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東京バレエ団の名花・沖香菜子に聞く~クリスマスを幸せいっぱいに包み彩る『くるみ割り人形』の魅惑

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東京バレエ団・沖香菜子

創立60周年シリーズが佳境に入ってきた東京バレエ団のプリンシパル(最高位ダンサー)として円熟期にあるのが沖香菜子だ。4歳よりバレエを始め、2008年9月、文化庁新進芸術家の海外研修制度に合格し、ボリショイ・バレエ学校に留学。翌2010年に東京バレエ団に入団し、2018年4月よりプリンシパルを務め活躍している。近ごろ産後復帰を経て、一段と踊りと演技に輝きを増している沖に、近況や2024年12月に踊る『くるみ割り人形』の主役マーシャ役(出演予定日:東京公演 12月13日(金) 兵庫・西宮公演 12月25日 (水))へ抱負を聞いた。


■産休からの復帰、新境地を切り拓いた『かぐや姫』の影姫

――2022年春、産休に入り、2023年4月に金森穣氏(演出振付家、舞踊家、Noism芸術総監督)の新作『かぐや姫』第2幕の影姫で舞台復帰されました。経緯を教えていただけますか?

2022年4月の『ロミオとジュリエット』を最後にお休みをいただきました。その前に、穣さんが『かぐや姫』第2幕の振付に来られていたので、影姫を踊ってみたいという気持ちがありました。第2幕の上演が2023年4月だと決まっていたので、そこで復帰できればと考えました。

出産の三週間くらい前までレッスンをしていましたが、子どもを産むと筋力がすぐになくなりました。なので、復帰できるのかどうか不安でした。今思えば身体の状態が戻っていませんでしたが、一日一日のリハーサルの中で「昨日よりも今日の方が動くことができた」「今日よりも明日の方がよくなっている」と感じていました。本番を踊ることができてよかったです。

――お姫様役や愛らしい役柄に定評がありますが、『かぐや姫』では帝の正室で強烈な存在感を放つ影姫を演じ話題となりました。踊られてみていかがでしたか?

本番の1年くらい前、影姫に配役されたとき、穣さんは私をそういう強い性格の役が合うと思われたようです。その頃、クランコ振付『ロミオとジュリエット』のリハーサルをご覧になって「ジュリエットをやるの?真逆(のキャラクター)じゃないの?」と感じたそうです(笑)。穣さんからすると、ジュリエットの方が私には合わないイメージだったんですよ。

影姫は原作にはない役柄で、演技に正解がないため難しかったです。影姫の人物像を自分がどこまで深く掘り下げられるのか。役の深みを創っていくという、新しい自分の持っていき方がおもしろかったです。演じる度に変わっていった部分もあったと思うし、去年の秋に第3幕を加えて全幕上演したときにはまた変わったでしょう。よい経験になりました。


■バレエとの新たな向き合い方とは

――その後、2023年11月の新制作『眠れる森の美女』を皮切りに、『くるみ割り人形』、ブルメステル版『白鳥の湖』、クランコ振付『ロミオとジュリエット』、2024年8~9月の創立60周年記念祝祭ガラ〈ダイヤモンド・セレブレーション〉に至るまで大舞台での主演が続きました。産後復帰を経て、踊りへの向き合い方に変わった点はありますか?

出産前は自分の時間だけを生きていました。バレエ団にいる間も、リハーサル後も自分だけの時間でした。でも、今はリハーサルをしている時間が終わると、子どものことを考えなければいけないので、自分だけの時間ではなくなりました。そうする中、自分がバレエに向き合える時間をより大切にできるようになりました。

――レッスンやリハーサルの一つひとつが、より濃いものになったということですか?

そうですね。すごく変わったと思います。一度筋力が落ちると前と同じようには動けない部分もありましたので、今度はどのように身体を動かしたらいいんだろうかと、あらためて自分の身体を見つめるようになりました。それまでとは違う考え方もできるようになりました。たとえば、筋肉の一個一個のどこが動いているのか、あるいは動いていないのかを意識できるようになりました。そこは大きな違いです。

――2013年の全幕初主演から11年、2018年のプリンシパル昇格から6年。今や女性ダンサーの筆頭格です。心境など何か変わってきたことはありますか?

以前から自分が引っぱらなければいけないとは考えてはいなかったですし、今もそう感じていません。むしろバレエ団のダンサーたちの踊りを見て、私がエネルギーをもらっています。「本当に素晴らしいバレエ団だな!」と感じます。産休中はバレエ団の一番のファンかもしれないというくらい客席から舞台を観る機会があり、リハーサルも見学していました。東京バレエ団は、個々のダンサーのレベルが高く上手いですが、それだけでなく皆で舞台を創り上げる気持ちが強いんですね。全員で同じところを目指すことができている。踊っていてもそう感じます。


■プリンシパルが語る、斎藤友佳理版『くるみ割り人形』の魅力

――東京バレエ団が現在上演する『くるみ割り人形』全2幕は、団長の斎藤友佳理さんが芸術監督時代の2019年12月に改訂演出/振付を手がけ新制作初演しました。その際、主役の少女マーシャを踊ったバレリーナの一人だった沖さんは、斎藤さんが作品に込めた思いをすぐ側で受け止めていらしたかと思います。当時のリハーサルで印象に残っていることは?

友佳理さんが創り上げた『くるみ割り人形』では、マーシャが第2幕でクリスマスツリーの中に入り込むという発想が新しい視点で夢があります。クリスマスに観にきてくれた子どもたちが家に帰ってツリーの中を覗いてみようと感じてくれたらいいなと思ったのを覚えています。

――斎藤版『くるみ割り人形』のこだわりについて、もう少しお聞かせください。

マーシャの年齢設定が7歳です。以前のバージョンではもう少し上の年齢設定をしていたので、そこが新しくなりました。第1幕のマーシャの家でのパーティー場面では登場人物全員に名前と人物設定があります。そこも新しかったですね。以前は大人客、子どもというように別れていただけですが、今は誰が誰の子どもで仕事は何をしているかも設定が決まっています。

――実際に踊って感じる魅力とは?

見終わった後に幸せな気持ちしか残りません。バレエをご覧になったことのない方でも『くるみ割り人形』の音楽は耳にされているはずです。季節感も味わえます。でも、グラン・パ・ド・ドゥそれに雪の情景の場面のアダージョも同じですが、マーシャがパ・ド・ドゥを踊る場面はどこか物悲しさもあります。幸せだけど、気が付くとなぜか涙が出てくるような音楽。心が温まり、幸せな気持ちになる素晴らしい作品です。

――好きな場面はどこですか?

第1幕後半の雪のパ・ド・ドゥが好きです。7歳のマーシャが、7歳ではなくなる瞬間です。友佳理さんのこだわりといえば、大事なくるみ割り人形が壊れてしまったときのマーシャの動きと、ねずみの王様との戦いの場面で倒れてしまったくるみ割り王子を観て泣く動きが同じなのです。でも、振りは同じであっても違いを出さなければいけないと思うし、友佳理さんもそう望むでしょう。そこで違いを出そうとすると、精神年齢が変わります。おもちゃの人形が壊れてしまって泣いたときと、すぐ側にいる人間の王子が動かなくなったかもしれないと感じたときとでは違う。王子との場面でマーシャは7歳ではなくなるのだろうなと私は思います。


■「クリスマスの思い出となる舞台にしたい」

――第2幕でくるみ割り王子と踊るグラン・パ・ド・ドゥは大きな見せ場ですね。

アダージオは厳かというか神聖な気持ちで踊り始めます。その後は曲の盛り上がりに合わせて振付もリフトが増えてきます。音楽に導かれるままに踊っていけばいいのかなと考えています。

――くるみ割り人形/くるみ割り王子は柄本弾さんです。全幕作品では、ノイマイヤー振付(2014年)とクランコ振付(2022年、2024年)の『ロミオとジュリエット』、2021年の『ジゼル』で組んでいますが、チャイコフスキー三大バレエで主演として組むのは初めてですね。

弾さんは私がマーシャを踊るときにドロッセルマイヤーを演じていたので、そのイメージが強いかもしれませんが、また新しい気持ちで臨みたいです。弾さんと踊ると安心感があり、信頼できます。バレエ団で長く過ごして多くの経験があるので、私をよく見て対応してくれます。また新しい舞台の見え方になると思うので、どのような景色になるのか楽しみです。

――公演を楽しみにされているお客様、読者の方々に一言お願いします。

年末に『くるみ割り人形』をご覧になると、クリスマスをより楽しめると思います。チャイコフスキーの音楽にのせて、マーシャという女の子の成長物語をお届けします。「ああ、こんなクリスマスを過ごしたな」と何年経っても思い出していただけるような舞台にしたいです。

取材・文=高橋森彦
撮影:中田智章
衣裳協力:チャコット株式会社
お問い合わせ:0120-155-653
マイクロショート丈ニットトップ、キャミソールレオタード、巻きスカート

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