ゲイリー・ムーアの息子ジャックが新曲「A Part Of Me」発表、「できる限り表現や探索を続けていきたい」
ゲイリー・ムーアの息子の一人であり、ギタリストとしても活躍中のジャック・ムーアが、ヴォーカリスト:クウェンティン・コヴァルスキーとの名義でシングルの連続リリースを行なっている。これらはジャックがソロ・アーティストとして発表する初の作品群であり、2024年12月には第1弾となったアコースティック・バラード「In My Shoes」を発表して話題を呼んだ。そして2月7日、2ndシングル「A Part Of Me」がリリース。今度は打って変わってギター・ソロも聴かせるロック・バンド・スタイルとなっている。
過去にはゲイリーのトリビュート・アルバム等への参加やスミス・ライル&ムーアやなどで知られたが、今年はソロ・アルバムの発表も予定していると言うジャック。最新曲から感じられる父:ゲイリーのニュアンスなども含め、偉大なる遺伝子を受け継ぎながら自らのカラーも持ち合わせ、いちミュージシャンとしてさらに活躍を広げていく彼の今後が楽しみである。奇しくもリリース前日の2月6日はゲイリーの命日。このインタビューでは、最新シングルに込められた思いや今後の展望から、ゲイリーとの思い出、さらに昨年末に亡くなったジョン・サイクスとの意外なつながりなど、様々な話を聞かせてくれた。
シン・リジィはインスピレーションの源だ
YG:昨年末にリリースされた新曲「In My Shoes」についてお聞きします。こちらは穏やかなアコースティック・バラードで、歌詞は親から受けた価値観を受け継ぎ自らの人生に活かしていくといった内容とのことですが、具体的なコンセプトを教えてもらえますか?
ジャック・ムーア(JM):ありがとう! そうだね、生い立ちや両親の価値観が子どもの頃にどんな風に植え付けられ、…また僕達自身が大人になった時、どう実践していくかといったことをテーマを探求している、と言えるかな。
YG:ヴォーカルを務めたクウェンティン・コヴァルスキーはどのようなミュージシャンですか? また、どんな経緯で知り合ったのでしょうか?
JM:クウェンティンに会ったのは、僕の父親のトリビュート曲を作っている時のことだった。僕達はお互いに相手を補完できる才能があったと思うし、もともと同じ種類の音楽を好んでいた。だからとてもオーガニックな形でコラボが進んでいったよ。
Quentin Kovalsky
YG:イントロのエレクトリック・ギターのハーモニーがシン・リジィ「Southbound」などを彷彿させ、とても心地好い印象です。シン・リジィには他にもダンサブルなシャッフルのリフなど様々な魅力がありますが、あなたがリジィからご自分が影響を受けたもの、またお好きな要素というと、こういったメロディックなアイデアなどになるのでしょうか?
JM:僕はシン・リジィを聴いて育ってきた。彼らの音楽には本物の魅力とユニークさがある。そしてアイリッシュ・スタイルをとても素晴らしい形で提示しているね。彼らの曲の中に広く行き渡っている美しメロディやハーモニーをずっと愛してきた。彼らこそインスピレーションの源だよ。
Jack Moore
YG:そして2月7日リリースの新曲「A Part Of Me」はブリティッシュな響きのあるロック・ソングで、エレクトリック・ギターのバンド・アンサンブルです。サビ終わりで、コードが急にメジャーからマイナーに移り変わるところにグッときますね。
JM:まったくだ、ヴァースからの変わりようが面白いよね(笑)。ヴァースのギター・リフを元にジャムっていたら、あっという間に出来たんだ。キャッチーだけどクラシックなフィーリングもある。サビのフレーズも楽しいし、ヴォーカルのリズミカルな歌い回しも覚えやすいと思う。バック・ヴォーカルもフックになっているしね。
YG:こちらはどんなメッセージが込められているのですか?
JM:この歌詞は、人生における大きな変化を起こす勇気を持つこと、自分の周りに適切な人々がいることがもたらす違いについて歌っている。自らを本当に信じるためには、自分を他人の目を通して見るのが必要なこともある…ということさ。
YG:ギター・ソロはロング・トーンを活かしたエモーショナルなフレージングで、ファズっぽいサウンドも印象的でした。あなたのお父上であるゲイリー・ムーアは2002年にリリースした『SCARS』というアルバムで、久しぶりにストラトキャスターに持ち替えてジミ・ヘンドリックス・スタイルの音楽性を展開しており、今回のソロもその頃のサウンドを彷彿させるように感じたのですが、あなたとしてはいかがでしょうか?
JM:それはクールだな! 実はこれは(フェンダー)テレキャスターなんだ。僕の友人のアレックスのものでね…ありがとう、アレックス! それを直でD.I.に接続して、自分の好きなファズ・サウンドに仕上げたよ。
YG:ソロの弾き終わりでピックアップのセレクターを素早く動かしている効果音的な箇所がありますが、その音が左右に交互にパンされていますよね。これはどうやっているのでしょうか? スタジオで加工されたもの?
JM:そうそう! ちょっとクリエイティヴなソロにしたかったんだ。ポスト・プロダクションの段階で、パンを左右に振り切った。ヘッドフォンで聴けばより際立つはずだ。印象に残るソロになったんじゃないかな。
YG:ところで、『SCARS』リリース時にYGで行なったゲイリーへのインタビュー(2002年10月号掲載)によると、当時システム・オブ・ア・ダウンが気に入っていることに触れ、「きっかけは14歳の息子なんだ。彼もギターを弾き始めたから、たまに教えたりするんだけど、最初に教えて欲しいと言ってきたのがシステム・オブ・ア・ダウンの“Chop Suey!”(’01年『TOXICITY』収録)のイントロ部分だった」と話していました。この息子さんというのはひょっとして、あなたのことではないでしょうか?
JM:ハハハ、多分それは僕だろうね。当時はさんざんメタルを聴いていたから。自分が親父の好みの幅をちょっと広げるきっかけになったんだと思うよ。逆もあったしね! 面白いことに、親父のおかげで僕はジミ・ヘンドリックスのようなプレイの繊細なニュアンスを理解することができた。2人とも、ヘンドリックスに大きな親しみを感じていたよ。
YG:この2曲で使われたギターやアンプなどの機材を教えて下さい。
JM:今思い出せるのは、ソロでテレキャスターを使ったこと、バッキングでエピフォンの“DOT”を使ったこと。どちらもD.I.で録って、いくつかアンプ・モジュールに通して音作りを行なった。アンプの中にはピーヴィーも含まれていたよ。
YG:ありがとうございます。今年はアルバムを出す予定があるようですが、どんな内容でいつ頃完成予定ですか? また今後もそのアルバムに収録されるシングル曲が少しずつ出てくるのでしょうか?
JM:うん、もっとたくさんシングルを出すつもりだ。とても多様なスタイルが混ざっていて、そこにアイデンティティが感じられるものになっている。次のシングルはブルージーな方向にも行くし、こういうのが入っているのも面白いと思うよ。
YG:アルバムが完成したら、クウェンティンとともにライヴに出る予定もありますか?
JM:ああ、ヨーロッパのショウを計画しているよ。クウェンティンはもちろん一緒だし、他にも腕利きのプレイヤーが参加する予定だ。
父は、僕の道を進んでいって欲しいと思うだろう
YG:さて、ギター・レジェンドとして世界中から慕われたゲイリー・ムーアの2月6日の命日に際して、以前もインタビューに答えてくれましたが、改めてお話を聞かせて下さい。昨年12月頃、あなたはご自身のFacebookでアルバム『DARK DAYS IN PARADISE』(1997年)をお気に入りに挙げていました。本作はゲイリーがそれまでのブルース路線からポップ/ハード・ロック路線にシフトしただけでなく、エレクトロニックな要素を取り入れる、新たなチャレンジを行なった作品でしたね。あなたが10歳の頃のアルバムだったようですが、どんな思い出がありますか?
JM:ああ、あのアルバムは大好きなんだ。とても正直で深みのある作品だと思っている。歌詞も美しく思慮深く、自らの子供の頃の経験を印象的な形で掘り下げた内容になっている。レコーディングはフランスで行なわれ、その間中僕も一緒にいた。それもあって、聴くたびにとても個人的なものに思えるんだ。
YG:ゲイリーはあなたにあまりギターを弾くことを強要されなかったそうですね。具体的にはヴィブラートを学ぶように言われたそうですが、あまり教えすぎないという姿勢だったと…。
JM:確かに、そういうところを本当に尊敬しているよ。情熱や自らの価値観、アイデンティティを形成していく上で最高の方法だと思う。クリエイティヴィティや何かに愛情を注ぐことは強制されてできるものじゃない。自然に花開いていくべきなんだ。ただ水やりをしながら、いつか陽の光に向かって伸びていくことを願うしかないんだよ。
YG:今後ゲイリーの音楽をどんな風に受け継いで行きたいですか?
JM:きっと父は、僕の道を進んでいって欲しいと思うだろうけど、父からの影響は常にどこかしらで顔を出している。それは僕自身のプレイからも聴こえてくると思う。だけど、とにかくもっと多くの音楽を世に出してみんなに楽しんでもらいたい。自分にできる限り、表現や探索を続けていきたいんだ。
YG:また先ごろ、ゲイリーを慕っていたジョン・サイクスも亡くなってしまいましたね。
JM:実は亡くなる前に連絡を取ろうとしていたんだ。僕の曲に参加してもらいたくてね。信じてもらえるか分からないけど、ジョンは僕の父と母が出会う大きなきっかけになった人物だ。だから訃報を聞いて、とても悲しかったよ。
YG:そうだったのですね。お気持ちお察しいたします…。では最後に、あなたの今後の作品を楽しみにしている日本のファンに向けて、メッセージをお願いします。
JM:日本はいつだって訪ねてみたいと思っている夢の場所なんだ。今はとにかく、僕の音楽を楽しんでもらいたい。今後もっと多くの曲を届けるよ! ありがとう。
INFO
A Part Of Me / Jack Moore, Quentin Kovalsky
2025年2月7日 発売 | 配信
SpotifyApple Music
In My Shoes / Jack Moore, Quentin Kovalsky
2024年12月26日発売 | 配信
SpotifyApple Music公式インフォメーションJack Moore Facebook
(インタビュー&文●蔵重友紀 Yuki Kurashige)