶に刻まれてゆく。
そしていよいよラストパート。ピアノ、ベース、パーカッション、ビート、ギターと順にジョインして最高のグルーヴを作り出した「Solotrip」でファンクネスにブチあげ、Molのボーカル力がしっかりと提示された「Magnet」を経て、ラストは最新曲で重厚感のある「DUNE」を大迫力でプレイ。さらに特別にアンコールまで駆け抜けて、たっぷりと豊穣の時を届けてくれた。Molは満足そうに「最高だ大阪ー!」と叫び、メンバーも皆一様に充実の表情を浮かべてステージを後にした。
This is LAST
大トリはThis is LAST。UMEDA CLUB QUATTROには、3階まで客席が埋まるほどのオーディエンスが集まった。SEが流れ、鹿又輝直(Dr)とサポートベースの芳井雅人が登場。やがて菊池陽報(Vo.Gt)が現れて3人で気合を入れる。菊池が「千葉柏から、This is LAST始めます!」と明るく放ち、「恋愛凡人は踊らない」から軽快にライブスタート。キャッチーなサウンドが耳に心地良く、安定感と余裕を感じる演奏で、自然と身体が揺れる。菊池が「俺のギターソロ!」と嬉しそうに前に出てソロをキメると、フロアはクラップの嵐が発生。それを見た菊池は「最高ありがとう!」と満面の笑顔を浮かべる。
もはや1曲目からワンマンかと思うほどの盛り上がり。とはいえ長丁場であり、オーディエンスに疲れの色が見えたのか、菊池が「もっといこうぜ!」と煽ると、火を点けられたフロアはクアトロの床が揺れるほどのジャンプで応える。続けて「病んでるくらいがちょうどいいね」で人間臭さを肯定し、「カスミソウ」で<ありがとうね>と失恋ソングながら感謝を伝える。バンドからのメッセージを受け取ったフロアは、ずっと手があがり続けていた。
MCでは菊池が「始まった瞬間すごいワクワクしてくれて、俺らもめちゃアガってます。ほんとありがとう!」と述べ、後半戦へ。バラード曲の「アウトフォーカス」「Any」であたたかく会場を満たした後、菊池は「今は自分が関係ないところで評価される時代だけど、俺が一番大事にしているのは、ライブハウスで目を見て生の音楽を聴きに来てくれるあなたのこと。誰に何と言われようと、自分がカッコ良いと思うものを貫くのが一番カッコ良いと思います。俺はそうやって生きてきて、間違いも恥ずかしい思いもたくさんしてきたけど、あなたの前で曲を鳴らして歌えるこの時間が何よりも大切です。1分1秒全部カッコ良いライブにします」と力強く語り、勢いよく「ディアマイ」を投下した。
熱量高く突入したラストチューン「オムライス」では、菊池が「デカい声聴かせてくれます?」と最前柵に足をかけてオーディエンスの手を握り、コール&レスポンス。大興奮のフロアを「全員優勝です!」と肯定して、最後は3人で思い切りフィニッシュ。何度も感謝を述べてステージを去っていった。シンプルで飾らないサウンドは人々の胸を打った。
こうして『THE BONDS 2024 GIGANTIC TOWN MEETING』は大団円で終了した。個性豊かなアーティスト揃いで、刺激をもらえる1日だった。そして次は夏のジャイガだ。ぜひ7月20日(土)・21日(日)の『OSAKA GIGANTIC MUSIC FESTIVAL 2024』で再会しよう。
取材・文=久保田瑛理 写真=オフィシャル提供(撮影:桃子)