6月29日は【ビートルズの日】伊藤銀次が語る!ビートルズは何がすごかったのか?
シングル盤の時代から、アルバム重視の時代へと、世界を牽引していったビートルズ
ビートルズの何がすごいって、それはとりもなおさず、それまでのポップスターのありかたを何もかも変えてしまったことだと思う。
1960年代初期、リバプールから突然現れた彼らは、湯水のようにヒット曲をリリース、本国イギリスだけでなく全米にも進出。そしてあっというまに世界を席巻してしまったのだけど、そこからの彼らがすごかった。
その人気にあぐらをかくどころか、その人気を借りて、音楽シーンをシングル盤の時代から、アルバム重視の時代へと、世界を牽引していったところがすごいのだ。
中でも『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』がシーンにあたえた影響はとても大きい。同時代の多くのアーティストやバンドは次々とこのアルバムのような “トータル・アルバム” をこぞってリリースするようになり、“ロックアーティストはアルバムで” という時代が来ることになる。
マルチメディアな存在となった最初のアーティスト
ビートルズ登場以前、シングル盤中心のポップスの時代では、だいたい歌詞のテーマはラブソングと決まっていたが、彼らは「ペイパーバック・ライター」や「シーズ・リーヴィング・ホーム」などの、それまでのポップミュージックではとりあげなかったさまざまなテーマをまるで一編の短編小説を読んだ時のような質感の作品をつぎつぎ発表していった。
これも当時の他のアーティストたちに大きな影響を与えたね。これはボブ・ディランやサイモン&ガーファンクルと共に大きな功績だといっていいと思う。
さらに、好奇心旺盛な彼らが、インド音楽を取り入れたり、「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」のようなアヴァンギャルドなアプローチをはじめたり、音楽的にも冒険を始めたことが結果として、それまでのポップスシーンでは市民権のなかったプログレッシブ・ロックやブルース・ロックなどのさまざまなジャンルの門戸を開けることになった。そして、それまでになかった多重録音を駆使するようになったことがのちのマルチチャンネルの登場を促すことになったことも見逃せないね。
もちろん、当時としてはありえなかった、男性の長髪化の始まりでもある。デビュー当時のマッシュルームカットで衝撃を与えた彼らは、その後も常識にとらわれないカラフルな衣装を身にまとい、音楽のみにとどまらずに、ファッションを含めた、今日で言うマルチメディアな存在となった最初のアーティストのような気もしてくる。
「自由で開かれた音楽シーン」はビートルズから始まった
だが、数多くあるビートルズのすごさの中でも、僕が一番すごいと思うのは、彼らがただ歌うだけでなく、自らオリジナルソングを作詞作曲し、自らそれを編曲し演奏するという、なんでも自分たちでやっちゃうという画期的なスタイルでシーンに登場したことだった。
それまでの音楽シーンではだいたい、声やルックスのよい歌手が、プロの作詞家、作曲家が書き下ろした曲をプロの編曲家がアレンジして歌うという、分業システムでレコード制作されていた。しかし、なんと彼らはそれを打ち壊して、全部自分たちでこなしてしまうという、当時としてはかなりな離れ業をやってのけていたのだった。
しかも彼らは明らかに音楽学校で正当な音楽教育を受けていたわけではなかった。そのことが世界中のティーンエイジャーたちに “ひょっとしたら、僕にも曲が作れるかも” という気にさせたことの功績は大きい。
その後の “自由で開かれた音楽シーン” はここから始まったといっても過言ではない。かく言う僕もその1人で、あくまで我流でギターを勉強し、レコードから多くをコピーし、そこからやがてはオリジナルソングを作り始めたのはまさにビートルズの影響からだったのだ。
何事にもとらわれない無邪気さこそが彼らの一番の魅力
現在では誰もが曲を作り、曲作りがそれほどめずらしいことではないけれど、ビートルズが出てくる1960年代初期までは、誰もが、曲なんてやっぱりちゃんとした音楽教育を受けてないと作れないと盲信していた。
そんな時代に、当時のアメリカンポップスに憧れていたジョンとポールがコンビを組んで、リバプールの互いの家で、キャロル・キング&ジェリー・ゴフィンというヒットメーカーの作詞&作曲コンビを真似て曲作りをなんの疑問もなく始めたことを思うと、もちろん音楽的な才能に恵まれていたからこそできたことだけれど、まず偏見にとらわれずにトライした彼らの何事にもとらわれない無邪気さこそが一番の魅力だ。そして一番のすごさなんだと思えてくるのだ。どうもジョンもポールもこんなリバプールという田舎町の僕たちにできることだから誰でも曲が書けると思っていたらしい。
最後に、彼らの登場がきっかけで、1965年あたりからザ・バーズやラヴィン・スプーンフルのようなビートポップ・グループ全盛の時代がやってきた。そのおかげで、皮肉なことにキャロル・キング&ジェリー・ゴフィンなどの、それまでのプロフェッショナルな作詞家&作曲家たちの仕事が激減することになる。そこでキャロル・キングたちは自ら歌うことになり、そのことがシンガーソングライター・ブームの背中を押すこととなる。これも数あるビートルズ登場による影響のひとつだと言ってもいいだろう。
※2023年6月29日に掲載された記事をアップデート